WBC開幕 緊急鼎談(前編)

 いよいよ第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開幕する。プールBの日本は、準々決勝進出をかけて中国、韓国、チェコ、オーストラリアと1次ラウンドを戦う。

年々、世界の野球レベルは上がっており、今大会もチェコが予選を勝ち上がり、本戦初出場を果たした。日本のライバルとなるのはどの国なのか。世界の野球を知る『中南米野球はなぜ強いのか』の著者である中島大輔氏、日本語公式サイト「MLB.jp」の編集長の村田洋輔氏、ロックバンド『SCOOBIE DO』のドラマー兼マネージャーであり、MLBコメンテーターも務めるオカモト"MOBY"タクヤ氏の3人に集まっていただき、第5回WBCの見どころについてたっぷり語ってもらった。

「侍ジャパンの不安要素」「韓国の戦力」「チェコの躍進」などW...の画像はこちら >>

(写真左から)オカモト

【日本選抜ではなく日本代表】

── 今大会、日本代表はダルビッシュ有選手(パドレス)、大谷翔平選手(エンゼルス)をはじめメジャーリーガーが名を連ね、球界ナンバーワン投手の山本由伸選手(オリックス)、"令和の怪物"と評される佐々木朗希選手(ロッテ)、昨年史上最年少で三冠王を達成した村上宗隆選手(ヤクルト)など、史上最強と呼ばれています。今回の日本代表について、率直な感想を聞かせてください。

中島 日本選抜ではなく、日本代表だなと思いました。たとえば、山川穂高(西武)が5年前の日米野球でアメリカの投手をまったく打てなかった。

だから今回の選考に関して、山川を外すという選択肢もあったと思うんです。でも山川というのは、日本を代表する長距離打者のひとりです。ただ勝つだけでなく、栗山英樹監督のなかに日本の野球がベースボールに対してどこまでできるのか、そういうのを示す意図もあるのかなと思いました。

村田 あと今回の注目と言えば、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)の招集です。前回、前々回と優勝を逃し、もう一度、世界一になるために、あらゆる可能性を探って、世界と戦えるチームをつくりあげた。そのひとつがヌートバーの選出だったと思います。

MOBY ベースボール最高峰の大会として、WBCがもっと根づいていくためには多様性が求められる。そういう意味でヌートバーの選出というのは、ものすごく意義のあることだと思います。もちろん、戦力として必要だからこそ選ばれたのですが。

中島 ここ2大会、日本は準決勝でメジャーの一線級の投手を打てていなかったですからね。そういうこともあって、メジャーリーガーの力が必要だと考えたのでしょうね。

MOBY 栗山監督だからこそ、これだけのメンバーを集められたのかもしれません。

まず大谷の参加だけでも大きかったのに、そこにダルビッシュ、吉田正尚(レッドソックス)といった選手まで加わった。

村田 今回、鈴木誠也カブス)は残念ながらケガで辞退になりましたが、ほかにも日本代表として戦える可能性がある選手には声をかけたと聞きました。それを考えると、アメリカに行くのではなく、アメリカで勝つという思いが強く表れています。

MOBY スティーブン・クワン(ガーディアンズ)もそうですよね。

村田 それこそヤンキースのアイザイア・カイナーファレファにも出場資格があるのか、確認をとっていたみたいです。

中島 ヌートバーの選出にはいろいろな意見もありますが、そうした議論が起こることも栗山監督は想定していたのかなと。

もし今大会でまったく活躍できなれば、今後、日系選手の招集に消極的になってしまうかもしれませんが、こういった選考は続けるべきだと思います。

MOBY そうですよね。この大会に参加する外国人選手からは、心から「楽しもうぜ!」という感じが伝わってきます。ヌートバーもその感覚でプレーするでしょうし、見る人にとってはとても新鮮に映るはずです。

中島 ラグビー日本代表も以前、そうした議論がありましたよね。でも、いざ大会が始まると、「日本人スピリッツを見せてくれた」と受け入れていました。

そうした発想が当たり前になってくれればいいなと。

MOBY サッカーのワールドカップは出場資格が厳しいですけど、まだWBCはそこまでではない。それこそ前回のWBCでアメリカ代表として大会MVPに輝いたマーカス・ストローマン(カブス)は、今回はプエルトリコ代表として出場します。

中島 2013年にドミニカ代表で出場し、今回はオランダ代表となったペドロ・ストロップ(元カブス)もそうですよね。

MOBY アロルディス・チャップマン(ロイヤルズ)に至っては、イギリスの予備登録をしていた(笑)。そういうのは面白いなと。

見方はいろいろあるかもしれませんが、エンタメとしては究極の楽しみ方かもしれないですね。

村田 この選手はこういうルーツを持っているんだとか。それはWBCの楽しみ方のひとつとして、根づいてほしいですよね。

MOBY あと個人的には、日本代表にカート・スズキをスタッフとして入れてほしかったなと。引退したばかりですが、たとえばブルペン捕手として参加するとか!

【韓国の野手陣は強力】

── 日本にとって、1次リーグのライバルとなるのはどのチームでしょうか?

