中村俊輔 FKインタビュー 前編

日本随一のFKの名手である中村俊輔選手は、他のフリーキッカーをどのように見ているのだろうか。今回は本人に、これまで見てきた世界中のサッカー選手のなかから、歴代フリーキッカーのトップ10を選んでもらった。

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中村俊輔が選ぶ歴代フリーキッカートップ10。本人がお手本にし...の画像はこちら >>

あの中村俊輔が「自分とは次元が違う」というキッカーたちを選んだ

 今回は、自分がこれまで衝撃や強く影響を受けてきたキッカーを選出しました。どの選手も自分とは次元の違うキッカーであるのは大前提として、順位はつけましたが、10位から4位まではレベルや価値、評価は同率という感覚です。上位3人はそこからさらにレベルが1段上の選手たちだと思います。

10位:ロベルト・カルロス(ブラジル/元レアル・マドリードほか)

 ロベルト・カルロスを上の順位にする人は多いと思います。ただ、今回のランキングのなかではゴール数がそれほど多くないので、この順位にしました。

 彼のFKの特徴は直線的な球筋だけどスピードがある弾丸シュート。

GKの反応が遅れてゴールが決まる感じでした。

 彼のあとにアドリアーノ(ブラジル/元インテルほか)など、強烈なキックを持つ選手がいろいろと出てきましたけど、この分野ではロベカルが歴代で一番だと思います。

 それからブラジル人のサイドバックは、アウトサイドキックが得意な選手が昔から多いんですが、彼はそれをFKでやってしまう。僕が最初に見たのがインテル時代で、その衝撃は今でも覚えています。

 レアル・マドリード時代もアウトサイドで壁の横からGKが構えている側にFKを蹴ったりすることもありました。当時は強烈なストレートで突き刺す左利きのロベカルの横に曲げて落とす右利きのデビッド・ベッカム(イングランド)が立っていて、GKはタイミングをとるのが難しく、本当に脅威だったと思います。

 ロベカルのフリーキックでもっとも象徴的なのは、1997年トゥルノワ・ド・フランス(のちのコンフェデレーションズカップ)のフランス戦で、アウトサイドで壁の外側を巻いて直接決めたFKですね。FKのゴールの質ランキングでは、あのゴールはトップ3に入ると思います。

9位:ジーコ(ブラジル/元フラメンゴ、鹿島アントラーズほか)

 ジーコは、自分のなかではディエゴ・マラドーナと同列です。ただ、右利きのジーコより、左利きのマラドーナをより参考にしていたので、この順位になりました。2人のプレーを見て「10番とはこういうものだ」と植えつけられましたね。

 僕が子どもの頃、海外サッカーは『ダイヤモンドサッカー』くらいしか見る機会がなくて、イングランドの試合が多かったんです。

だからなかなかジーコの映像を見られなかったんですが、スポーツショップでフラメンゴ時代のビデオを手に入れて、それを見て勉強していた思い出があります。

 ジーコはキックの時に、ボールを擦り上げるように蹴ったあと、足を斜めに振り上げるのがすごく印象的でした。昔はそういう蹴り方をする人が多かったんですよね。

 FKで壁の頭を越して、ニアサイドに決めるのが得意な選手はたくさんいます。でもジーコはファーサイドに決めるのもすごく得意で、一番うまいと思います。インサイドキックで足に乗せるように蹴って、ファーの上の角に落として決める。

その弾道がすごく綺麗で、「こういう弾道で入るんだ」と感動して、その映像を何度も見ました。

 ジーコが日本代表監督の時にプレーしましたが、FKについては特に何も言われませんでした。ジーコが僕のキックを見て、どう思っていたのかは聞いてみたかったですね。

 でも一つだけジーコからアドバイスされたことがあります。それは「試合の前日に蹴っておくのは大事だけど、試合当日のアップの時に1本だけでいいから集中して、蹴っておいたほうがいい」ということ。試合当日の雰囲気とか、ピッチコンディションのなかで蹴っておいて、それを試合で修正できればいいと。

それは今でも印象に残っています。

8位:シニシャ・ミハイロビッチ(セルビア/元ラツィオほか)

