侍ジャパン・栗山英樹監督 新春スペシャル・インタビュー(後編)

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栗山英樹監督が語るWBCでの選手起用論。「先発投手は4人で十...の画像はこちら >>

2009年のWBC第2回大会以来の世界一を目指す侍ジャパン・栗山英樹監督

【今回WBCのテーマは?】

── 過去4度のWBCでは、準決勝を勝った第1、2回大会は優勝。優勝できなかった第3、4回大会は準決勝で敗れています。オリンピックも含めてジャパンの鬼門となってきた準決勝ですが、栗山監督は今回、準決勝からの逆算をするお考えはありますか。

栗山 準決勝からの逆算をするつもりはありませんが、準々決勝、準決勝は絶対に勝ち抜かなければ決勝にいけないというふうには思っています。

── 大事にするのは準々決勝と準決勝。

栗山 そういうふうには言いたくない(笑)。ただ事実として、そこを抜けなければ決勝には行けないということはあります。最後までいけば、必ず何かを起こせると思っていますから......僕はアメリカをやっつけたいんです。憧れて戦うわけじゃない。

あのすごいメンバーに勝ってやると思っていて、それが日本の野球にとって大きな意味を持つと思っています。そのためには(アメリカが勝ち上がってくる前提で)準々決勝を抜けなければアメリカと戦えないし、準決勝を勝てなければアメリカにも勝てていないことになります。

── 準々決勝と準決勝というのは負けたら終わる。まして準決勝は、準々決勝で勝った直後に渡米してすぐ、慣れないマイアミの球場で戦わなければならない。その大事で難しい試合を託すのは誰か、というイメージは必要ですよね。

栗山 もちろんです。

── それはすでにメジャーで絶対的な力を示しているダルビッシュ投手なのか、あるいはその力をこれから世界に示さなければならない山本由伸投手なのか、どちらでしょう。

栗山 僕はこのWBCにはいくつかのテーマがあると思っていて、そのなかにはメジャーを圧倒できる次代の日本のスターをつくるということもあると考えています。同時に、歴史というものは勝者の歴史なので、勝たなければやったことが伝わらない可能性もあります。もちろん由伸や(佐々木)朗希の状態がよければそこでいくべきだけど、2人を上回るピッチャーがいれば躊躇すべきでないという考え方もあります。野球は勝ちにいかなきゃいけないわけで、日本野球の未来のための舞台ではあるけど、ひとりの選手の未来のための舞台ではない。

── ということは、準決勝は山本投手ではなく、ダルビッシュ投手の可能性も......。

栗山 だから、気が早すぎますって(笑)。準々決勝は3月16日の東京ドーム、準決勝はアメリカに移動して19日か20日......少し間が開くので、いろんな幅ができる可能性がありますからね。球数のこともあるし、東京ドームの準々決勝で3人の先発ピッチャーを3イニングずつ突っ込んじゃうかもしれない。

 決勝までいけば、投げられるピッチャーを1イニングずついってもらうことだってあるかもしれません。先を計算してその前で負けてしまっては何にもなりませんからね。チームは生きものだし、だからこそ、この選手が今は元気なのか、弱っているのかを間違わずに見極めることが監督としての勝負だと思っています。

選手をグラウンドへ送り出せば、あとは僕の周りには野球をよく知っているコーチ、スタッフがたくさんいますから。

【先発投手は4人で十分】

── 1次ラウンドは3月9日から12日までの4連戦です。中国、韓国、チェコ、オーストラリアの順番で、準々決勝が16日。時差のあるアメリカに渡って準決勝は19日か20日のどちらか、決勝が21日です。となると1次ラウンドで韓国戦に投げたピッチャーを、中5日で準々決勝に起用するのか、あるいは中8、9日で準決勝に回すのか。

栗山 球数が60球なら、中5日で準々決勝の可能性はあります。1次ラウンドでは韓国戦が大事になってくるのは間違いないので、そこの流れをどう考えるか。

中国戦に投げて準々決勝に向かう考え方もありますが、いずれにしても先発ピッチャーはそんなにたくさんは必要ないでしょう。

── 4人、ですかね。

栗山 4人で十分でしょう。問題は球数制限があるなか、先発はイニング頭からいけますが、セカンド先発(2番手)はイニング途中からいく。それがあまりうまくないピッチャーもいますからね。決まった時間に向けて準備をしていかないと力を発揮できないタイプにセカンド先発は務まりません。