村田 やはり韓国ですよね。今回、韓国系アメリカ人の現役メジャーリーガーであるトミー・エドマン(カージナルス)を招集し、新しいチームづくりに取り組み始めました。

中島 それにキム・ハソン(パドレス)が、アジア人でメジャーのショートのレギュラーを獲得したというのは、すごいことだと思うんです。フィールディングはもちろんですが、肩も強い。守備指標はメジャーでもトップクラスで、アジア人でもメジャーでショートができるというのを証明しましたよね。

村田 エドマンも2021年にゴールドグラブを獲っています。韓国の二遊間は、守備だけ見れば今大会トップです。

MOBY ほかにも今オフにメジャー行きが噂されているイ・ジョンフもいます。ちなみに、お父さんは中日でプレーしたイ・ジョンボムです。

村田 彼の生まれは名古屋ですからね(笑)。昨年、韓国プロ野球で首位打者と打点王の二冠王に輝いたスーパースターで、アメリカの球界関係者も今回の彼の活躍には注目しています。

中島 実際に戦ってみないと本当の戦力はわからないですが、韓国とはWBCをはじめこれまでの国際大会で激闘を繰り広げていますからね。1次ラウンドで日本のライバルになるのは、間違いなく韓国だと思います。

村田 オーストラリアは1ランク、2ランク落ちますし、チェコ、中国は今大会で1勝が目標のチームです。日本とすれば、韓国戦でどういう戦いができるのか。1次リーグの注目はそこでしょうね。

MOBY ただ韓国は、野手陣はいいけど、投手力が少し落ちますよね。

村田 これまで韓国のエースとして活躍していたキム・ガンヒョンが今も健在というところに、世代交代が進んでいないのかなという印象を受けます。

【チェコリーグで日本人募集?】

MOBY 僕はチェコに期待したいですね。ほとんどの選手が別の本業がありながらプレーしてきて、それで予選を劇的な勝利で勝ち上がってきたわけですからね。そんな彼らが大谷翔平や佐々木朗希と対戦するかもしれないというのは、それだけで激アツです(笑)。

中島 オーストリア代表の監督が日本人なんですが、その方に聞いたらチェコはヨーロッパでもトップクラスで、大学生がアメリカに行くようになってからレベルが上がったみたいです。それにチェコリーグって普通の生活ができるくらいのサラリーはもらえるから、選手も増えてきた。

MOBY つい最近ツイッターで、チェコリーグのピッチャー募集っていうのが出ていて......しかも日本語で出ていたんですよね(笑)。

中島 フランスのリーグでも日本人の募集がありました(笑)。

MOBY あと北欧とかも野球が盛んみたいで、フィンランドだったかな......だから、昔に比べてヨーロッパの野球人口は増えているのかなと。もちろん、サッカーに比べればまだまだなんですけど、今回チェコが出場したというのは意味のあることだと思います。

中島 ドイツもメジャーのスカウトが常駐していたり、ヨーロッパのレベルは確実に上がっていますよね。MOBYさん、チェコで気になる選手はいますか?

MOBY チェコのなかで唯一、バリバリのメジャーリーガーだったのがエリック・ソガード(元カブス)です。2020年に前田健太(ツインズ)が8回までノーヒットピッチングをしていたのですが、9回にヒットを打ったのがソガードだったんです。そんな彼が、経験の乏しいチェコの選手たちと一緒にプレーするというのはすばらしいことだなと。日本に勝てるかとなればまだ別の話ですが......。

「侍ジャパンの不安要素」「韓国の戦力」「チェコの躍進」などWBCのプールBを世界の野球を知る男たちが語り合う

世界一奪還に挑む栗山監督(写真左)率いるWBC日本代表メンバー

【日本代表の不安要素は?】

── あえて日本代表に不安があるとすれば、どこだと思いますか?

村田 韓国は初戦でオーストラリアと戦い、2戦目に日本と戦います。韓国としては、初戦に勝てば準々決勝進出がグッと近づくわけで、ここに照準を絞ってくる可能性があります。対する日本の初戦は中国で、普通に戦えば負ける相手ではありません。逆に、気の緩みというか、韓国ほど高いモチベーションで臨めないんじゃないかと。そこが少し心配ですね。

中島 今回の日本は、先発に比べてリリーフ型の投手が少ないのが気になります。前回のWBCは、それこそ5回あたりから平野佳寿を投入し、リリーフ陣で残りのイニングを消化していましたが、はたして今回もそのような継投ができるのかどうか。

村田 たしかに、リリーフを専門としている投手が少ないですよね。大谷、ダルビッシュ、山本、佐々木の4人は、今大会最強の先発陣と言われていますが、WBCは球数制限もあって継投にならざるを得ない。

MOBY クローザーについては、あえて決めない方針のようですが、栗林良吏、大勢、松井裕樹らが候補に挙がります。

村田 球数制限があるから、イニング途中の降板も考えられるし、そうなった時は宇田川優希に任せるんですかね。残りのアウトをとる役割というか......。

中島 そういう使い方になるでしょうね。とにかく、勝ちパターンをどうつくるかがポイントになると思います。そこが確立すれば、かなり優位に戦いを進められる。

MOBY まずは準々決勝に勝つことが最優先ですから、1次リーグでチーム力を上げていってほしいですよね。

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