●久しぶりの「チョコパイとか甘いもの」

 アイスショー「スターズ・オン・アイス 2023」が3月30日、大阪・東和薬品RACTABドームで開幕した。

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「スターズ・オン・アイス」に出演した羽生結弦

 オープニングでスポットライトが当たり、氷上に伏していた羽生結弦が『All These Things That I've Done』で踊り出すと、観客席からは大歓声が上がった。ショーのボルテージは一気に上がる。
そして、島田高志郎や宮原知子らのグループ演技に続く。

 世界選手権出場の山本草太の演技で始まったショーは、世界選手権金メダリストの宇野昌磨や坂本花織、ペアの三浦璃来/木原龍一に加え、世界選手権アイスダンス優勝のマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ(アメリカ)や3位のパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ(カナダ)、ペア2位のアレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー(アメリカ)に男子3位のイリア・マリニン(アメリカ)、5位のジェイソン・ブラウン(アメリカ)、女子3位のルナ・ヘンドリックス(ベルギー)ら、そうそうたるメンバーが出演した。

 その大トリが、オープニングを飾った羽生だった。

「東京ドーム公演(2月26日)を終えてから、3月にはすごく意味の深いショー(『notte stellata』)を全力で、全神経を注いでやったので、そのあとはちょっとおいしいものを......、チョコパイとか甘いものを久しぶりに食べました。

 体調自体はそんなにベストではないですけど、今回もすべての演技に全神経を注いで頑張りたいと思います」

 そう話した羽生が演じたのは、東京ドーム公演で久しぶりに滑った『オペラ座の怪人』だった。

 ステップシークエンスから滑り出すと、4回転トーループ+3回転トーループを決め、イーグルからのトリプルアクセル+2回転トーループをきれいに決める。
まるで試合モードの滑りだった。

 そのあとは3連続ジャンプから3回転ループと3回転ルッツを跳ぶとコレオシークエンスではイナバウワーも見せて、フライングチェンジフットシットスピン、チェンジフットコンビネーションスピンと、かつての構成でプログラムを滑りきった。

●「もう滑りたくないプログラムだった」

「この『オペラ座の怪人』は2014−2015シーズンにやっていて、中国杯での衝突事故とか、自分が病気やケガにすごく苦しんだシーズンのプログラム。長い期間、自分でもうこれは滑りたくないと思って、ある意味、封印をしてきました。

 あれ以来、初めて東京ドーム公演で滑らせていただいた時、このプログラムをもっと完成させたものを、もっと体力のある状態で、しっかり滑りきれる状態でみなさんにお届けしたいな、と考えました。それで、このプログラムを滑ることを決めました。

羽生結弦が「もう滑りたくないと思っていたプログラム」をスターズ・オン・アイスで選んだ理由 裏舞台では他の出演者を気遣う姿も
 また、『スターズ(・オン・アイス)』の会場となったこのリンクでは、僕自身、衝突事故の直後に滑っていて。
その時は、事故の影響も少なからずあってうまく滑ることができなかったので、そういう意味でもこの会場でいい演技をできたらいいなと思って滑っています」

 ソチ五輪王者として臨んだ2014−2015シーズン、羽生は男子フィギュアスケートの牽引者としてフリーでの4回転ジャンプを3本とし、うち1本を得点が高い演技の後半に入れようとしていた。

 その練習も兼ねてショートプログラム(SP)でも、後半に4回転トーループを入れる構成にしていた。

 だが、シーズン初戦のグランプリ(GP)シリーズ・中国杯のフリー前の6分間練習で、ハン・ヤン(中国)と激突。頭部や腹部、太ももの挫創に加え、右足首をねんざ。合計10針を縫うケガを負いながらも強行出場して2位になった。

 その3週間後のNHK杯が、今回のアイスショーの会場だった。
後半の4回転トーループを封印したプログラムで臨んだが、最初の4回転サルコウが2回転になり、次の4回転トーループは3回転になって転倒。ミスを連発し、中国杯より得点を落とす229.80点で4位にとどまったのだ。

 結局、そのシーズンはSP、フリーともに後半の4回転は封印し、実現できなかった。

 それを今、この会場で再現させる、ステップシークエンスのあとの4回転トーループ+3回転トーループだった。8年半が経ってようやく見せることができた、『ファントム』の後半の滑りだ。

●今もフィギュア界をリードする存在

 そんな羽生の前には、世界選手権金メダリストたちの競演があった。

宇野は2019~2021年の2シーズンでSPに採用した『Great Spirit』を演じた。

「最初はエキシビション用ナンバーとして滑って、そのあとは試合で使ったプログラム。初めは、自分がやったことのないジャンプですごく難しいかなと思いました。僕は古いプログラムをやることはほとんどないけど、自信を持ってみなさんの前で演技できていると思える滑りができたので、そういう点で深い意味のあるプログラムです」

 エキシビションプログラム『I Lived』を滑った三浦と木原は、「一生懸命練習をしてきたなかで今シーズンのすべての試合が終わり、すべてをやりきったなと解放されて楽しんでいる姿をみなさんにお届けしたいと思う」と話した。

 そして昨季までのフリー『マトリックス』を滑った坂本は、「やっぱり私と言ったらこのプログラム、というのが『マトリックス』だと思う。シニアに上がってから一番大変だった時期を乗り越えたプログラムなので、たくさんのお客さんに見てもらいたいなと思いました」と語った。


 公演終了後の囲み会見で、宇野はこうも話した。

「今回は久々に(羽生)ユヅくんと一緒に滑らせてもらいました。ずっと目標にしていた存在と近くにいられるので、自分がこういうスケーターになりたいというのを......今日1日見ていてもそういうところばかりだった。このショーの期間を通して今後、自分がどうしていきたいかを考えたいと思います」

 写真撮影でも、羽生が現役世界王者を尊重して自分が端のほうへ行こうとすると、全員がそれを拒んで真ん中に立たせた。

 また羽生は、会見時も全員に声をかけてタオルを用意し、濡れているエッジを拭かせる気遣いを見せていた。

 競技を離れたとはいえ羽生はやはり、まだまだ若い選手たちをリードする貴重な存在だ。


羽生結弦が「もう滑りたくないと思っていたプログラム」をスターズ・オン・アイスで選んだ理由 裏舞台では他の出演者を気遣う姿も