 ミハイロビッチとは、レッジーナ時代に対戦しました。DFであれだけのキックができる人はなかなかいない。それだけ価値が高いということで、この順位にしました。

 当時のセリエAにはいいキッカーがたくさんいたなかで、参考にしていた選手の一人でした。

 彼は身長もあるので、ヒザをあまり曲げない蹴り方をするんですけど、蹴り足のバックスイングをものすごく後ろまで振りかぶるんです。

そこから叩くインパクトが強烈で、僕はあれが好きでした。

 ゴールまでの距離が長いFKだと、カーブをかける蹴り方では曲がりすぎてうまく枠を捉えられないんです。遠い距離から決めるには、彼のようにインパクトの強さを大事にして、あまりカーブをかけないようにすることが大切になります。彼のインパクト時の足の出し方と足首の角度を、僕はものすごく注目して見ていました。

 ラツィオ時代にFKでハットトリックを達成しています。僕もそんなのはやったことがありません。あの時代のセリエAはGKも世界トップレベルの選手が集まっていました。そのなかでDFがあれだけFKを決めて、キッカーとして存在感があったというのは、ちょっと異常だったと思いますね。

7位:ジャンフランコ・ゾラ(イタリア/元チェルシーほか)/木村和司(日本/元横浜マリノス)

 ゾラと和司さんは、体の柔らかさ、バックスイングからフォロースルーまでそっくりなんですよ。だから同率7位に入れました。

 2人とも身長があまりないので、恥骨からボールまでが近くなります。足の振りもコンパクトなので、いつもキックに安定感があるんです。2人のキックが枠から大きく外れることは、ほとんどありませんでした。そのキックから繰り出す、壁を越えて上から降ってくるように落ちる弾道がとにかく好きでしたね。

 2人はペナルティーエリアの外ギリギリの位置からでも、FKを決めちゃうんです。例えばリオネル・メッシ(アルゼンチン/パリSG)もそうですが、今の選手たちは、その位置からのFKでは、足にボールを乗せるように軽く"チョン"と蹴ります。でも2人は普通に遠くから蹴るようなスイングスピードで、インパクト時に普段のポイントより少し上あたりを擦り上げることで、ボールスピードを出しながら壁を越えて落とすボールを蹴れるんです。

「どうやったら2人のように上から落とすようなキックができるんだろう」と、よくキックをマネしました。この落とすキックに関しては、2人はちょっと抜けた存在でしたね。

6位:ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン/元ボカ・ジュニアーズ、ナポリほか)

 子どもの頃にマラドーナのプレーを見てから、彼のマネばかりしていました。ドリブルもそうだし、予想外のプレーもそうだし、FKにおいても影響を受けた最初の人です。キャプテンマークを巻いて、チームを先頭で引っ張っていく姿には本当に憧れました。

 マラドーナは、自分でドリブルして、自分でファールをもらって、そのFKを自分でゴールにできる。ファールをもらわなければ、ドリブルで突破してゴールを決めてしまう。

 キックの質や弾道はそこまで驚異ではないんですけど、必ず枠に入れてくるし、遠い距離でも決めてくる。

 僕が一番好きなFKは、1985年のナポリ対ユベントス戦で決めたゴールです。ペナルティーエリア内の間接FKで、味方がチョンと横に転がしたんです。ただ、マラドーナは下を向いて全然ボールを見ていなくて、まったく彼のタイミングではなかったんですが、それでも普通に壁を越えてニアに決めちゃうんです。

 普通の選手であれば、焦って蹴って壁に当てちゃうと思います。「サッカーがうまい人はどんな状況でも、何をやらせてもうまいんだな」と思いました。

 昔の10番の選手は、ドリブルもパスもキックもうまいので、だからFKもできる。「FKの練習はちょっとしておこうかな」くらいだったと思うんです。僕は昔からそういう10番タイプのフリーキッカーが好きで、自分もそうなりたかったですね。
(5位~1位を発表。後編につづく>>)

中村俊輔 
なかむら・しゅんすけ/1978年6月24日生まれ。神奈川県横浜市出身。桐光学園高校から97年に横浜マリノス入り。その後レッジーナ(イタリア)、セルティック(スコットランド)、エスパニョール(スペイン)と欧州で活躍し、2010年に横浜F・マリノスに戻ってプレー。17年からジュビロ磐田、19年からは横浜FCでプレーしている。日本代表国際Aマッチ98試合出場24得点。これまで数多くのFKを決めて、観衆を魅了してきた。