真中満インタビュー(全2回)
前編「セ・リーグ序盤戦」

2023年シーズンのペナントレース、セ・リーグは現在、阪神タイガースが首位を走り、横浜DeNAベイスターズ広島カープ読売ジャイアンツ東京ヤクルトスワローズ中日ドラゴンズと続いている(5月29日現在)。野球解説者の真中満氏は、セ・リーグ各チームのここまでの戦いぶりをどう評価するのだろうか?

●好調阪神は、岡田新監督の堂々たる采配が光る

ーー開幕から2カ月が経過し、いよいよ交流戦が始まります。セ・リーグは阪神タイガースと横浜DeNAベイスターズが快調な戦いを続けて、首位争いを演じています。

真中さんは、ここまでのセ・リーグについて、どのように見ていますか?

真中満(以下、同)
 順位が示しているように、タイガースとベイスターズが、ともに先発ピッチャーがちゃんと試合をつくって、打線もそれにきちんと応えるという、投打の歯車がみごとに噛み合っていて、この順位にいるというのは納得できますね。

 直接対決で6勝2敗と勝ち越しているからタイガースが上位にいるけど、両チームともに理想的な戦いを続けています。

ーー上位2チームに続いて、読売ジャイアンツと広島東洋カープが5割前後を推移しながら追っている展開です。

 ジャイアンツは投手陣が苦しいですね。昨年、台頭した若い先発投手が少しずつ活躍の兆しを見せているけど、リリーフ陣に苦しんで、7回、8回をビシッと抑える安定感はまだないところが不安です。カープも同じく中継ぎ陣に不安がありますね。


ーーそして、少し離れて東京ヤクルトスワローズと中日ドラゴンズが不振に苦しみながら戦っています。

 スワローズについてはピッチャー陣が先発、中継ぎともに不足しているなか、打撃陣も昨年までの破壊力が見られないのが不振の原因ですよね。ドラゴンズに関しては、投手力はいいのに、とにかく打てない、点が取れない。ある意味では、この順位にいるのは仕方ないのかもしれません。

ーーあらためて個々のチームについて伺いますが、阪神の新指揮官・岡田彰布監督についてはどう見ていますか?

 やっぱり、冷静ですよね。自分のなかに信念があって、それに対してはブレずに真っ直ぐ戦っている、そんな印象を受けます。
采配や継投についても無茶なやり方はせずに、オーソドックスですよね。今はチーム状況がいいということもあって、積極的に監督が動くことをせずに、堂々としている感じも見受けられます。

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首位・阪神の指揮をとる岡田彰布監督 photo by Kyodo News

●就任3年目を迎え、戦い方を変えた三浦ベイスターズ

ーー調子の上がらない青柳晃洋投手にファーム行きを命じるなど、勝負に対する厳しさも感じられます。岡田監督の選手起用についてはいかがですか?

 僕が印象的だったのは、ルーキーの森下翔太を開幕当初は積極的に起用したけど、「まだまだ力不足だ」と感じたらすぐにファームに落としました。でも、5月には再び試合に出る機会を与えています。

 アメとムチじゃないけど、「頑張っている選手にはきちんとチャンスを与える」という姿勢はいいですよね。これは、なかなか2勝目が挙げられなかった才木浩人のケースもそうでしたね。

戦力に余裕があるからということもあるけれど、ドシっとした戦い方が印象的です。

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プロ野球解説者の真中満氏 photo by Igarashi Kazuhiro

ーー監督就任3年目を迎えた三浦大輔監督率いるDeNAはどう見ていますか?

 僕は開幕前の順位予想では、ベイスターズをBクラス予想だったんですけど、その理由の第一としては「先発投手陣の数は多いのに、なかなか全員がそろわない」ということでした。

 でも、今年は今永昇太を筆頭に、東克樹、石田健大、濱口遥大と左ピッチャーがみんな元気だし、そこに平良拳太郎に大貫晋一、さらにガゼルマンがいて、バウアーまで加わった。これだけそろっていれば、やっぱり強いですよね。

ーー開幕前の予想では、「なかなか機動力が使えない」ということも話していました。

 ベイスターズの攻撃は、いいバッターがそろっていて強力なんだけど、佐野恵太にしても、宮﨑敏郎にしても、あるいはソトにしても、足が使えないから、塁に出ても「各駅停車」だったんです。


 でも、関根大気が加わったことでかなり戦い方が変わってきたし、試合終盤では佐野や宮﨑に代走を出すケースも増えてきました。これは昨年までの三浦監督には見られなかった傾向だと思うので、この点もハマっていると思いますね。

ーー続いて巨人はどうでしょうか?

