2歳年上の相手たちに奮闘

 サッカーU-21日本代表は、ウズベキスタンで行なわれたAFC U23アジアカップを3位で終え、2024年パリ五輪のアジア最終予選を兼ねた2年後の同大会の組み合わせにおいて、ポッド1に入る権利を手にした。

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AFC U23アジアカップを3位で終えたU-21日本代表

 同大会は隔年で開催されており、慣例として日本は五輪予選が絡まない年の大会をU-21世代の強化の場としている。これは2年後に23歳以下の選手たちで挑むオリンピックを見据えての取り組みで、今回も同様に2024年のパリ五輪を目指すチームで参戦した。

 だが、勝敗が度外視されるわけではない。今大会の結果が2年後のAFC U23アジアカップにおけるポッド決めに関わるからだ。チームを率いる大岩剛監督も「経験を積みに来たわけではない」と言いきり、大会前から「優勝を目指す」姿勢を崩さなかった。

 3位以上で確定するポッド1(次回の開催国が3位以内に入った場合のみ4位にも与えられる)の獲得は最低限のミッション。だが、その道程は険しい。他国は23歳以下で編成しているチームがほとんどのため、年上の相手に対して勝ちきらなければいけないからだ。

実際に過去の大会を振り返っても、日本はU-21代表チームで臨んだ場合はベスト8の壁に阻まれている。

 ポッド1を手にするのは容易くなく、今大会においてもグループステージから厳しい相手ばかりだった。とくにサウジアラビアは、2018年のU-19アジア選手権を制した世代が中心のU-23代表で、A代表に招集されている選手も複数名いる難敵だった。

 そうしたなかで日本はケガ人やクラブ状況で参加できなかった選手を除き、現状で考えられるベストメンバーで参戦。海外組のGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)、DF内野貴史(デュッセルドルフ)、DFチェイス・アンリ(シュトゥットガルト)、MF斉藤光毅(ロンメルSK)を招集した点からも、今大会に懸ける本気度がうかがえた。

 UAEとの初戦では、今シーズン終了後に短いオフを挟んでチームに合流した斉藤、内野、チェイスを、コンディションを向上させるために先発で起用。

その一方で、クラブ事情で遅れて合流した主軸のMF藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)も、同じくスタメンで出場した。

コンディションには最善を尽くしたが......

 チームのコンディションの向上と勝利の二兎を追う――。そのスタンスで挑み、UAE戦を2-1で勝ちきった。その考え方はサウジアラビア戦でも変えず、選手のコンディションに配慮しながら勝負にこだわって勝点1を獲得。ノックアウトステージ進出が濃厚となっていたグループ最終のタジキスタン戦は、メンバーを大幅に入れ替えながら3-0でモノにした。

 最高の状態で迎えた韓国との準々決勝では、イ・ガンイン(マジョルカ)を擁するU-23チームを序盤から圧倒。FW鈴木唯人(清水エスパルス)の2ゴールなどで3-0と快勝した。

 しかし、ここからが難しかった。新型コロナウイルスにかかった選手が出たり、退場者を出したりした影響で、選手たちを思い描いたように休ませられず、準決勝を前に疲労がピークを迎えてしまった。ウズベキスタンとの一戦でベンチに入れた選手は18名。「間違いなく、みんな思うように動けていなかった」(鈴木唯人)と、立ち上がりから身体が重かった。

 前線からプレスを掛けられず、ビルドアップでも相手を外せない。自分たちのミスからショートカウンターを浴びて2失点。

これを最後まで挽回できずに敗れ、3位決定戦に回ることになった。

 それでもチームはリバウンドメンタリティーを発揮。大会ラストマッチに気持ちを切り替えた。オーストラリアとの一戦はメンバーを大幅に入れ替えて戦ったが、今大会唯一の大学生・MF佐藤恵允(明治大学)が先制点を決めるなど、ここまで出場機会が限られていた選手たちが奮戦。攻守で相手を上回り、3-0の完勝で2年後の大会のポッド1獲得という最低限のミッションを遂行した。

