高木豊が語るプロ野球の「打順」 後編

「各打順の役割」について

(前編:岡田監督や新庄監督も重視する「6番打者」 その役割と、現役と歴代で理想的6番を挙げた>>)

 高木豊氏に聞くプロ野球の「打順」。前編では「6番打者」をクローズアップしたが、他の打順に求める役割についてはどう考えているのか。

併せて、それに適している選手を現役と歴代で選んでもらった。

理想の1番~9番バッターとは? 高木豊が語る「打順」論、歴代...の画像はこちら >>

V9時代の巨人は、長嶋(左)と王以外の打線も強力だった

***

――高木さんにとって理想的な1番打者とは?

高木豊(以下:高木)一番求めたいのは出塁率で、理想は.370以上。あと、絶対に走力が高いほうがいいですね。現役選手で理想的なのは、阪神の近本光司です。

――2番については、かつては「小技がきく"つなぎ"の選手」、近年ではより攻撃的な打者を入れる「2番打者最強説」など議論になりやすい打順ですが、どうお考えですか?

高木 チームの状況によって役割は変わってくると思います。例えば、ピッチャー陣が弱いチームの場合、2番に強打者を入れて大量点を狙いにいく必要がある。

ただ、そこそこピッチャーが揃っていれば、私は2番も出塁率が高く、かつ細かい作業ができる選手を置きたいですね。作戦の幅も広がりますから。

 今シーズンであれば、やはり阪神の中野拓夢がベストかと思います。ただ、僕は2番には右打者を入れたいんですよ。バッターは「絶対に流して打て」と指示を出せば打てるもの。逆に「絶対に引っ張れ」と言うとミスをしがちなんです。
2番打者は、ランナーがいる時に右方向に打つことを求められるケースが多いので、そういう意味で右打者が理想ではあります。

――3番はどんな打者がいいでしょうか。

高木 3番は万能じゃないと務まりません。ここ数年は苦しいシーズンもありますが、過去の実績もふまえると、ヤクルトの山田哲人のような選手ですね。3割・30本を打つだけじゃなく、30盗塁でチャンスを拡大できるわけですから。トリプルスリーまでとは言わずとも、同じくらいの成績が残せそうな選手に入ってほしいですね。


 歴代の選手であれば、やはりトリプルスリーを達成した野村謙二郎金本知憲松井稼頭央など......そういう選手が3番を打つチームは強いと思います。

――チームの顔、4番はいかがですか?

高木 勝負強さは必須で、長打力がその次ですかね。また阪神の選手になりますけど、今シーズンの大山悠輔は4番として"大合格"です。勝負強さが際立っていますし、大事な場面で四球もとれている。相手ピッチャーは四球を与えて苦しくなって、次の打者が打ちやすい状況になっています。大山は今年、4番としてひと皮もふた皮もむけましたね。



――4番が活躍するには、続く5番の役割も大事になりますね。

高木 5番は、4番で勝負せざるを得ないだけの威圧感がないとダメです。4番はやはり"チームの顔"ですが、勝負をしてもらえないと価値がなくなってしまう。その4番としての価値を高めるのは、5番の役割。5番打者の調子がいいと4番の打点が増える、といった相乗効果も期待できます。

 現役選手ではDeNAの宮﨑敏郎が「最強」ですよ。
おかげで4番の牧秀悟が打点を稼いでいますよね。あの4、5番はかなり理想的だと思います。

――6番は先ほど(前編)お聞きしましたが、「走攻守」が三拍子揃っていることが基本で、勝負強さとある程度の長打力も期待できたらよりいい、ということでしたね。続く7番はどうですか?

高木 7番が出塁すると、大量点につながる期待が高まります。8番も四球などで続いてくれたら、セ・リーグでも9番のピッチャーが送りバントをすれば、いい形で1番にまわすことができる。

 現在は各チームともさまざまな選手を起用しているので、具体的な選手は挙げにくいのですが、7番は1番に近い役割を期待したい。
出塁率が高いバッターがいいですね。DHがあるパ・リーグでも同じです。

――8番はいかがですか?