 ジャイアンツは先発投手が苦しいなかで、よく頑張っていると思いますね。頼りになるのは戸郷翔征だけだったけど、新加入のグリフィンが使えるめどが立ったこと、そして昨年から台頭し始めた山﨑伊織が続いて、育成出身の横川凱、松井颯が出てきました。

 彼らはまだ経験がないから今後については未知数だけど、爆発的な可能性も秘めているだけに、他球団としては脅威に感じているかもしれないですよね。

ーー開幕当初は、ベテランの坂本勇人選手が不振に苦しんでいましたが、尻上がりに調子を上げています。


 外野からは「坂本を外して、ルーキーの門脇誠を使え!」という声もあったけど、僕が監督だったとしても、まだまだ坂本を外すわけにはいかないですね。彼ならば、「いつかは復調するだろう」と思っていたし、実際にそうなりました。僕が期待しているのは秋広優人ですね。

ーープロ3年目にして、期待の逸材がいよいよ開花しつつあります。

 身長2メートルということで、どうしても大砲のイメージで見られがちだけど、彼の場合、低めのボールを見極めることができるのがいいですね。きちんとボール球を見逃すことができるので、あれならばアベレージも上がってきますよ。


 売り出し中の若手って、有利なカウントではカチンと打つことができるんだけど、追い込まれたらあっさり三振するケースが多い。でも、秋広の場合はそれがない。彼の好調ぶりは長続きしそうな感じがしますね。

●新外国人が機能しない中日は苦戦が続く?

ーー今季から就任した新井貴浩新監督率いる広島はどう見ていますか?

 僕がすごくいいなと思うのは、菊池涼介を1番に固定している点ですね。カープの歴代監督って、野村謙二郎さん、緒方孝市さん、そして佐々岡真司監督と、「2番・菊池」にこだわっていた印象があるんです。

 でも、菊池の場合は長打力も意外性もあるから、相手からするとすごくイヤなバッターなんです。僕らとしても、菊池が2番で送りバントを決めてもらったほうが「あぁ、よかった」という感じでしたから。

ーー菊池選手を1番に抜擢したという点でも、新井監督は評価できますか?

 菊池の個性を生かすには1番打者というのは、すごくいいと思いますね。そういう意味では、相手が嫌がりつつ、個々の特性も生かした選手を見る目の確かさというものは感じました。それに何より、チームの雰囲気が一気に明るくなったのも新井監督の功績じゃないのかな?

 今までのカープなら、エラーやミスがあると、すごく叱られるというのか、厳しいイメージあったけど、新井監督のコメントは優しいし、野間峻祥のケースのように、ミスをしてもきちんとチャンスを与える姿勢も、明るさを生み出していると思います。

ーーヤクルトについては、後編で詳しく伺っているのでそちらを見ていただくとして、就任2年目を迎えた立浪和義監督率いる中日は、今シーズンも苦戦が続いています。

 ドラゴンズの場合、投手力はいいんだから、誰が見ても「バッティングが課題だ」ということはわかっているわけですよね。だから、新外国人のアキーノやカリステを獲得して、アルモンテも復帰させてまで、衰えの目立つビシエドに代わる大砲をチームに加えたけど、いずれも思ったような成績を挙げていないのが誤算ですね。

ーーヤクルトのケースもそうですけど、打線の不振によって、そのしわ寄せが投手陣にも及んでいるように見受けられます。

 やっぱり、打線が弱いと、投手としては「絶対に先取点は許したらダメだ」という思いになって、本来の力を発揮できないケースも多いと思います。髙橋宏斗なんかストレートでガンガン押していけばいいのに、どうしても「丁寧なピッチングをしよう」として、本来の持ち味を損なっている気がします。

ーー現役ドラフトでDeNAから加入した細川成也選手が好成績を残しています。

 ベイスターズ時代から、その素質は高く評価されていただけに「ようやくか」という思いもあるけど、細川がいなかったら、ドラゴンズはさらに大変なことになっていたと思いますね。新天地で若い才能が開花するというのは、現役ドラフトの本来の目的でもあるし、本当によかったと思います。

ーーでは最後に、セ・リーグのペナントレースは今後、どうなっていくと思いますか?

 現状を見ると、タイガースとベイスターズの安定感は群を抜いていますね。ただ、ジャイアンツは若い先発投手たちがここからさらに飛躍するとか、スワローズは打線が早い時期に本調子を取り戻すとかすれば、まだまだ追い上げは可能。

 実際のところ、ドラゴンズはちょっと厳しいかもしれないけど、それ以外の5球団は、最後まで混沌とすると思うので、ぜひ下位4球団はタイガースとベイスターズに食らいついていってほしいですね。

後編<村上宗隆の「打順変更はアリ。2番でも3番でもいい」 真中満が指摘するヤクルト不調の要因と村上の技術的課題>

【プロフィール】
真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、2008年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。2015年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。