日本代表が第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の初戦で中国代表と対戦し、8対1で白星発進した。1回裏、日本は4番・村上宗隆の押し出し四球で先制。

4回には3番・大谷翔平が左中間フェンス直撃の2点タイムリーでリードを広げる。7回には7番・牧秀悟のライトへのソロ本塁打、8回には途中出場の山田哲人のレフト前タイムリーなどで4点を加えた。

 先発の大谷は4回を投げて被安打1、無失点と好投。5回から第2先発の戸郷翔征が3回1失点に抑えると、8回を湯浅京己、9回を伊藤大海とつないで逃げきった。試合のポイントについて、元中日の投手で現在は野球解説者、トヨタ自動車のテクニカルアドバイザーとして活動する吉見一起氏に聞いた。

「大谷翔平はらしさ全開。いろんな種類のスライダーを投げていた...の画像はこちら >>

WBC初戦の中国戦に先発し、4回1安打無失点と好投した大谷翔平

【制御しながら投げていた大谷翔平】

 侍ジャパンの初陣というなかで、先発の大谷投手はかなりの重圧があったと思います。そんななか、初回の先頭打者を三振に仕留め、いいスタートがきれました。

例年なら調整段階の時期ですが、そうした状況でも"らしさ"を全開で出せた投球だったように感じました。

 立ち上がりは力が一番入っているように見えましたが、3回くらいから球速をちょっと落としながら、時々力を入れるというピッチングでした。マウンド上での力の入れ方というか、自分のなかで体をうまく制御できているように見えました。もしかしたら、全力で投げたらそんなに制御できないのかなというボールもありましたが、そこをうまく調整していきましたね。

 全体的にはスライダー中心の配球で、その点では昨年のエンゼルスでのピッチングと同じでした。一方、スライダーのなかでもスピード差をつけたり、曲げ方を変えたり、いろんな種類のスライダーを投げていました。

 エンゼルスでの前回登板(現地時間2月28日、アスレティックスとのオープン戦)が34球だったことを考えると、中国戦では3回くらい投げられればいいかなと思っていました。それが4回を投げられたのはうれしい誤算で、チームにとってもよかったと思います。

 一方、打っては4打数2安打。4回のタイムリー二塁打は、ストレートと変化球の両方を待ちながら、うまく引きつけて打ちました。8回にもライト前に弾き返しましたが、打球速度がどの選手よりも速いですね。本人も「調子がいい」と言っていたとおり、状態のよさを感じました。

大谷選手は投げて打ってと、まさに"二刀流"がしっかり発揮されたと思います。

 もうひとり、打線で目を引いたのは1番に入ったラーズ・ヌートバー選手です。4打数2安打2四球と、6打席のうち5回塁に出て1番打者の役割を果たしました(相手の失策で1度出塁)。

 なかでも大きかったのが初回、初球をセンター前ヒットにしたことです。ピッチャーは試合の先頭バッターを塁に出すか、出さないかですごく変わってくるものです。先頭を出すと、地に足がつかないまま投げることになりますから。

ヌートバー選手が初球を打って出塁したことで、相手ピッチャーは自分のペースではなくなったと思います。

 実際、2番の近藤健介選手から12球続けてボールになりました。結果的に押し出しによる1点しか入りませんでしたが、チームとして最初からしっかり流れをつかんだのは、ヌートバー選手のヨーイドンのセンター前ヒットがきっかけでした。

 この打席以外でも、ヌートバー選手は「さすがメジャーリーガー」というプレーを見せてくれました。3、5打席目のエラーと内野安打はいずれも中国の一塁手が弾いたものでしたが、とらえた打球がたまたま正面に飛んだものです。状態はこれからどんどん上がっていくでしょうね。

走塁でも手を抜かないなど、全力でプレーする姿はお手本になる選手だと感じました。ファンの心もつかんだと思います。

【8回の男を確定させる湯浅京己の快投】

 一方、大谷選手のあとを受けたリリーフ陣では、第2先発の戸郷投手は3回1失点で7奪三振。マウンドに上がった5回のピッチングを見たら、前回登板の中日戦(3月3日の強化試合)からうまく修正できているのかなと思いましたが、その後を見ると万全の状態ではないように感じました。7回には一死一、二塁のピンチを招きましたが、全体的にボールを見きられているような感じがしたからです。

 ただし、先頭バッターを出しても、しっかり無失点でベンチに帰ってくることが大切です。

ホームランを1本打たれましたが、しっかり役割を果たしてくれました。大会初登板ということで多少の緊張感や不安もあったかもしれませんが、大会で一度投げたことで本来の戸郷投手になっていくと思います。

 その後を受けた湯浅投手は、真っすぐ、フォークともに完璧でした。3者連続三振という結果でしたが、仮に三振という結果が出ていなかったとしても、投げているボール自体が本来のものでした。中国戦の出来を見て、今後も8回は湯浅投手で確定なのではと感じさせるような投球内容でした。

 日本は7回の牧選手のホームランで流れを引き寄せ、さらに追加点を奪って快勝。キャッチャーを除けば山川穂高選手以外の野手はみんな出場し、勝利できたことも2戦目につながっていくと思います。対戦相手の韓国は初戦のオーストラリア戦を落としたので、日本とは雲泥の差です。

 注目は先発のダルビッシュ有投手。大会前には実戦で投げていませんが、彼のピッチングが試合を大きく左右すると思います。

 打線は初戦に続き、いい状態で臨めるでしょう。4番の村上宗隆選手が少しよくないように見えましたが、中国戦で立った5打席を無駄にすることはないと思います。彼はズルズル引きずる選手ではないですから。

 誰もがご存知のように、韓国は強豪です。初戦を落としたことで、並々ならぬ気持ちで向かってくるでしょう。

 でも初戦をモノにし、よりいい形で臨めるのは侍ジャパンです。中国にもいい形で勝利しましたが、韓国戦ではそれ以上の試合ができるはずです。そう感じさせてくれるくらい、好スタートをきることができました。