今季台頭した6人のニューヒロイン
森口祐子プロがその強さの秘密に迫る

「黄金世代」の躍進があって以降、次々に若き有望株が登場している日本女子ツアー。そして2022シーズンも、多くの"新星"がツアー初優勝を飾ったり、上位争いを演じたりして、各トーナメントを盛り上げた。

そこで今回は、そうした若きヒロインたちはなぜ躍動できたのか、永久シード選手の森口祐子プロに分析してもらった――。

菅沼菜々、川﨑春花、岩井千怜…2022年女子ツアーでもニュー...の画像はこちら >>
菅沼菜々(すがぬま・なな)
2000年2月10日生まれ。東京都出身。2022シーズン優勝0回。トップ10入り15回。メルセデスランキング8位。
賞金ランキング9位(獲得賞金8445万2649円)。
※成績などの数字は2022年11月9日時点のもの。以下同。

 今季のツアー記録(スタッツ)において、トップ5入りしている記録が8つもある菅沼さん。なかでも、注目すべき記録が3つあります。

 ひとつ目は、ツアー2位の「平均パット数(パーオンホール)」。

彼女はアドレスでボールを極端に(体の)近くへセットすることで、手先を使わず、体幹でストロークしてヘッドをストレート軌道で動かせる。これが、パッティングのうまさの秘訣だと思います。

 ふたつ目は、ツアー1位の「ファイナルラウンドの平均ストローク」です。今季の彼女は、予選ラウンドでコースの特徴をつかみ、それを決勝ラウンドで自分のゴルフにフィットさせることができた。それが、最終日の強さにつながっているのかな、と思います。

 3つ目は、ツアー4位の「平均バーディー数」。

フェミニンな印象の菅沼さんゆえ、この部門で上位にいるのは少々意外な感じがします。でも実は、トレーニングでキックボクシングを採り入れるなど、フィジカル面の強化を積極的に行なっているのです。

 その結果、体幹や腹斜筋といった"飛ばしの下半身"に重要な筋肉の充実を得られました。もともとうまいショートゲームに加え、下半身強化で飛距離も伸びたことで、バーディー数の増加につながったのでしょう。

 ツアーでいまだ優勝はないものの、今季は"菅沼菜々"という存在を強く印象づけたシーズンだったのではないでしょうか。

菅沼菜々、川﨑春花、岩井千怜…2022年女子ツアーでもニューヒロインが次々に登場。彼女たちはなぜ飛躍できたのか
川﨑春花(かわさき・はるか)
2003年5月1日生まれ。
京都府出身。2022シーズン優勝2回。トップ10入り3回。メルセデスランキング15位。賞金ランキング8位(獲得賞金8520万8000円)。

 日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯で初優勝した時、3日目の18番でティーショットを左のバンカーに入れてしまったあと、そこから15ヤードほど上っているグリーンをUTできっちりとらえてきました。

ピン位置は左奥で、バンカー越え。グリーンセンターを狙って打つのかなと思っていたら、ピンのやや右方向に打ってきてバーディーチャンスにつけたことには驚かされました。

 最終日も難しいピン位置に対して、どんどん狙っていきました。その結果、バック9では6バーディー(ノーボキーの「30」)。神がかっていましたね。

 また、優勝後の表彰式でのスピーチがとてもよかったので、小林浩美会長にその話をしたところ、プロテスト合格者が受ける新人研修では最後に小論文の提出があって、彼女はその年の最高得点だったそうです。

 思えば、女子プロ選手権の練習場で川﨑さんが球を打っている時に、テレビ解説の下調べでクラブセッティングをキャディーさんに聞こうとしたら、彼女が「私がお話させていただきます」とすごく丁寧に答えてくれました。それもまた、すごく印象に残っています。

 清楚で、しとやかで、それでいてプレーぶりはアグレッシブ。新しいタイプの強い子がまたも出てきたな、と思いました。

菅沼菜々、川﨑春花、岩井千怜…2022年女子ツアーでもニューヒロインが次々に登場。彼女たちはなぜ飛躍できたのか
岩井千怜(いわい・ちさと)
2002年7月5日生まれ。埼玉県出身。2022シーズン優勝2回。トップ10入り6回。メルセデスランキング18位。賞金ランキング23位(獲得賞金5156万4555円)。

 8月の北海道meijiカップの初日、16番で難しいアプローチをチップインしてナイスパーセーブをした岩井さん。解説の仕事があって現地でこれを目の当たりにした私は、北海道の洋芝でこんなにうまいアプローチをするんだ、と驚かされました。

 すると、その週は9位タイでフィニッシュ。翌週のNEC軽井沢72も洋芝だから、おそらく上位争いに加わってくるだろうなと思っていたら、ツアー初優勝を飾って、その翌週のCAT Ladiesも勝って2週連続優勝を果たしました。

 しかしその後は、4戦連続で予選落ち。彼女とはその際、こんな話をしました。10ヤードのサークルには簡単に球を入れていたのが、10センチの円に球を入れようとした途端、プレッシャーがかかって(体が)動かなくなる。それと同じように、高みに上がった人がさらに上を目指そうとした時の難しさは相当なもので、それは自分にしか解決できない――そういう段階に入ったんだよね、と。