 この前の秋の強化試合でも、ブルペンからはそれが難しいピッチャーはいると報告を受けています。だからピッチャー陣は先発を4人選んだら、5人目の先発は力があるとわかっていても選ばない可能性もある。セカンド先発のできるタイプを優先させて、先発は4人で勝負するとハラを括るのは難しい決断ではありますが、たくさんいる代表候補の先発ピッチャーたちには、その4枠を自力でもぎ取るんだという気持ちでいてもらいたいと思っています。

── 先発4人、あとは......。

栗山 セカンド先発としてブルペンに入るグループは3つにわかれていて、セカンド先発、1イニングを投げるショートリリーフ、その両方ができる人......ピッチャーは最低14人を選ばなければならないレギュレーションですから、先発の4人以外には10人。抑えについてはまだ決めなくてもいいと思っています。

 抑えができるピッチャーはたくさんいますからね。湯浅(京己)もそうだし、ダルもWBCで経験があるし、由伸もリリーフをやっていた。翔平だって......先発もキツいけど、最後を託されるのも相当キツい。もちろん、そういう起用法を考えるピッチャーについては、事前にそれぞれのチームと相談してからになりますが。

【日本のプロ野球は過渡期】

── 野手についてはいかがでしょう。監督は1年前、センターラインが絶対的に大事だとおっしゃっていました。今、じつはそこが一番見えにくいんですが......。

栗山 ここまで来て、誰が見てもセンターラインのこのポジションはこの人に任せようというふうになってないことが、僕にとっても驚きです。それは今の日本のプロ野球が過渡期であることを象徴しているというふうにも考えられる。きっと本当のスーパースターが生まれる前夜なんです。キャッチャーなら城島(健司)や阿部(慎之助)、二遊間なら(宮本)慎也とか、(坂本)勇人もそうだし、センターなら柳田(悠岐)が歳を重ねてどうなのか。今は誰が選んでも満票入るセンターラインではない、ということは事実だと思っています。

── ならば監督は何を重視してセンターラインを組みますか。

栗山 そこはピッチャーが2点に抑えることを優先して考えるなら、守りだけでセンターラインを固める手もあると思います。3点はセンターライン以外の選手で取りにいくということですよね。ただ、ビハインドの展開になった時、攻撃的なメンバーが揃っていないと一気呵成に反撃できませんから、そこも難しい。

 しかも守りというのは100パーセントではないし、本当に守りだけという選手は限られた数のなかでは選びにくくなります。一発勝負の代走でスタートを切れるとか、確実にバントを決められるとか、絶対に1点が欲しい時に代打で仕事ができるとか、いくつものポジションを守れるとか、何かしらのプラスアルファがないと、メンバーが30人だとしても、入れるのは難しい。

── なるほど......では今までジャパンを背負ってきた、経験値の高い選手についてはどうお考えですか。

栗山 菊池(涼介)、勇人、柳田、菅野(智之)もそうだし、マー君(田中将大)もそうかもしれない。ジャパンの中心を担ってくれた選手の年齢が上がってきて、それに若い選手が追随する形でその差は縮まっていても、まだ追い抜くところまではいっていない。だから勢いを優先して若い選手を選ぶのか、実績を大事にして経験値の高い選手を選ぶのか、そこについての正解はありません。だからこそ、最後は魂なんです。誰よりも勝ちたくて誰よりもアメリカをやっつけるんだという魂。こういう野球人生を送るんだという熱さのあるなしは年齢とかは関係ない。ただ、そこについてはこの1年、まったく見極められなかった......。

── えっ、見極められなかった?

栗山 そこは正直に言います。何しろ接点を持てませんでしたからね。新型コロナウイルス対策でグラウンドへ下りられないし、選手と話ができない。何しろこの11月の強化試合で初めてゆっくり話をした選手がたくさんいたんですから......僕が一番知りたかったこと、ほしかったものはこの1年、得られないままでした。

── となると、魂のあるなしの見極め、どうしましょう。

栗山 どうしようか(笑)。もちろん集められるだけの情報は集めました。この選手はどう言ってるのとか......だけど僕はいろんな人から「彼には魂を感じない」と聞かされていた何人もの選手と話をしましたが、そう言われている選手たちもこちらの想いを真正面からぶつけると、ちゃんと返してくれるんですよね。だから僕は先入観を捨てるところから始めないといけないと思っています。

【大谷翔平をレフトで起用?】

── 絶対的にここは動かさない、何があっても心中しようと思えるのはDHの大谷選手、サードの村上宗隆選手、ライトの鈴木誠也選手ですか。

栗山 外野手はセンターが決まらない難しさがあるなかで、右バッターの誠也がライトに入ってくれたことはよかったと思っています。あとは村上も動かさないでしょう。翔平は普通に考えればDHかもしれないけど......。

── かもしれない?

