近年、メジャーリーグでは「2番最強説」が唱えられているが、打線の中心はやはり4番。NPB12球団を見渡しても、村上宗隆(ヤクルト)を筆頭に岡本和真(巨人)や牧秀吾(DeNA)など、チームの顔というべき選手が4番に座る。

はたして、4番にふさわしい選手とは? ヤクルト、西武の監督を務め、リーグ優勝4回、日本一3回の名将・広岡達朗が4番打者について持論を述べた。

岡本和真に「もっと険しい表情で打席に立て!」 広岡達朗が唱え...の画像はこちら >>

【巨人の4番に求めるもの】

「4番はホームランを打つのもいいけど、やっぱり打点が一番。"ここぞ"の場面で打つのが4番である。今シーズンの村上は、数字にこだわりすぎていたのか、狙い球を絞りすぎて見逃し三振が多い。三冠王を獲った昨年と比べるのは酷だけど、得点圏打率(.265)が低すぎる(成績は9月25日時点、以下同)。ホームランを狙うのではなく、ミート中心のバッティングを心がければ、パワーはあるんだからフェンスオーバーもするはず」

 村上の今シーズンの成績については、WBCに出場したことが影響しているとか、大谷翔平の圧倒的バッティングを見て調子を崩したとか、いろんな意見が交わされているが、昨年も55号本塁打を打ったあたりからおかしくなっていった。細かいテクニカルな問題はあるにせよ、一番は「打たなきゃいけない」という重圧で苦しんだように思える。

自身の成績に比例するように、チームも低迷。その責任を背負い込んだのだろう。

 そんな村上を尻目に、巨人・岡本はリーグトップの41本塁打を放ち、打点も102打点の牧に次ぐ93打点をマーク。4番としてはこれ以上ない成績を残しているが、広岡の目は厳しい。

「先月、発熱症状によるコロナ特例で登録抹消になっていたが、自己管理ができていないからだ。休む時にしっかり休まず、日頃の生活がルーズだから、体調を崩すんだ。

きちんと仕事をしていれば、遊んでいる暇なんてないんだ。巨人の優勝はないから、手を抜いたとしか思えない。そもそも監督の原(辰徳)は責任観念がまったくないから、今シーズンはオーダーを固定せずにいた。そんなことをしていたら選手は育たないし、岡本にしても前後がコロコロ変わったらやりづらいだろう」

 そうフォローする広岡だが、岡本には巨人の不動の4番として期待しているからこそ、厳しい言葉が続く。

「岡本については、打席での表情にもっと険しさがほしい。まだ相手投手にプレッシャーを与えるほどではない。

それに岡本がファーストを守っている時、相手バッターが出塁してベースに来ると、自ら頭を下げて一礼している。礼儀は必要だけど、一歩グラウンドに入ったら戦う男として威風堂々としているべき。チーム内で岡本に『いちいち頭なんか下げなくていい。そんなことは試合前にやっておけばいい』と言う人間がいたら、岡本はもっと伸びるはず。素材自体は間違いなくすばらしいんだから」

 もはや数字だけではなく、チームの主砲、巨人の4番として凛とした態度で臨むことが、リーダーに求められる資質である。伝統ある巨人、そして阪神の4番というのは、そういう格付けのもとにあるのだと、広岡は言いたいのだ。

【大山悠輔が真の4番になる条件】

 では、18年ぶりにセ・リーグを制した阪神の4番・大山悠輔についても聞いてみた。

「大山は一生懸命やっているけど、まだまだ甘い。グラウンドで緊張をほぐすために笑っているのかもしれないけど、あんなに笑っている暇はあるのか。打席に入ったら睨みをきかせて、相手の選手はピンとなるくらいにならないと4番の資格はない。

 かつての巨人不動の4番・川上哲治がそうだった。打席に入ったら"動かざること山の如し"で、微動だにしなかった。

あの鋭い眼光を向けられたら、そんじょそこらのピッチャーは簡単に飲まれてしまう。また、ある日本シリーズでカワさん(川上)が絶不調だった。すると試合前、『自分が出ると迷惑がかかるから出ない』と言い出したことがあった。するとほかの選手たちが『カワさんが出ないでどうするんですか。いるだけで違うんですから出てください』と言い出した。どんな状況でもナインの信頼を得てこそ、本当の4番なんだ」

 令和の時代に、昭和のプロ野球の話を持ち出されてもナンセンスだということはわかる。

ただ広岡が言いたいのは、昭和だろうと令和だろうと、プロ野球という舞台に立って勝負するのは同じこと。戦う男たちのスピリットに時代錯誤という言葉はあてはまらない。

 チームスポーツにおいて、日替わりヒーローが出るのは結構な話だが、やはり核となる選手が支柱となってチームを引っ張っていかないと優勝には届かない。その役割を大山が担えるのかどうか。クライマックスシリーズ、日本シリーズで真価を問われることになる。

 最後に、広岡が挙げた期待の4番が中日の石川昂弥だ。

「石川は22歳と若く、まだ荷が重いと思うが、鉄は熱いうちに打て。久しぶりに出てきた右のプルヒッターとして、今後の成長には期待するものがある」

 チームは低迷しているとはいえ、次々と若い選手が出てきた中日。なかでも、和製大砲候補である石川にかかる期待は大きい。

 4番目の打者ではなく、チームの4番を担うには、常に自分を律し、重圧のなか、いかに平常心でいられるかを研鑽しなければならない。チームからもファンからも認められる真の4番がいるチームが、ペナント制覇に一番近いのは言うまでもない。それゆえ、リーグを代表する4番がひしめくセ・リーグの戦いは、来年以降さらにヒートアップしそうだ。