楽天イーグルスが"7月攻勢"をかけている。シーズン序盤の低空飛行が嘘のように、7月は8連勝を含む13勝4敗(7月25日現在。

以下同)で、3位ソフトバンクまで3.5ゲーム差と背中を捉えつつある。最大借金13から、あれよあれよの間に借金3までこぎつけ、CS進出の可能性も出てきた。

 そんな楽天の勢いは本物で、シーズン後半にさらなる逆襲はあるのか――。古巣のCS進出の可能性や現状を、山﨑武司氏に聞いた。

楽天は7月好調も「チーム事情に余裕はない」と山﨑武司は分析 ...の画像はこちら >>

山﨑氏が「替えがきかない」投手と語った田中将大

***

 今シーズンの序盤は、「今年もか......」と思ってしまうようなスタートでした。ですが7月に入ると1点差ゲームを凌ぐなど、まさかの8連勝。
正直、ここまで流れが変わるとは思っていなかった。

 それでも厳しい言い方をすれば、今の順位はあくまでソフトバンクが"こけて"くれてあるもの。楽天の大型連勝、(ソフトバンクの)大型連敗があってもゲーム差は3.5あるということですから。

 この連勝を読み解く上で注目したいのは、大半を1、2点差の接戦でモノにしているということ。ひと言で言うなら、なんとかやりくりして投手陣の頑張りありきで連勝に繋がった。言い換えれば、「チーム事情に余裕はない」とも言えます。


 投手陣はベテランが多く、マー君(田中将大)に則本昂大、岸孝之。ここに早川隆久や荘司康誠ら若手が加わっていますが、いずれも大きな貯金を作れていません。クローザーの松井裕樹が安定しているのは強みですが、中継ぎも毎年のように酒居知史が投げ、今は先発専念の辛島航もかつては投げていましたが、登板過多気味です。

 夏場にかけてベテランの先発、中継ぎ陣は疲れが出てくる可能性も高く、決して盤石とは言えません。むしろ不安要素のほうが大きいとすら感じますね。早川や荘司あたりが早くひとり立ちしてくれるとずいぶんラクになりますが、現状は後半戦でカギを握るのはマー君になるかな、と見ています。

 全盛期を過ぎているとはいえ、投球術や"かわす"技術はやはりチームでも替えがきかない存在。今年は開幕投手も務めてコンデイションも悪くなさそうですし、自身の契約を考えても「ふた桁勝利で貯金を作ること」というのは至上命題でしょう。

 マー君に勝ち星がついてくるとチームにも勢いが出てくるし、他の投手が持っていない経験もあるから、若手投手にも好影響が出て一気に流れに乗ってもおかしくない。やはりそれだけの投手ですし、存在感という意味でも、チームの特別な選手ですから。

 打者陣は浅村ひとりが引っ張っている。それでも、相変わらず得点が取れないチーム事情は変わらないかな。

現状、浅村意外はタイトルを争うような選手は見当たらないし、何よりも期待された中堅選手が軒並み厳しい成績というのが痛い。

 ベテランの鈴木大地は調子を上げてきたけど、辰巳涼介や茂木栄五郎、小深田大翔。チームの中心になるべく選手たちがもう少し奮起しないと、上位に行くことは難しい。守備はいい選手たちだけど、今の野球は打てないと話にならないから。

 村林一輝や山﨑剛なども頑張ってはいるけど、やはり中堅どころがやらないと得点力は上がらない。ベテランの西川遥輝や、中日から移籍組した阿部寿樹といった選手たちが、軒並みフォームを崩していることも首脳陣からすれば計算が狂った。


 後半戦で期待したい選手は、島内宏明ですね。技術が高く、数字はしっかり残してきた選手だし、CSを争う中で彼の経験と技術は必要になってくるでしょう。あとは銀次。彼も使われれば結果を出す選手だけど、どういうわけか今年は一度も1軍で使われていない。これだけ不調の選手が多い中、彼のような存在が代打でも控えていると、相手チームからすると嫌なはず。

 私にも、銀次が「下(2軍)でも頑張っている」という情報も入ってくるなかで、なぜ使われないのか理解できない。
もちろん若手、若手という方針もいいけど、状態がいい選手から使っていく、ということをしていかないと勝ち星が続いてこないと思うので。特にイーグルスは、シーズンを通してみると結局は「毎度お馴染みさん」の選手が活躍するチームだし、若手は彼らを脅かす水準までまだ届いていない。

 そういう意味でも、浅村や島内、マー君や則本。彼らの活躍がないと、上を目指していくのは少ししんどいかな、とも感じますね。

 個人的には、石井一久監督の"変化"も目についている。シーズン序盤はあまり感情を表に出さなかったけど、今はだいぶ喜怒哀楽の表現が強まってきたと感じる。やっぱり選手からすると、監督の表情は気になるし、絶対に今のほうがいい。ただ、「それなら開幕からやれよ」と思うこともあるんですが(笑)。

 CS進出が狙えるか、と言われると、決して届かないことはないと思う。ただし、他チームが落ちてくることに加えて、もう一度大型連勝する、という条件つきですが。

 3.5ゲーム差というのは、2勝1敗ベースで勝ちを拾っていっても、なかなか追いつくのがしんどい数字。だから自チームだけではなく、他力本願な部分も必要。誰もソフトバンクがここまで連敗するとも、イーグルスが連勝するとも思ってなかったはず。だからこそ大型連勝は勢いがつくし、投手陣の疲れが出てくる夏から秋にかけて前半戦と同じことができるのか。ここが後半のひとつのポイントでしょう。

 今のパ・リーグを見ると、戦力的にはオリックス、ソフトバンクが抜けている。そこにロッテや楽天が絡んでくる力関係ですが、ロッテも厳しい部分があるし、何かのキッカケで落ちてくる可能性はある。決して打てるチームではないから、投手陣が無理しながら、という面が強いと見ているので。

 結局、楽天が上にいくためにはロースコアゲームを勝っていくしかない。そのためには、どうしても投手陣の頑張りが必要になってくるから、いかに先発投手が試合を作れるかに左右される部分が大きいと思いますね。

【プロフィール】

山﨑武司(やまさき・たけし)

1968年11月7日、愛知県生まれ。86年ドラフトで中日から2位指名を受けて入団。96年、39本塁打を放ち初の本塁打王を獲得。02年オフ、平井正史とのトレードでオリックスに移籍。04年に戦力外通告を受けるも現役続行を決意し、新規参入の楽天に移籍。07年には43本塁打、108打点で二冠王に輝く。11年に楽天を戦力外となるも、中日と契約。13年に現役引退後は、解説者など活躍の場を広げている。