 そこから、終盤に入って調子を持ち直してきているので、今後が楽しみです。

 そういえば、岩井家には『岩井家の4つの教え』というものがあるんだとか。「人にされて嫌なことはするな」「ひとりぼっちの人がいたら仲間に入れる」「困っている人がいたら助ける」「幼い子や女の子、弱い人には優しくする」。これを、明愛(あきえ)、千怜の双子の姉妹は毎日、唱和していたそうですよ。


菅沼菜々、川﨑春花、岩井千怜…2022年女子ツアーでもニューヒロインが次々に登場。彼女たちはなぜ飛躍できたのか
尾関彩美悠(おぜき・あみゆ)
2003年6月16日生まれ。岡山県出身。2022シーズン優勝1回。トップ10入り4回。メルセデスランキング40位。賞金ランキング32位(獲得賞金3596万5725円)。

 住友生命Vitalityレディス 東海クラシックでテレビ解説を担当することになっていた私は、練習ラウンドで彼女に付いて回りました。開催コースとなる新南愛知CC美浜コースは大きなベントグリーンで、随所に難しいバンカーが配置されているため、バンカーショットがうまい彼女にチャンスがあると思ったからです。

 すると、彼女は1番ホールで、新しいドライバーを持ってすばらしくいい球を打ちました。そこで、「いつもより15ヤード以上、飛んでない? 上空での球のねじれもないし、そのドライバー、いいね」と声をかけると、「はい。そのくらい飛んでいます」とうれしそうに答えてくれました。

 結果的に、彼女が同トーナメントでツアー初優勝。このダンロップのドライバーも、彼女を皮切りに同ドライバーを使用する選手が4試合連続で優勝したことで話題になりましたね。

 実はこの試合の前、前週の日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯で同い年の川﨑春花さんが優勝し、それに触発された尾関さんは、キャディーさんに「絶対、今週は勝ちますから」と言っていたそうです。

 海沿いのコースで、台風の影響によって例年以上に風が強かった今年の大会ですが、彼女はその宣言どおりに優勝。私の勝者予想がバッチリ当たったこともあって、今季の試合のなかでも特に印象深い一戦となりました。


菅沼菜々、川﨑春花、岩井千怜…2022年女子ツアーでもニューヒロインが次々に登場。彼女たちはなぜ飛躍できたのか
佐藤心結(さとう・みゆ)
2003年7月21日生まれ。神奈川県出身。2022シーズン優勝0回。トップ10入り3回。メルセデスランキング24位。賞金ランキング24位(獲得賞金4987万1507円)。

 アマチュアだった昨年、スタンレーレディスにおいて渋野日向子さんら4人で争ったプレーオフで、佐藤さんがピンに当てたショットがありました。結果的に、ボールが大きくはねて惜敗。あれは、"ショットで勝って順位で負けた"感じでした。

 ですから、その1週間後にプロテストに難なく合格した彼女のことは、私が今季期待する選手のひとりとして強く印象に残っていました。強烈なダウンスイングで、下半身を使ったパワー系のスイングはすばらしく、これは早々に優勝もあるな、と思っていました。

 しかし、前半戦はなかなか結果が出せませんでした。その状況を心配して彼女のプレーを見てみると、どうやら問題はショット巧者が陥るスピンコントロールにある、と思いました。

 これはショットがキレる選手に共通する問題で、いい感じに打てたボールなのに、スピンがかかりすぎてミスになってしまうこと。ドライバーショットでは方向性が乱れたり、アイアンショットではグリーン上で予想以上にスピンバックしてしまったり、といった不運です。そういう意味では今後、スイングスピードのコントロールで折り合いがついてくれば、一気にブレイクするのではないかと思っています。


菅沼菜々、川﨑春花、岩井千怜…2022年女子ツアーでもニューヒロインが次々に登場。彼女たちはなぜ飛躍できたのか
セキ・ユウティン
1998年3月5日生まれ。福井県出身。2022シーズン優勝1回。トップ10入り4回。メルセデスランキング38位。賞金ランキング27位(獲得賞金4304万1896円)。

 中国での優勝経験があり、来日当初は日本でもすぐに勝てるくらいの勢いがありましたが、なかなか結果を出すことができず、苦しい時期を過ごしてきました。そうした状況のなか、奥村竜也コーチに出会って、トップで少し左足を浮かせてダウンスイングで踏み込んでいく"一本足打法"に取り組み、この1年で飛距離が20ヤードほど伸びたと言います。

 実際、私がテレビ解説を務めた6月の宮里藍 サントリーレディスではティーショットがかなり飛んでいたのを目の当たりして、とても驚きました。

 その後、NEC軽井沢72で再びテレビの解説を務めることになって、彼女が1番ホールのティーショットを打つ時に「彼女、片足を上げるんです」と言ったら、その時にはもう(左足を)上げていなかったんですよ(苦笑)。それで「えぇ~!?」ってなったんですけど、彼女が求めるものが飛距離から方向性へと移りつつあるのかな、と思いました。

 そうしたら、その2週間後のゴルフ5レディスで念願のツアー初優勝を飾ったんですよね。一度は挫折を味わうも、そういった試行錯誤の積み重ねが今季、実を結んだのでしょう。