今中慎二が分析する2024年の中日

投手陣について 後編

(前編:臨時投手コーチとして伝えた「四球の多さ」「体の開きの早さ」への対策>>)

 昨年はチーム防御率(3.08)がリーグ2位と、ピッチャー陣が奮闘した中日。春季キャンプに臨時投手コーチとして参加した今中慎二氏に、競争が激しくなりそうな先発やリリーフ陣で注目する投手について聞いた。

今中慎二が語る中日の命運を握る先発投手の課題 ドラ5右腕、左...の画像はこちら >>

【「今年の中日の命運を握る」髙橋宏斗の調子は?】

――今中さんは、先発ローテーション争いをどう見ていますか? 柳裕也投手、小笠原慎之介投手、髙橋宏斗投手、ウンベルト・メヒア投手に加え、左肘手術からの復活を目指す大野雄大投手やベテランの涌井秀章投手、さらに梅津晃大投手や根尾昂投手らが絡んでいきそうでしょうか。

今中慎二(以下:今中) 候補は多いです。名前が挙がった選手をはじめ、ほかの先発候補も含めてどれだけ競い合っていけるかだと思います。髙橋は、まだ調子が上がっていないのでわかりませんね。キャンプでの印象があまりよくなかったですし、悪いままシーズンで使うことはないので。髙橋に限ったことではありませんが、オープン戦では打たれてもいいので、しっかり内容を見せないといけません。

――髙橋投手は山本由伸投手(ロサンゼルス・ドジャース)のようなすり足気味の投球フォームを試していましたが、いかがでしたか?

今中 キャンプ初日のキャッチボールからそれをやってるのはわかったのですが、「やりたければ別にいいよ」と。

ハマれば誰も文句を言わないし、自分のものにできればいいので。ただ、それを取り入れてピッチングがおかしくなるなら考えないといけない。立浪和義監督とは「実戦を見たうえで様子を見ましょう」と話して見守ることにしたんです。

 ただ、シートバッティングで投げた時などを見ても全然ダメでした。球が抜けて、デッドボールも当てるくらいでしたから......。本人も相当ヘコんでいました。

それで、去年のように足を上げるフォームに戻す結論に至ったようです。試してみてダメなら直すだけ。人に言われてやることじゃないですから。

――足を上げるフォームに戻してからは、いいボールが多くなった?

今中 まだ、いいボールと悪いボールがはっきりしていますね。試合でバッターがどういう反応をするか、どういう打ち取り方ができるかによって、新たな課題も出てくると思います。「足を上げるようにしたら元に戻る」というわけではない。

僕から言わせれば、足を上げようが上げまいが、パチッとハマれば問題ないんです。

 それよりも髙橋の課題は、体の開きが早いこと。立浪監督からも「その部分を見てあげてほしい」と言われていたので、先ほど(前編で)お話したような足のステップの話を本人にしたんです。「こうすれば体の開きが改善されるんじゃないか」という「答え」を教えてあげたら、あとは本人がどういう「式」でその答えにたどり着くのか、という問題です。答えが同じ100でも、そこに行き着くための式はいろいろあるので、自分の感覚で試してほしいんです。

 髙橋に関しては「今年の中日の命運を握る」と言えるだけのポテンシャルを持っているピッチャーですし、期待値も高い。

壁を乗り越えてほしいです。

【ルーキーも含め、リリーフも競争は激しい】

――トミー・ジョン手術後のリハビリを経て、昨年も復活への兆しを見せていた梅津投手はいかがですか?

今中 球威が一番あるのは梅津ですね。体もひと回り大きくなって、完成度が高いです。ただ、春先の屋外球場でのナイターは寒くて肘に影響が出るかもしれませんし、開幕からローテーションで回すのはちょっと難しいのかなと。立浪監督やコーチ陣もそのあたりは頭にあると思うので、ローテーションの軸として回すのは夏場くらいからかもしれません。

 梅津もそうですし、大野らも含めて先発陣はまだ確定していないはず。

各ピッチャーがオープン戦でどういうピッチングをするかでしょうね。

――リリーフ陣はどう見ていますか?

今中 (ライデル・)マルティネスは安心して見ていましたし、リリーフで状態がよく見えたのは勝野昌慶、清水達也、藤嶋健人、松山晋也、(マイケル・)フェリス、あとは左ピッチャーの齋藤綱記です。祖父江大輔、田島慎二、岩嵜翔、左ピッチャーの橋本侑樹などもかなりよくなってきているので、力を出せればいずれ入ってくるでしょう。

 シーズンを通して勝負できるメンバーは揃ってますが、長いシーズンにはアクシデントがつきものなので、第2、第3の予備のメンバーも戦力として考えておかないといけません。ここまで名前を挙げていない投手が出てくる可能性もあります。

――ドラフト5位のルーキー右腕、土生翔太投手なども候補になるでしょうか。

今中 そうですね。開幕メンバーに入るかどうかは別として、現状の力を把握しておくことも非常に大事なことです。いい真っすぐを投げますし、魅力はありますね。変化球は精度を上げていかなければいけませんが、現段階でもある程度は通用しそうです。

――リリーフの左ピッチャーの枚数は、もう少し多いほうが理想でしょうか。

今中 バランスを考えると、左ピッチャーも何枚かいてくれるといいですよね。村上宗隆(ヤクルト)をはじめ、阪神にもいい左バッターが多いですから。現状だと齋藤と橋本でしょうか。球の強さからいうと、橋本に入ってきてほしいかなと。

――オープン戦での橋本投手のピッチングをどう見ていますか?

今中 いいボールは投げていますが、制球が課題です。「もったいないな」と思ったのは、ヤクルト戦(3月2日)で村上と対戦した場面。オープン戦ですし、思い切って真ん中で勝負して力試しをすればよかったのに、結局はフォアボールを嫌がってヒットを打たれた。悔いが残りますよね。真っすぐがどれだけ村上に通用するのか、たぶん首脳陣も見たかったでしょうから。

 ただ、キャッチャーとの兼ね合いもありますからね。まだオープン戦だからデッドボールなどのリスクも避け、思い切ってインコースに投げさせるよりもアウトコースに......とキャッチャーの木下拓哉も考えていたのかもしれません。ただ、バッターのことを考えるよりもピッチャーのことを考えてほしいですね。それは木下に限らず、キャッチャー全員に言えることです。ピッチャーの持ち味を確かめることを優先し、どのボールがどれくらい相手に通用するのかを見ておいたほうがいいと思います。

――先発陣同様、リリーフ陣も層が厚いので競争が激しくなりそうです。

今中 そうですね。絶対的なクローザーのマルティネスに、いかにつないでいくのか。レベルの高い競争を維持しながら、長いシーズンを戦っていってほしいです。

【プロフィール】

◆今中慎二(いまなか・しんじ)

1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。