WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本と同じグループBのオーストアリアを率いるデービッド・ニルソン監督は、現役時代はメジャーで通算105本塁打を放ち、日本では「ディンゴ」の登録名で、中日でプレーした。また、2004年のアテネ五輪ではのちに阪神に入団するジェフ・ウィリアムスとバッテリーを組み、日本に勝利した経験を持つ。

指揮官となった今、どんな野球で日本に挑んでくるのか。ニルソン監督を直撃した。

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オーストラリアを率いるニルソン監督

【日本を知り尽くす指揮官】

── 2月23日から約10日間、WBC事前キャンプとして東京・府中市に滞在しました。今回のキャンプで印象深かったことは何ですか。

「府中はもう3度目ですが、きれいでフレンドリーな街です。大國魂神社参拝、小学校訪問など楽しい経験をしましたし、高野律雄市長にはとても親切にしていただきました。オーストラリアはラグビーが盛んですが、府中は日本で1、2を争うラグビーの街だと聞きました。

オーストラリアからも有名な選手が来日して、府中のチームでプレーしています」

── ニルソン監督は、MLBのブルワーズで活躍され、99年には野茂英雄さんとバッテリーを組みました。野茂さんの独特な"トルネード投法"、そして決め球のフォークはいかがでしたか。また、今回来日するにあたり連絡はとられましたか。

「とにかくフォークがすごくて、99年に12勝を挙げる活躍をしました。彼とは仲良くしてもらい、いい関係を築きました。今回、彼が日本代表の宮崎キャンプに視察に訪れていたことは知っていましたが、連絡はとっていません。

大会中、どこかで偶然でもいいので会えればいいなと思っています」

── その後、ニルソン監督は中日でプレーしました(2000年/登録名はディンゴ)。そのこともあり、日本の野球を熟知していると思いますが、どんな特徴があり、どんな印象を抱いていますか。

「日本以外のチームは、傑出した選手など個々の力にフォーカスしますが、日本はチームワーク、団結力が強いですよね。それこそが大きな特徴であり、日本の武器ではないかと思っています」

── ニルソン監督は2000年のシドニー五輪で黒木知宏投手(当時・ロッテ)から本塁打を放ちました。2004年のアテネ五輪では、予選リーグで安藤優也投手(当時・阪神)から本塁打を放ち、9対4で日本に勝利しました。準決勝では3番・捕手で出場し、ジェフ・ウィリアムス(阪神)をリードし、1対0で勝っています。

中日でプレーした経験もあって、日本には自信を持っていたと聞きます。

「シドニー五輪で我々は7位と悔しい思いをしました。アテネ五輪では、現在、代表チームの投手コーチを務めるグレアム・ロイドが頑張ってくれました。そして日本との準決勝は、松坂大輔投手が好投したのを覚えています。しかし、我々はシドニー五輪の雪辱を果たすことができました。

 2000年に日本でプレーしたことにより、日本人選手の野球に対するアプローチを理解できていたのです。

打者ならどんなボールを狙ってくるか、投手ならどんなボールを投げてくるかです。その経験を、2004年のアテネ五輪で生かせたのだと思います。私は2006年の第1回WBCでもオーストラリア代表で出場しました。私だけに限らず、国際大会を経験したマイケル・コリンズやアンドリュー・ブライアンが代表チームのコーチとなって、若い選手に国際大会の戦い方、メンタルの持ち方などを伝えています」

【目標は1次ラウンド突破】

── 昨年11月に侍ジャパンと強化試合を行ないました。印象に残った投手、打者はいましたか。

「日本は投げるのも打つのもいい選手がいました。

誰もがよく知っている世界的に有名な選手です。2WAY(二刀流)の......あっ、それは大谷翔平選手ですね。札幌の時はいなかったですね、ジョークです(笑)。とにかく、札幌での2試合で、日本代表の選手が高い技術力を持っていることはわかりました。ただあの時は、対日本ということよりも、オーストラリア代表の選手の実力を把握することに重点を置いていました。

 投手ではワーウィック・ソーポルド、ティム・アサートン、打者ではダリル・ジョージが2017年のオリックス育成選手の時よりもレベルアップしています。

大会前にはアメリカでプレーしている投手のカイル・グロゴスキ、センターを守るアーロン・ホワイトフィールド、内野手のロビー・グレンディニングが合流します。ただ、選手個々の技術力というよりも、その選手たちがチームにどのように貢献してくれるかというところを私は大事にしています」

── オーストラリア代表のストロングポイントは何だと思いますか。府中でのクラブチームとの試合を見ていると、投打ともにパワフルな印象を受けました。

「オーストラリアの強みはパワフルな打撃と思われがちですが、投手力と守備力です。そして投手陣はコントロールがメインです。先日の練習試合では気温8度。あまりの寒さに指先がかじかんで、コントロールできない投手が多くいました。

 打線は個々の選手にパワーはありますが、それに頼るのではなく、各打席でチームにどのような貢献をしてくれるのかを期待しています。クラブチームとの練習試合では、ランダウン(挟殺)プレーの間に得点するシーンがありましたが、WBC本番でもあらゆる場面で集中していきたいです」

── 日本とは3月12日に対戦します。どのような戦いを考えていますか。

「本番直前のコーチミーティングで最終的な作戦、対策をいろいろ講じるつもりです。日本の先発については、おそらく山本由伸投手(オリックス)ですかね......ストレートも速く、変化球も多彩でいい投手であることはわかっています。もちろん、苦戦するでしょう。でも私としては、自分たちがどういうパフォーマンスをできるかにフォーカスしたいです。

 2004年のアテネ五輪で日本を倒したことは、すばらしい思い出です。ただ、私の人生の目標はオーストラリア野球の新しい歴史をつくることです。WBCでの目標は、まず1次ラウンドを勝ち抜くことです。次のラウンドに進んだら、そこであらためて目標を設定しようと思います」