攝津正から見た今季のソフトバンク 投手編

 WBC開幕が近づいて熱が高まってきているが、プロ野球もオープン戦もスタートし、ファンにとっては自分が応援する球団の様子も気になるところだろう。

 2年連続でリーグ優勝を逃したソフトバンクはオフに大補強を敢行したが、エースの千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)が抜けた穴をどう埋めるかが目下の課題だ。

その点について、ソフトバンクで5年連続開幕投手を務めるなどエースとして活躍し、2012年には沢村賞など数々のタイトルを獲得した攝津正氏はどう考えているのか。新戦力や若手で注目しているピッチャー、新任の斉藤和巳投手コーチへの期待などについて聞いた。

千賀滉大の穴は「十分に埋められる」 ソフトバンクOBの攝津正...の画像はこちら >>

攝津氏が注目投手のひとりに挙げた板東湧梧

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――長らく先発ピッチャー陣の軸となっていた千賀投手がメッツに移籍。そんななかで今季に期待しているピッチャーはいますか?

攝津正(以下:攝津) 実績や経験から考えると、東浜巨投手、石川柊太投手ですね。

――攝津さんがリリーフを務めていた2011年オフには、和田毅投手、杉内俊哉投手、デニス・ホールトン投手と、先発の柱である3人が一気に抜けたこともありました。

攝津 確かに千賀投手が抜けたことは痛いですが、あの時に比べたら全然大したことないです(笑)。
昨シーズン、千賀投手は11勝(6敗)。その数字だったら、残りのメンバーの出来次第ではありますが、十分に埋められると思います。

――とはいえ優勝のためには、貯金が作れそうなピッチャーがもう1、2人は出てきてほしいところだと思います。そう考えた場合に注目しているのは?

攝津 プロ5年目の右腕、板東湧梧投手です。昨シーズンはあまり勝てませんでしたが(3勝3敗)、山本由伸投手(オリックス)と何回か当たっているんですよね。その影響でなかなか勝ちはつきませんでしたが、けっこういいピッチングをしていました。


 シーズンを通して何かを掴んだというか、先発で十分にやっていけるようなものが見えていましたし、正直今シーズンはふた桁勝てるんじゃないかと思っています。キャンプで見た時も、昨シーズンに比べて体が大きくなっていました。

――板東投手のストロングポイントは?

攝津 もともとコントロールがいいですし、150kmを超える球威もあります。その上、緩急をつけることができて、落ちるボールもある。先発ピッチャーとしての資質が備わっています。あと、徐々に1軍のマウンドに慣れてきたこともあって、本来の持ち味である制球力がかなり向上していますね。

昨シーズンくらいから、思ったとおりに投げられている感覚があると思いますよ。

――昨シーズン最後の試合(10月2日のロッテ戦)は、勝てば優勝という大一番でしたが、板東投手が先発してロッテ打線を5回無失点に抑える好投。そのまま続投かと思いましたが、5回で降板しました。(その後、6回に2番手の泉圭輔投手が山口航輝選手に3ランを打たれて逆転を許し、敗戦。優勝を逃した)

攝津 確かに「あのまま投げさせていたら......」と思えるぐらいのいいピッチングでした。ただ、ああいう大事な試合になると、やはり実績とかがないと任せられないという部分もあると思うので、そこは難しいです。
前年にふた桁勝っていたとか、先発ローテーションの2番手ぐらいで回っている力があったりすれば、間違いなく続投だったと思いますが、そこまでの信頼はまだないのでしょう。

――同試合を見ていても思いましたが、板東投手のフォークはかなり有効ですね(昨シーズンのフォークの被打率は.094)。

攝津 そうですね。彼はフォークピッチャーで、カーブもいいです。あとはカットボールやスライダーも投げますし、それらを満遍なく使えて真っ直ぐも150kmを超えるので(昨シーズンの最高球速は153km)、先発ピッチャーとして好条件が揃っていると思います。

 他に注目しているのは、4年目の大関友久投手と9年目の藤井皓哉投手。
大関投手は球数が増えても球威が落ちませんし、完投能力が高いです。今季の開幕投手にも抜擢されましたが、「左のエースになってくれたら」というチームの思いがあるんでしょうね。

 藤井投手はリリーフから先発への転向でどれくらいできるかわかりませんが、ある程度は勝てるでしょう。そうなると板東、大関、藤井、3投手の働きで千賀投手の穴は十分埋められるんじゃないかと。

――藤井投手が先発に転向するにあたって、不安はないですか?