栗山 レフトとか......。

── また、そんなことを(笑)。

栗山 それって普通はできないんだけど、でも、僕だったらやりそうでしょ(笑)。いや、やらないですよ。やらないけど、その発想は持っておかないといけないんです。みんなが一流選手だからこそ、全員にあらゆる可能性があることをイメージしておく。僕がそれはないと思ってしまったら、選手もそれはないと思ってしまう。そうならないために、僕はあらゆるケースを事前に想定しておく必要があるんです。

── キャッチャーについては、秋の強化試合で甲斐拓也選手、中村悠平選手、森友哉選手の3人を選びました。それが基本になるのでしょうか。

栗山 友哉がチームを変わりましたから、そこがどうかですよね。ただ、あの3人のバランスはすごくよかったと思っています。打てる友哉、守れる甲斐、両方できる悠平。友哉は左だし、そこもいい。キャッチャーは3人にしておいたほうがいいので、優勝経験があって修羅場をくぐってきた甲斐と悠平は軸になるとは思っています。あとは友哉次第ですね。僕は、友哉は欠かせないと思っているんだけど......。

【ヌートバーの代表入りは?】

── (ラーズ・)ヌートバー(カージナルスの外野手、母が日本人でWBCには日本代表として出場資格がある)選手についてはいかがですか。

栗山 この前もクリスチャン・イエリッチ(ブリュワーズ、母方の祖母が日本人)の代理人から「どうなってるんだ」と問い合わせがありました。あとはスティーブン・クワン(ガーディアンズ)、ケストン・ヒウラ(ブリュワーズ)、アイザイア・カイナーファレファ(ヤンキース)......カイル・ヒガシオカ(ヤンキース)は未確認だけど、そのほかのみんなは「喜んで出ます」と言ってくれた。すごいですよね、これって。

── イエリッチ選手も?

栗山 ただルール上、どうなっているのかの最終確認が思うように進まなかったんです。今までは祖父母が日本人ならオッケーだったのに、今年のルールでは両親だけになるらしい。そうなるとオッケーなのはヌートバーだけなんですよね。

── 戦力という観点から見ても、彼は右投げ左打ちの外野手で強肩、選球眼もよく、一発もあります。カージナルスではムードメーカーだし、ヌートバーの加入はジャパンにとってはいろんな方向から足りないピースを埋められる存在です。

栗山 日本の選手を育てるために機会を与えることも考えたうえで、本気で勝つつもりならそういう選手を3人入れてもいいとさえ思っています。

── 3人?

栗山 野球はグローバル化していかなければならないし、このWBCで日本と縁のある選手を巻き込むことで野球を日本から世界へ広げていくことも僕の使命なのかなと思っていています。

── 縁が大切だということで考えればイエリッチ選手はイチロー選手と、ヒガシオカ選手は田中将大選手と一緒にプレーしたこともあります。

栗山 いずれはアメリカの野球が普通にならないと日本の野球のレベルは上がりません。アメリカの野球が特別なものになってはいけない。僕らは追いつけ追い越せでやってきて、最近は追い越せないとどこかで思ってしまっている。それを野茂(英雄)やイチロー、松井(秀喜)や(松坂)大輔......ほかにもたくさんの日本人選手が覆してくれて、今はダル、翔平、誠也が頑張ってくれています。マエケン(前田健太)も(菊池)雄星も、筒香(嘉智)も澤村(拓一)も、有原(航平)だって今、アメリカで戦っている。

 そういう選手たちの姿を見てもらうことで、子どもたちに「僕もこういうふうになりたい」という夢を持ってもらいたいんです。それが彼らの生きる力にならなきゃいけない......WBCはそういう戦いだと思っています。10年後、「あのWBCを見て僕もそうなりたいと思ったんです」という子どもが出てきてくれるよう、そういう姿を見せてくれって選手にはお願いしたい。それこそが日本野球の"魂"だと思いますから──。

おわり

栗山英樹(くりやま・ひでき)/1961年、東京都生まれ。創価高から東京学芸大を経て、84年ドラフト外でヤクルトに入団。89年には自己最多の125試合に出場し、ゴールデングラブ賞を獲得。90年の現役引退後は野球解説者、スポーツキャスターとして活躍。2012年から日本ハムの監督に就任し、1年目にリーグ制覇。16年には日本一を達成した。10年間日本ハムの監督を務めたあと、22年から侍ジャパンの監督に就任した。