高木 セ・リーグの場合は意外性のある打者がいいです。打率は2割くらいでいいので、予想外のところでホームランを打てるような。理想は、年間で20本塁打くらいでしょうか。例えば、元巨人のキャッチャーの山倉和博さんは「意外性のバッター」とも言われていましたが、あんな感じ。前の7番が塁に出ると、勝負を避けられて8番の四球が増える効果もあるような気がします。

――DHがあるパ・リーグの場合、8番と9番はどうなりますか?

高木 これは人によって考え方が違うと思いますが、僕は8番か9番のどちらかに足が速い選手を置きたい。基本は、1、2番のヒットでひとつ先の塁に進むことができる、一・三塁の状況を作ってくれそうな選手がいいですね。

 どちらかというと、8番より9番のほうに足が速いバッターを置きたいですかね。そこから1、2番と続くほうが、より戦術の幅も広がるので。

――以上を踏まえた上で、今シーズンに理想的な打順を組んでいるセ・リーグ、およびパ・リーグのチームを挙げるとすれば?

高木 セ・リーグは阪神ですが、組もうと思えばDeNAや広島でも可能だと思います。各選手の状態がよければ、ヤクルトも組めますね。パ・リーグで理想に近い形が組めるのはソフトバンクで、面白いのは日本ハムです。長打力や勝負強さを兼ね備えたバッターをはじめ、足や小技を使えたりと、いろいろなタイプの選手がいますからね。

――阪神は各打順に理想的なバッターが置かれている?

高木 そうですね。3番の(シェルドン・)ノイジーの不安定さと1、2番に左打者が続くところを除けば理想的です。ちなみに、岡田彰布監督は開幕から打順を固定してきましたが、 "打順もひとつのポジション"だと考えているので、よっぽどのことがない限り打順を大きくいじることはないでしょう。

 今の課題は1、2番を活かすための3番ですが、そこは変えてきていますね。ノイジーが高めのボールを振って三振ゲッツーをしているようだと理想から遠ざかります。交流戦後もそうですが、前川右京が3番で起用されて打った時は打線がつながり、大山や佐藤にタイムリーが生まれている。やっぱり3番は重要なポイントなんです。

――ちなみに、歴代で理想的なオーダーを組んでいたチームは?

高木 V9時代の巨人です。1番センター・柴田勲さん、2番レフト・高田繁さん、3番ファースト・王貞治さん、4番サード・長嶋茂雄さん、5番ライト・末次民夫さん、6番ショート・黒江透修さん、7番セカンド・土井正三さん、8番キャッチャー・森昌彦さん。これ以外の打順もありましたが、印象に残っているのはこの打順です。9連覇しているチームの打順に、なんの文句があるんだって話ですよね(笑)。

 柴田さんはスイッチヒッターで足がありましたし、王さんと長嶋さんは言わずもがな。末次さんは大舞台で勝負強く、高田さん、黒江さん、土井さんはチームバッティングや堅実な守備が光っていました。

――その他のチームを挙げるとすれば?

高木 1985年にリーグ優勝・日本一を果たした時の阪神ですかね。実際、僕も対戦しましたけど本当に強烈でした。1番に、30本以上ホームランを打てて足もある真弓明信さん。2番に3割近く打って、細かいこともできる弘田澄男さん。

 3番の(ランディ・)バースが打率.350で54本、4番の掛布雅之さんが打率.300で40本、5番の岡田彰布さん(現阪神監督)が打率.342で35本。さらに、6番の佐野仙好さんは勝負強かったですし、7番の平田勝男さんと8番の木戸克彦さんもこの年は打っていた印象です。半端じゃなかったですね。

――挙げていただいた打線の共通点は、ほとんどオーダーが固定されていることですね。

高木 日替わり打線、そこまでいかなくても割とオーダーが変わる打線で優勝するチームもありますが、やはり固定されているチームが一番強いですよ。V9の巨人にしろ、黄金時代の頃の西武にしろ、何連覇もするようなチームはオーダーが固定されていましたからね。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。