ティモンディ インタビュー

前田裕太編

 今年の7月19日、お笑い芸人のティモンディの高岸宏行さんが、ルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに入団することが発表された。高校野球の名門・済美高校(愛媛県)出身で、これまでも数多くNPBの試合の始球式に登場してきた高岸の挑戦を、相方の前田裕太さんはどう見ていたのか。

今後の個人、コンビとしての活動についての思いと併せて聞いた。

ティモンディ前田裕太は相方・高岸宏行のプロ挑戦をどう見ていた...の画像はこちら >>

BC栃木でプレーしたティモンディ・高岸宏行さん(右)の挑戦について語る、相方の前田裕太さん

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――高岸さんから「プロ野球選手を目指す」と聞いた時の率直な感想を聞かせてください。

前田:「新しいことをやる」という点では挑戦ですし僕もワクワクしましたが、「これまでのお仕事の延長線上で、ありがたいご縁をいただいた」という印象です。僕らの活動の根底には「これまでお世話になった野球に"恩返し"をしたい」という気持ちがあるので、高岸にはその目標に向かって頑張ってほしいです。

――昨年4月の札幌ドームの始球式で、高岸さんが投じたストレートは芸能界最速記録となる142キロを計測。今後もNPBの始球式のマウンドに上がることはありそうでしょうか?

前田:始球式の球を見て、栃木さんがオファーをくださったわけではないと思いますけどね(笑)。
高岸がプロ野球選手になったので、「今後、始球式はどうなるんだろう」と思うことはあります。他球団の所属選手に、始球式を依頼する例はあまりないでしょうから。

――前田さんが、高岸さんの練習を手伝うようこともありましたか?

前田:プロ入り前は、仕事が入っていない時に近所の公園に行って、2人でキャッチボールをしたりすることもありましたね。昼間から公園にいると、近所の子供たちに「何の仕事をしている人なんだろう?」という奇異な目で見られたり(笑)。以前は高岸に「もっとこうしたほうがいい」と話したこともありましたが、今はもうプロ野球選手ですから。プロのコーチが見てくださっている状況なので、もう僕は何も言えません(笑)。

高岸のプロ初登板に「グッときた」

――高岸さんがプロ初登板を果たした埼玉武蔵ヒートベアーズ戦(8月14日)は、どのような気持ちで見ていましたか?

前田:「高校時代の友人が、プロの公式戦で投げる」という前例のない状況だったので、不思議な感覚でした。特に、僕が子供の頃に活躍していた川﨑宗則選手と、高岸が同じ試合に出ているのは現実離れしすぎていて。電光掲示板に「ピッチャー高岸」と表示された時には、ビックリしすぎて思わず笑っちゃいました(笑)。

 でも、僕個人としても、高岸の初登板試合を本当に楽しく観戦させてもらいました。済美高校の野球部の同期たちも、高岸の登板を喜んでくれているのがうれしかったですね。

――高岸さんのデビュー戦で、前田さんは解説を担当されました。的確なコメントが印象に残っています。



前田:以前やらせていただいたプロ野球の解説とは、また違う感覚で楽しませてもらいました。プロ初登板はどんな投手でも緊張するでしょうし、味わったことのない苦労もあっただろう高岸の気持ちを、いろいろ想像しながら話しました。初登板の成績は2回3失点でしたが、栃木の選手たちが高岸をうまく盛り上げて、チーム全員でピンチを乗り切る場面はグッときましたね。

――前田さんは、四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツを応援されているそうですね。独立リーグに対して、どのようなイメージを持っていましたか?

前田:マンダリンパイレーツは地元の愛媛県で頑張っていて、かつては済美高校の同級生がプレーしていたこともあって注目しています。NPBのチームとはプレーや練習環境も違い、年俸の額も違います。
そんな状況で野球に打ち込み、成績で未来が左右される世界に身を置くのは、本当にすごいこと。「野球しかない」という選手たちの覚悟や根性、そして野球に懸けるエネルギーも、独立リーグの試合から伝わってきます。

 芸能界でさまざまなお仕事をさせていただいているからこそ、「野球だけで生計を立てていく」ことの重みも感じます。「甲子園で優勝してNPBへ」といった選手ももちろんすごいですけど、独立リーグでプレーする選手、そこからNPBを目指したり入団を果たしたりする選手たちには、別のすごさがあると感じますね。

「何か新しい挑戦をしてもいいかな」

――前田さんはコンビのYouTubeチャンネルでプロ雀士に挑戦することを宣言していますが、前田さんもプロ選手を目指し、高岸さんと対戦するといった未来を描くことはありますか?

前田:かつては僕もプロ野球選手を目指していたこともありますし、そういう人生も楽しいとは思います。ダウンタウンの松本人志さんも「2人で対決したらおもろいやん」と言ってくれたので、ナシではないと思いますが......野球に人生を懸けている選手たちを目にすると、現段階で「ナシではない」と思っている僕が軽々しく「目指す」と口にするのは失礼かなと思います。

――前田さんは高校時代、野球用品メーカー主催の体力測定で全国1位になっています。

別の競技でも、本気で取り組むといったことを考えることは?