攝津 不安は変化球です。スライダーとフォークしかないので、少ない球種でどう抑えていくのか......。
キャンプではカーブに取り組んでいましたが、習得まではしばらくかかりそうです。長いイニングを投げなければいけない先発ピッチャーとして、緩急を取り入れようとしているんでしょうね。

――新戦力の有原航平投手、ジョー・ガンケル投手はどう見ていますか?

攝津 昨シーズンのガンケル投手は5勝5敗ですが、防御率は2.73と阪神でプレーした3年間で一番安定していました。有原投手は2021年に右肩の手術をして、昨シーズンはマイナーとメジャーを行き来していましたが、打ち込まれるシーンが目立ちました。

 日本で実績があるピッチャーなので期待したいですが、肩がどれくらいの状態なのかを含めて未知数です。紅白戦でも投げていましたが、この後も見ていかないとわかりません。

 ルーキーの大津亮介投手は紅白戦でいいピッチングを見せていますし、技巧派でコントロールがいいタイプなので楽しみです。ベテランの和田毅投手は、シーズンを通してローテーションを回らずに「1、2回投げて抹消」というパターンだと思うので、そこを埋める先発ピッチャーに出てきてほしいですね。

――リリーフで注目しているピッチャーは?

攝津 4年目の津森宥紀投手です。サイドスローで真っ直ぐが速いですし、三振が取れる。パワーピッチャーですが、コントロールを乱して自滅するタイプでもない。ただ、いいものがありながら、勝ちパターンに定着できていないので、今シーズンは勝ちパターンの6回、7回あたりにハマれば面白いと思います。

――新たなクローザーとして、ロベルト・オスナ投手を獲得しました。

攝津 カットボールがすごいです。ヤンキースにいた(マリアノ・)リベラ投手みたいに、全部曲げますね。カットボールで150km中盤が出ますし、コントロールがよくてビシビシ決まりますから、なかなか打てないと思います。あの球威でクセのあるボールを投げられたら、1イニングでの攻略は厳しい。(リバン・)モイネロ投手とふたりでほぼ完璧に抑えられるでしょうから、安心感があります。

――今シーズンからコーチを務める、斉藤和巳さんへの期待は?

摂津 ホークスはドラフト上位の投手、特に右ピッチャーが出てきていないんです。ドラフト1位(2016年)で期待していた田中正義投手は、近藤健介投手の人的補償で日本ハムに移籍しましたし、松本裕樹投手(2014年1位)はある程度は活躍していますが、武田翔太投手(2011年同1位)や高橋純平投手(2015年同1位)、風間球打投手(2021年同1位)らがくすぶっています。

本来なら柱にならなきゃいけない投手たちがくすぶっているので、右の大エースだった和巳さんには、そこを引き上げてほしい。和巳さん自身も苦労してエースになっているので、技術的なことはもちろん、メンタル面も教えていただけたら大きいのかなと思います。

――攝津さんから見た斉藤投手コーチの印象は?

攝津 和巳さんが現役の時は怖かったですよ......ピリついていました。でも、今はそんなことはないですし、若くて投手との年齢も近いので、うまくコミュニケーションを取れれば、投手たちは非常にやりやすいんじゃないかなと思います。

――斉藤投手コーチの現役時代は、最後までマウンドに仁王立ちして投げきる姿が印象的でした。今は分業制が顕著ですが、投手にもそういったマインドは注入していく?

攝津 そうだと思います。ただ、コーチがそこを投手に求めるというより、投手自身が求めないといけません。「6回、7回まで投げられればいいや」と思って取り組むのと、「完投するんだ」と思って取り組むのでは成果はまったく変わると思います。いずれは和巳さんのようなピッチャーを育ててほしいですし、シーズンを通じてどんな手腕を発揮してくれるのか期待しています。

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【プロフィール】
攝津正(せっつ・ただし)

1982年6月1日、秋田県秋田市出身。秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後、社会人のJR東日本東北では7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98。