中日・ファーム監督
片岡篤史インタビュー 前編
シーズンの途中で、外野手から投手に登録が変更された中日の根尾昂。150km超えの力強いストレートを投げ込み、キレのあるスライダーで空振りを奪うなど、かねてから投手としてのポテンシャルの高さを示していたが、投手転向は多くの野球ファンを驚かせた。
中日の片岡篤史ファーム監督に、野手としての根尾が課題としていたこと、投手として秘めるポテンシャル、甲子園で行なわれたウエスタン・リーグの試合で、マウンドに投手・根尾を送り出した時のことなどを聞いた。
投手転向後、一軍で好投を続ける根尾
***
――野手としての根尾選手は、どんな部分が課題だったのでしょうか?
片岡篤史(以下:片岡) 根尾は今年で4年目ですが、これまでの打者としての成績を振り返ると、ほとんど変わっていません。これは根尾に限ったことではないのですが、プロに入ったら「どんなタイプの打者を目指すべきなのか」をはっきりさせる時期にきたと思っていました。
根尾の場合は、高校時代にホームランを打てる打者(高校通算32本塁打)でしたよね。多くの高校でスラッガータイプだった打者が、プロに入ってから壁に当たることは非常に多いんです。僕から見れば、根尾はプロに入ってからの3年間、長打やホームランを打てるバッティングを追い求めていたのかなと思います。
――具体的にバッティングの課題がどうこうというよりも、これまでの成績が判断材料になった?
片岡 もちろん、伸びしろを考えたり、3年間の結果を見て判断するんですが、「まだ野手でやりたい」という根尾の希望もあったと思います。ただ、今後のことを考えた時に、「野手よりも投手のほうが大成するのでは?」と首脳陣が判断したのだと思います。
あと、根尾の投手としてのポテンシャルの高さです。根尾の同世代には吉田輝星(日本ハム)や柿木蓮(日本ハム)など多くの好投手がいましたが、同世代のなかで根尾がナンバーワンの投手だと思うんです。
打者としてどうだったとか、投手としてどうだったとか、いろいろな見方ができますが、そこに答えはないと思います。バッティングだけでなく、守備でも同じことが言えますね。
――5月8日、甲子園でのウエスタン・リーグ阪神戦で2番・ショートで先発出場していた根尾選手を、10-4と中日がリードした9回にプロ初登板となるマウンドへ送り出しました。その時は、まだ野手としてもやっていくビジョンがありましたか?
片岡 その時はピッチングの内容がよければ、"二刀流"という大谷翔平みたいな感じではなく、基本的にはショートを守らせて、状況によってはリリーバーとしてマウンドへ上がってもらう、という起用方法も視野に入れていましたよ。ただ、負担は必然的に大きくなりますし、結果的に投手転向という判断に至ったんだと思います。
――間近で見ていて、やはり投手・根尾に魅力を感じた?
片岡 現時点で見ると、野手よりも投手のほうが完成度は高かったです。
――シーズン途中に投手に転向したにもかかわらず、12試合に投げて防御率1.74(7月30日時点、以下同)と安定したピッチングを続けています。また、マウンドに上がる度にそれまでの課題をクリアし、着実に成長していっているように見えます。
片岡 シーズンの途中から投手をやって、普通に投げているわけじゃないですか。それは本当にすごいことだと思います。私が特にすごいと思うのは、プロのなかでどちらかというと体の線が細いのに、あれだけ力強いボールが投げられるということ。
――3ボールからでも落ち着いてストライクが取れたり、変化球も器用に操っていたり、自分が意図するボールをしっかりと投げられています。ストレートの被打率は.160、スライダーの被打率も.125と圧巻の数値をマークしています。
片岡 加えてクイックもできますし、ピッチングも含めてセンスを感じますよね。
――バッティングの成績云々もあったと思いますが、投手としての魅力が野手としての魅力を上回っていたとも言えますか?
片岡 プロに入って方向性やタイプを変えて成功していく選手を、これまでにも見てきました。今後は、根尾の投手としてのポテンシャルの高さを随所に見せてくれることに期待したいですし、どんな投手に成長していくのか楽しみに見守っていきたいと思います。
(後編:「新陳代謝ができていない」チーム状況と、だからこそのチャンス>>)