前田:別の競技ですか(笑)。あくまで、最終的にティモンディのためになるのであれば「何か新しい挑戦をしてもいいかな」という感じですね。

――先ほどプロ野球の話題が出ましたが、NPBでは駒澤大学で前田さんの後輩だった今永昇太投手(横浜DeNA)が今年、ノーヒットノーランを達成しました。

前田:とんでもなくすごいことですよ。彼はプロ野球選手としてはそこまで身長が高いわけではないですし(178cm)、常時150キロ超える速球を投げるわけでもない。それでも素晴らしい成績を残していることは、多くの野球少年たちに勇気を与えたんじゃないかと思います。


 僕も175cmで、左利きで投手もやっていましたが、体格に恵まれずに悩んでいる子はたくさんいます。今永投手や、宮城大弥投手(オリックス/171cm)のような左腕投手の活躍を、子供の頃の僕が見て勇気をもらっていたら「僕もスター選手になって、別の人生を歩んでいたかもしれないな」と思うこともあります。

――少年時代の前田さんが、憧れていた選手は?

前田:松坂大輔さんのような、150キロを超えるストレートで三振の山を築く選手に憧れていましたが、僕は投げることができませんでした。今振り返ると、自分で勝手に限界を決めて「無理だな」と思ってしまっていた部分もあったと思います。

 一方で今永投手のように、豪速球がなくても活躍できている投手もいる。自分の特徴を生かして活躍している姿を見ると、さまざまな「思い込み」があった自分に対して思うところもあります。

今後のティモンディが目指すもの

――済美高校の校訓でもある「やればできる」という言葉とは少し逸れてしまったという感じでしょうか。

前田:高校時代はすさまじい量の練習をがむしゃらにやっていて、少し狭い視野で「やればできる」という言葉を捉えていた気がします。当時は、試合に勝つことはもちろん、「5点差以上つけて勝つ」「残りのイニングでヒットを5本以上打つ」といったノルマもあって、余裕がなかったからかもしれません。

 今回の高岸の挑戦もふまえて、今になって"人生"という視点から見ると言葉の意味深さを感じます。それを僕たちは示していかないといけないと思っています。

――前田さんが3年生の時、済美高校は惜しくも県大会の決勝で敗れ、甲子園出場を逃しました。

前田:試合に負けた瞬間は「なんでこんなに練習したのに、甲子園に行けなかったんだ」と思いました。しばらくすると、練習がない寂しさを感じるようになり、何に熱量を注げばいいのかわからない日々を延々と過ごすことになって。他の部員と「遊びに行くか」と張り切って出かけたのに、商店街の端まで行って、ただ地面にタッチして帰ってくるということもありました(笑)。

 野球漬けの日々を過ごしてきたので、「高校生らしい遊び」をまったく知らなかったんです。高岸などは野球部を引退したあとも、グラウンドに行って練習していましたね。

――済美高校のチームメイトと、今でも会うことはありますか?

前田:コロナ禍ということもあって、みんなで顔を合わせる機会はそこまでないです。でも、僕らがFM愛媛でやっている『ティモンディの決起集会』というラジオに、同学年のマネージャーがメッセージを送ってくれたり、芸人の活動や今回の高岸の挑戦への応援メッセージをくれたり、本当にうれしくて励みになります。

――ティモンディとしての今後の目標を教えてください。

前田:僕らはM-1グランプリで優勝したサンドウィッチマンさんに憧れて、同じ事務所に入ったということもあるのでM-1には思い入れがあるんです。年末の大会に向けて、定期的に新たなネタを考えたりもしています。

 2021年のM-1を制した錦鯉さんは、忙しい中でも優勝を勝ち取りました。そんな先輩の姿を見ているので、野球関連のお仕事の割合が多いことも言い訳にできないですし、全力で上を目指したい。「ティモンディという船が、少しでも遠くに行けるようにするにはどうすればいいか」をきちんと考えながら活動していきたいと思っています。

(相方・高岸宏行インタビュー:二刀流チャレンジの実感。成瀬善久らコーチの指導に驚き「プレーに変化が出てきた」>>)

【プロフィール】
◆ティモンディ
2015年1月、愛媛県・済美高校の同級生で野球部に所属していた前田裕太(まえだ・ゆうた)と高岸宏行(たかぎし・ひろゆき)がコンビを結成。前田がネタ作りとツッコミ、高岸が「応援」を担当している。お笑いの活動だけでなく、NPBの始球式など野球関連の活動でも活躍。今年7月には高岸がルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに入団して大きな話題を集めた。

■前田裕太 公式Twitter>>@TimonD_Maeda 公式Instagram>>maeda_timon_d

■高岸宏行 公式Twitter>>@Timon_Chan_