井端弘和「イバらの道の野球論」(20)
今シーズンの中日について
立浪和義監督が2年目の指揮を執る中日は7月12日時点でリーグ6位と、最下位に終わった昨シーズンに続いて苦戦を強いられている。とくに打線の得点力不足は深刻で、セ・リーグの他の5チームに大きく離される230得点だ。
そんなチームについて、現役時代に長く中日の主力として活躍し、立浪監督とも一緒にプレーした井端弘和氏は「かなり強くなる可能性がある」と分析する。来シーズン以降も見据えた、中日の今後について語った。
二軍で調整中の中日・根尾昂
【起用が多い若手選手たちへの期待と立浪采配】
――現在のチーム状況をどう見ていますか?
「他の球団よりも若手を多く起用していて、その選手たちを成長させながら戦っている印象です。石川(昂弥)は昨年にケガをしたことを考えると実質一軍でプレーするのは1年目で、昨シーズンにリーグ最多安打のタイトルを獲得した岡林(勇希)は実質2年目。龍空もシーズンを通して試合に出たことはなく、福永(裕基)や村松(開人)もルーキーですから。
2018年のドラ4捕手の石橋(康太)も、正捕手の木下拓哉がケガをしたことでチャンスを得ています。これら選手たちが力をつけてきたら、かなり強くなる可能性があると思いますよ」
――立浪監督の采配は、昨シーズンと比べて変化がありますか?
「バントを多く使っている印象がありますね。
チームの借金は、だいたい15前後で推移しています。2、3カード勝ち越したかと思えば、うまく噛み合わなかった時に大きな連敗もする。チームの状態としては『かなり悪い』というわけでもないので、流れが変われば上位を伺えるかも、というところでしょうか」
――若手の育成に重きを置くと、得点力の減少は避けられない?
「そこは、(ダヤン・)ビシエドら外国人選手の不調もあるでしょう。ただ、ビシエドが登録を抹消されているところを、細川(成也)がうまく補って活躍した。現役ドラフトで新加入した細川も、前チームのDeNAでの6年ではシーズン40試合も出ていなかった選手。
――細川選手はオールスターに初選出。シーズン開幕前、ここまでブレイクする予感はありましたか?
「まったくなかったですね(笑)。誰も予想していなかったんじゃないかと。あくまで私の見方ですが、DeNAにいた昨年までは一度引いたバットを、打つ前にもう一度引いてしまう癖があった。それが今年は、しっかり軸足の右足に体重が乗って、バットを二度引くことも少なくなりました。それで好調が維持できていますし、長打力も今の中日では1、2を争う選手です。
相手チームのバッテリーからもさまざまな攻め方をされるようになりましたが、それにも対応してきていますし、バッターとしての完成系はまだ先にあるような気もします。来シーズンも同じような活躍を続けて、首脳陣の信頼を確固たるものにしてほしいです」
【根尾の一軍起用の可能性は?】
――投手陣について、楽天からトレードで加入した涌井(秀彰)投手は、防御率は3点台ながら3勝9敗と負けが大きく先行しています。
「先発ローテーションを守っていますし、仕事はしていると思いますよ。勝ち負けは打線の調子なども関わってくる部分ですし、『先制されない』ということを意識し続けていれば、チームを勝ちに近づけることができるピッチャー。まだ後半戦も残っていますし、挽回はできるでしょう」
柳(裕也)も昨年に続いて勝ちに恵まれず(3勝6敗)、小笠原(慎之介)も5勝5敗の五分。とはいえ、打線が苦しい中でよくやっていると思います」
――中継ぎ陣はいかがですか?
「絶対的な守護神のライデル・マルティネスまでつなぐ、右の清水(達也)や祖父江(大輔)、左の福(敬登)たちの疲労は気になるところです。大崩れはしていない、という印象でしょうか」
――二軍で調整中の根尾(昂)投手については、立浪監督が一軍昇格の可能性を口にしていました。
「今シーズンは二軍で投げたり投げなかったりの調整で、その中で投球フォームを変えましたね。トルネード投法ではないですが、足を上げて捻りを入れ、軸足に体重を乗せて投げるようになった。先発で登板することを視野に、長いイニングを投げられるように段階を踏んで成績も残していますから、どこかのタイミングで一軍昇格もあると思います」
【石川は「酷な部分もある」】
――シーズン後半戦で中日が巻き返すためには、クリーンナップを任されている石川選手の活躍も欠かせないと思います。ここまでは9本塁打、打率.251と、期待値に比べると少し物足りない印象でしょうか?
「それは、石川にとって少し酷な部分もあると思います。昨シーズンの夏前に左膝の前十字靭帯を損傷して、手術をしてリハビリも行ない、今シーズンに向けてじっくり調整したかったはず。でも、苦しいチーム事情もあって、二軍で数試合出ただけで一軍昇格となったので、"戦う体"ができていなかったのかもしれません。
それだけ期待されている選手でもあるということですけどね。私も経験がありますが、大きなケガの後に一軍の試合に"馴染む"までは1年くらいかかるイメージです。今年はそれに専念するくらいの気持ちでもいいと思いますし、今オフにきっちり練習できれば、才能はトップクラスですから問題なくやってくれると思います」
――得点数やホームラン数が少ないこともあって、一部のファンや報道では、本拠地バンテリンドームナゴヤにホームランテラスを設置したほうがいいのではないか、という声もあるようですね。
「私が現役時代の時には、ホームランが出にくいことに関して、まったく何も思わなかったです。『打つなら他の球場で打てばいい』くらいの感覚でした。バンテリンドームで長打を狙うなら、外野の間を抜ければいいと。
ホームランテラスを設置したからといって、年間5本しかホームランを打たなかった選手が、20本を打てるとは限らない。ホームランの増減は相手チームも同じ条件ですしね。そこは球場に合った戦い方をしていけばいいと思いますよ」
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【プロフィール】
井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ、神奈川県出身。堀越高から亜細亜大を経て、1998年ドラフト5位で中日に入団。2013年には日本代表として2013年のWBC第3回大会で活躍した。2014年に巨人に移籍し、2015年限りで現役引退。現役生活18年で1896試合出場、1912安打、56本塁打、410打点、149盗塁。ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞7度、2013年WBCベストナインなど多くのタイトルを受賞した。2016年から巨人内野守備コーチとなり、2018年まで在籍。侍ジャパンでも内野守備コーチを務め、強化本部編成戦略担当を兼務している。