 コロナ禍の不運などで最終的に難しい立ち回りを強いられたが、3位という結果を持ち帰った点は大きな価値がある。

A代表経由パリ五輪行き

 ところで大岩監督は、チーム発足当初から「A代表経由パリ五輪」という方針を掲げている。以前の五輪代表であれば、U-23世代で国際舞台を経験しながらステップアップを目指してきたが、東京五輪世代ではA代表を主戦場とする選手が増えてきた。

 早い段階で活躍の場を欧州に移し、五輪世代のうちにA代表に選ばれる。これはチームの強化にポジティブな影響をもたらす。だからこそ、指揮官もそうしたメッセージを何度も発信している。

「A代表に向かっていく途中でパリ五輪がある点を訴えていきたい」と、大岩監督もそうした選手のプレーぶりを評価しており、大会後にはA代表の森保一監督に選手の情報を伝えたという。

 7月には東アジアのナンバーワンを決めるE-1選手権が控えているが、インターナショナルマッチデーの期間以外の開催で海外組の招集は見込めず、国内組でもベテラン勢が招集されないと言われている。

 だからこそ、パリ五輪世代の選手にとっては今大会がA代表入りに向けてアピールできる場でもあった。

 なかでも藤田、鈴木唯人、鈴木彩艶(浦和レッズ)はA代表でプレーできる可能性を感じさせた。

 藤田は全6試合に出場し、うち先発出場した4試合はキャプテンとしてピッチに立っている。ピッチ内外で抜群のリーダーシップを発揮し、自発的にチームメイトを鼓舞。UAEとの初戦ではミスが続いたチェイス・アンリを気にかけ、何度も声を掛けて平常心を取り戻させようと試みていた。

 また、サブに回った3位決定戦のウォーミングアップでは自らの判断でスタメン組の練習に残り、モチベーションを高める声を掛けてチームの気持ちをひとつにさせた。プレー面でもずば抜けており、豊富な運動量とボール奪取能力はA代表でも通用する。

 1ランク上のステージで戦う際に繋ぎの面で不安を残すが、課題と向き合いながら所属クラブで絶対的な地位を確立できれば、A代表にチャレンジする権利はあるはずだ。

最もアピールに成功した選手

 鈴木唯人に関しては、今大会で最もアピールに成功した選手と言える。今回のメンバーでは、今年1月のA代表候補合宿に参加しており、大会前から期待値が大きかった選手のひとりだ。

 UAEとの初戦でゴールを決めると、準々決勝の韓国戦では2得点を含む全3得点に絡む大活躍。相手に囲まれてもボールを前に運べる力があり、今年に入って改善された決定力も如何なく発揮。勝負どころで決めきる力も示した。

 3位決定戦後のコメントでも「A代表は同じ期間に親善試合でブラジルと対戦している。そのなかに入ってもできるぐらいのレベルに、まずはならないといけない」と話すなど、現状に満足していない点も好印象。

 1月の合宿参加で意識が高まり、日常を変えることに成功した。A代表のピッチに立てれば、さらなる刺激を受けて自分を高められる素養、バイタリティーを持つ。7月にE-1選手権を経験できれば、もしかするとカタールW杯行きも見えてくるかもしれない。

 そして、昨年の東京五輪を飛び級で経験しているGKの鈴木彩艶は、条件付きで推薦したい。今大会のパフォーマンスは圧倒的で、ハイボールの処理、1対1やミドルシュートの対応は大会屈指のレベルにあった。

 海外勢と対戦しても決して競り負けないパワーも持ち合わせており、ビルドアップやフィードの質も高い。所属の浦和では今季からジョアン・ミレGKコーチと新たな取り組みにトライ。よりよい状態でボールに反応するためにポジショニングなどを修正し、その成果が出ているのもプラス材料だ。

 ただ、気になるのはクラブでの立ち位置だ。浦和では西川周作の控えに甘んじており、カップ戦の出場が主となっている。残された期間でのレギュラー奪取が招集のキーになるだろう。

 果たして今大会の出来を受けて、U-21日本代表からA代表に向かう選手はいるのか。そうした選手が出てくれば、パリ五輪世代の強化はさらに進む。