「オープン球話」ヤクルト日本一 特別回
【「オリックスの4勝3敗」を予想していた】
――さて、今回は特別編として「ヤクルト日本一」について、OBである八重樫さんに感想を伺いたいと思います。八重樫さんはシリーズ前にはどんな展開を予想されていましたか?
八重樫 僕はオリックスの投手陣に脅威を感じていましたね。みんなが言うことかもしれないけど、山本由伸、宮城大弥の両先発はもちろん、先発陣もリリーフ陣も個性的なピッチャーが揃っていますから。
日本シリーズ初戦で7回1失点の好投を見せたヤクルトの奥川
――対戦成績の予想はどうでしたか?
八重樫 ヤクルトOBとしては「スワローズに勝ってほしい」という気持ちはあったんだけど、申し訳ないけど「オリックスの4勝3敗」を予想していました(笑)。でも、その予想は初戦を見てすぐに撤回しましたけどね。
――初戦はオリックスが山本投手、ヤクルトは奥川恭伸投手が先発しました。ヤクルトのリードで迎えた最終回にマクガフの乱調もあってオリックスがサヨナラ勝ちを収めています。
八重樫 僕の中では、山本由伸は絶対的なピッチャーだったんだけど、ヤクルト打線はきちんと粘って食らいついていました。
――高卒2年目の奥川投手をシリーズ初戦に起用するのも大胆な作戦ですね。
八重樫 でも、今年の奥川くんは、特にシーズン終盤にかけては圧倒的に頼りになるピッチャーでしたから。CSでも日本シリーズでも気負うことなく、普段通りのボールを投げている姿を見て、「ただ者じゃないな」と感じたし、高津監督が信頼するのも当然のことだと思います。
――詳しく教えてください。
八重樫 3勝2敗で迎えた第6戦、「中6日で奥川くんを先発させるのかな?」と思ったけど、シーズン通りに決して無理させることはしなかった。普通の監督なら、第6戦で奥川くんを使いたくなるところだけど、そこをグッと我慢した高津采配は見事でした。
【広岡、野村、若松、歴代優勝監督との比較】
――八重樫さんは現役時代に広岡達朗監督、野村克也監督の下で日本シリーズを経験しています。日本シリーズのような短期決戦は、「普段通りの戦い方」がいいのか、「臨機応変に柔軟な戦い方」がいいのか、どちらだと思いますか?
八重樫 広岡さんの下で優勝した1978(昭和53)年の時は、チームとしては創設29年目の初優勝だったし、僕たちも初めての経験だったので、決して「普段通り」ということはなかった気がしますね。むしろシーズン中よりも、もっともっと気合いを入れていたし、首脳陣たちも、意識的に選手たちに発破をかけていた感じがします。
――1992(平成4)年、翌93年、野村克也監督時代の日本シリーズはどうですか?
八重樫 あのときは、古田(敦也)とか、池山(隆寛)とか、若くてお祭り好きな選手たちが多かったから、緊張しつつも選手たち自ら盛り上がっていたイメージがあります。野村さん時代は「遊びがない」というのか、ピッチャーの起用についても、「とにかく目の前の試合に勝とう」という意識が強かったと思います。
――92年、93年はともに黄金時代の西武ライオンズが相手でしたから、それも当然のことなのかもしれないですね。ちなみに、八重樫さんが一軍打撃コーチだった2001年の若松勉監督時代、大阪近鉄バファローズとの日本シリーズは、どんなムードで戦いましたか?
八重樫 あの頃はどうかな......。選手たちはのびのびやっていたけど、古田、池山、宮本(慎也)、稲葉(篤紀)など日本一経験者が多かったので、選手たちの自主性に任せる部分が多くて、首脳陣があれこれ口を出した印象はないですね。
――それを受けて、今年の「高津ヤクルト」はどうでしたか?
八重樫 もともと明るい性格だけど、監督になってからは辛抱強さ、我慢強さを発揮しているように見えるし、いい意味で頑固だと思いますよ。
【奥川の奮闘がチーム全体に勇気を与えた】
――結果的に全6戦を行なって、ヤクルトの4勝2敗という結果に終わりました。八重樫さんが選ぶ、両チームのMVPは誰でしょうか?
八重樫 繰り返しになっちゃうけど、ヤクルトのMVPは奥川くんだと思います。結果的に初戦にしか登板していないし、この試合自体は負けてしまったけれど、初戦で彼が見せたピッチングはチーム全体に勇気を与えたと思うんですよ。
――「プロ2年目の奥川でも抑えられるんだ」という勇気ですか?
八重樫 それもあるかもしれないけど、まだ20歳の若者が日本シリーズという大舞台で、山本由伸という日本を代表する大エースと堂々と投げ合っている。その姿を見れば誰だって、「オレたちも頑張らねば」という思いになるでしょう。
――なるほど。オリックスサイドで印象に残った選手は誰ですか?
八重樫 オリックスサイドでは「この選手だ!」と強く言い切れるような選手はいなかったです。吉田正尚にしても、杉本裕太郎にしても、ある程度の活躍はしたけど、シリーズ全体を通じて見ると穴もありましたから。強いて言えば、山本由伸が初戦と第6戦で気持ちの入ったいいピッチングをしましたね。でも、オリンピックのときのほうが圧倒的な存在感がありました。
――八重樫さんとしては日本シリーズよりも、オリンピックのときのほうが調子がよかったと感じられましたか?
八重樫 間違いなくそうですね。オリンピックでは低めへのボールが徹底されていた印象があります。もしもオリンピックのときの状態だったら、日本シリーズでも2勝はしたんじゃないですかね。ただ、いずれにしても今年の日本シリーズは、ヤクルトもオリックスも本当によく頑張ったと思いますよ。今年のヤクルトを見ていて、僕はあらためて「広岡ヤクルトと似ているな」と思いました。
――どういう点が「広岡ヤクルト」時代と似ているんですか?
八重樫 78年はマニエル、ヒルトンという外国人がいて、今年はオスナ、サンタナという2人の助っ人がチームに溶け込んで頑張っていましたよね。特別なスターもいなく、みんなでひとつの勝ちを奪いにいく姿勢も似ていた気がします。
それに、かつては「管理野球」と呼ばれた広岡さんに対する反発でチームはひとつになったけど、今年は高津監督の心遣いによってチームがまとまった。理由は違うけど、チームの団結力に関しては78年と似ていたような気がします。本当にいい日本シリーズでした。両チームの選手たちには感謝の気持ちでいっぱいです。