第100回全国高校サッカー選手権特集

【攻守に隙がない大津】

 打倒・青森山田――。過去3年で優勝1回、準優勝2回。近年高校サッカー界の"横綱"と称されているチームを倒すべく、どのチームも全力で立ち向かってきた。

それでも、今季の青森山田は夏のインターハイを制し、1年を通じて行なわれるプレミアリーグEASTも制覇。向かうところ敵なしの状態で最後の高校サッカー選手権を迎え、順当にベスト8まで勝ち上がってきた。

歴代最強の大津VSタレント軍団の前橋育英。高校サッカー選手権...の画像はこちら >>

高校サッカー選手権準々決勝好カードのキーマン。大津の森田大智(左)と前橋育英の笠柳翼(右)

 では、どのチームが青森山田を倒すのか。そのライバル候補と目される強豪校同士の対戦が、準々決勝で実現する。1月4日にフクダ電子アリーナで行なわれる大津(熊本県)と前橋育英(群馬県)の一戦だ。

 プレミアリーグWESTのほうで優勝争いを演じた大津は、歴代最強と言っても過言ではないほどの力を持つ。卒業後にプロ入りするタレントはいないが、攻守に隙がない。U-18日本代表候補のGK佐藤瑠星、センターバック(CB)寺岡潤一郎を軸に手堅い守りを見せ、無失点で終えた県予選に続いて今大会も3試合でわずかに1失点。最終ラインは高さに恵まれていないが、球際で強さを見せており、簡単には崩れない。

 そして、中盤の底に構える主将のMF森田大智、薬師田澪は豊富な運動量でこぼれ球を回収し、守備から攻撃に移る際のキーマンとなる。ボールを拾った森田と薬師田が素早く攻守を切り替え、パスを左右に展開。

サイドアタッカーの田原瑠衣と一村聖連が自由な発想で仕掛けられるのも、この両雄が中盤に君臨しているからだ。

 そこから局面を打開し、ゴール前には機動力に長けた川口敦史と191cmの高さを持つ小林俊瑛が構える。彼らが織り成す攻撃は今大会屈指の破壊力だ。

 ただ、これまでの大津は期待された年に限ってまさかの敗戦を喫する場合も少なくない。ここ一番での脆さが日本一を勝ち取れていない要因だった。それでも、今年はそうした勝負弱さを感じさせない。

 その理由は、ありとあらゆるスタイルで戦える点にある。プレミアリーグでも相手に応じて、守備に比重を置く戦い方と攻撃的なスタイルを使い分け、勝ち点を重ねてきた。その結果、チームは逞しくなり、最終盤まで優勝争いを展開。惜しくも4位に終わったが、Jクラブの育成組織と互角にやり合って培った試合運びは他の追随を許さない。

 また、今年はセットプレーから得点が奪えるのも強み。FKとCKのキッカーを務める岩本昌大郎はロングスローの使い手でもあり、ここぞという場面ではリスタートからの得点も期待できる。

地上戦、空中戦、セットプレーとあらゆるパターンで相手ゴールをこじ開けられる点も含め、やはり大津史上最強のチームと言ってもいいだろう。

【タレントを揃える前橋育英】

 対する前橋育英も大津に負けずとも劣らない好チームで、攻守にタレントを擁する。CBの柳生将太、桑子流空のコンビは安定感抜群で、空中戦でも地上戦でも強さを発揮。両サイドバック(SB)の岩立祥汰、大竹駿は堅実な守りを見せており、ベンチに座るDF岡本一真(ザスパクサツ群馬入団内定)も対人戦に強い実力者だ。

 その前に控えるボランチの根津元輝と徳永涼の2年生コンビは、今大会屈指のユニットで、状況に応じて攻撃と守備の役割を分担しながらつなぎ役を担う。彼らが攻撃のスイッチを入れれば、その先はアタッカー陣の出番。変幻自在のドリブルと一撃必殺のスルーパスが持ち味の笠柳翼(V・ファーレン長崎入団内定)と力強い突破でチャンスを作るU-17日本代表候補の小池直矢の両サイドハーフ、裏への飛び出しが武器の守屋練太郎と渡辺亮平の2トップが連動しながら局面を打開していく。

 今大会は3試合で12ゴールを奪っており、自慢のパスワークと個人技を融合させたアタックは破壊力抜群。鹿島学園との3回戦で負傷交代した守屋の状態は気掛かりだが、その試合で2得点を奪った高足善が控えており、役者には事欠かない。

 夏のインターハイまでは不用意な失点が多かったが、選手権予選以降は根津と徳永のボランチコンビが守備力を身につけたことで大幅に改善。12月初旬のプレミアリーグ参入を掛けたプレーオフでも2試合連続で相手を零封しており、ほころびを見せなかった。ハイレベルなチームとの対戦で得た自信も、好調を支えている要因のひとつだろう。

 互いに好調を維持しており、勝負の行方はわからない。

拮抗した両者の戦いにおいて、勝負を分けるポイントがサイドの攻防だ。

 両者共にサイド攻撃を武器にしている。大津は森田と薬師田が配給するボールにサイドの選手が抜け出すパターンが基本線。そのサイドは、今大会は田原の台頭で、攻撃に新たなバリエーションをもたらした。

 県予選までは川口が左サイドに入っていたが、今大会では田原を左に置き、川口をFWに配置。

「今大会は(サイドと最前線ができる)川口と(ボランチとサイドができる)森田のポジションをどこに置くかを考えていた。ある程度ボールを支配できるようになったので、田原を左サイドに置いて、川口を中に配置することで、森田やSBの岩本を含めた4人の距離感をよくしたい。そこから崩すために田原を起用している」とは山城朋大監督のコメントだ。

【サイドの攻防がカギ】

 実際に3回戦でも田原が起点となり、単純にセンタリングを入れるだけではなく、GKとDFの間にアーリークロスを入れる場面が見られた。この形から小林が先制点を奪っており、新たな得点パターンの構築はチームにとってプラスの材料だ。

 今大会は右サイドの高速SB日高華杜が鎖骨の負傷でベンチ外となっているが、その穴を感じさせないほど左サイドの仕掛けが成熟してきた。序盤から左サイドで高い位置が取れれば、先手を取ることは十分に可能だ。

 一方の前橋育英は笠柳と小池がサイド攻撃の軸となる。どちらも単騎で仕掛けられる力があり、クロスとフィニッシュの精度が高い。また、2トップとの関係も良好で、彼らがサイドに流れてきた時は斜めの動きから中に進入して、攻めることもできるのが、強みだ。

 負傷した守屋に代わって投入された高足も、そうしたスペースを作って味方を生かす動きに長けている。

「(高足は)2トップの位置から相方の動きを見て、その裏に走り込める。また、ボールがサイドに流れれば、空いたところにスッと入れる。クロスに対してもセカンドボールがどこに落ちるかを予測できる選手」と山田耕介監督が話すとおり、相手が嫌がる位置で走り込むセンスは前橋育英でもトップクラス。仮に守屋がスタートから起用できなかったとしても、高足の存在が両サイドハーフをさらに生かすかもしれない。

 3回戦では共に守備重視の相手に手を焼き、攻略するまでに時間が掛かった。お互いに守備の強度に定評があるなかで、どちらがサイドの主導権を握るか。先手を取れれば、その後の展開が大きく変わるのは間違いない。

 両チームのベンチワークも含め、サイドの仕掛け合いが勝負を分ける。大津が初の4強入りを勝ち取るのか。それとも前橋育英が優勝した2017年度以来となるベスト4進出を果たすのか。準々決勝は打倒・青森山田に燃える両雄の戦いから目が離せない。