高木豊のセ・リーグCS展望

ファイナルステージ

(ファーストステージ展望:広島とDeNAの選手起用法やキーマンを分析>>)

 セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージで待ち構えるリーグ覇者の阪神。ファーストステージを戦う広島とDeNA、どちらのほうが戦いやすいのか。

それぞれのチームとの試合展開や勝敗予想について高木豊氏に聞いた。

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【DeNAと阪神の戦力比較】

――阪神は広島とDeNA、どちらとの対戦が嫌だと思いますか?

高木豊(以下:高木) DeNAでしょうね。最多勝のタイトルを獲得した東克樹をはじめ、今永昇太、(トレバー・)バウアーら先発ピッチャーがいいですから。特に阪神戦の防御率が0.78の東は阪神にとって厄介だと思います。それと、大貫晋一の状態がすごくいいのでCSでも期待できます。

 中4日で投げられるバウアーを活かす(2回投げさせる)ことを想定して、第1戦に投げさせるかどうかがポイントになるでしょう。バウアーで初戦を勝てたとしたら阪神は焦りますよ。

1勝のアドバンテージが消え、その後にファーストステージでも投げるだろう東や今永がくるとなれば、簡単に攻略はできませんから。

 阪神もピッチャーがいいので、DeNA との対戦になれば1点を争う試合が多くなるでしょう。ただ、1点の取り方は阪神の打線のほうがうまいですし、接戦で投げ慣れている投手が多いのも阪神なので、DeNAが勝つのは簡単ではありません。

――バウアー投手は阪神戦の防御率が3.65。甲子園では4.35とあまりよくないですね。

高木 短期決戦になれば別物だとは思いますが、確かに甲子園が"鬼門"になっているかもしれません。

手痛い一発を浴びるケースもありますし、ケガもしていますから。

――ファーストステージ展望の際に、DeNAの打線のキーマンは牧秀悟選手、宮﨑敏郎選手で、1番での出場が想定される林琢真選手がいかに出塁できるかをポイントに挙げていました。阪神と戦う場合も同様ですか?

高木 そうですね。三浦大輔監督は機動力を使う野球をやろうとしていますが、林や関根大気が機能しないとできません。接戦になると余計に機動力が効いてきますし、勝負の分かれ目になると思います。

 ただ、阪神には島田海吏や熊谷敬宥といった足のスペシャリストがいる。

1、2番の近本光司、中野拓夢も足が使えますし、機動力も阪神のほうが上です。先ほども話したように、中継ぎのピッチャーの質と量、経験値も阪神が一枚上手ですし、接戦になると阪神に分があると思います。

【勝敗予想は?】

――ファイナルステージでの阪神の先発は、村上頌樹投手、伊藤将司投手、大竹耕太郎投手などが有力視されています。

高木 あとは西勇輝も入ってきそうですし、カギを握っているのはDeNAと相性がいい青柳晃洋だと思います。9月29日のDeNA戦では4回4失点と散々でしたが、それを首脳陣がどう考えるのか。相性がいいだけに投げさせたいでしょうが、墓穴を掘るわけにもいかないですし。

―― 一方で阪神のバッター陣ですが、短期決戦での大山悠輔選手、佐藤輝明選手がどんなバッティングをするかに注目が集まりそうです。

高木 そうですね。大山は4番として、安定して力を発揮していました。99個のフォアボール、出塁率.403はリーグトップ。そして5番の佐藤が、大山の出塁を活かして打点を稼ぎました(リーグ3位の92打点)。打線の流れがすごくよかったのですが、CSでもその流れを作れるかどうか。

 それと、今年の阪神の調子がいい時は、3番が機能している時なんです。

(ジェルドン・)ノイジーが打っていた時期は連勝していましたし、森下翔太が3番に入って活躍した時もチームが勢いづきました。CSでは森下が3番に入ると思いますが、そこが機能するか、寸断されてしまうのかで得点力が大きく変わります。

――森下選手の状態をどう見ていますか?

高木 シーズン終盤は、明らかなボール球にも手を出していましたし、状態はあまりよくなかったです。フェニックス・リーグでいい調整ができればいいですが、岡田彰布監督はそのあたりもしっかり見るはず。ダメと判断すれば小野寺暖やノイジーを6番から3番に上げたり、他の選手を入れるんじゃないですか。森下に「CSを経験させてあげたい」という考えもあるかもしれませんが、何より優先されるのは日本シリーズ出場ですから、状態のいい選手を使うでしょうね。

――森下選手は打率が低くても、殊勲打を打つ印象があります。

高木 勝負強いですよね。打率が低くても、打ってほしい時に打っていました。大舞台で強さを発揮する、"持っている"選手かもしれません。リーグ優勝が決まってからは、達成感もあったのか状態がガタガタになりましたけど、調子を戻してくるでしょう。

――阪神がDeNAと対戦した場合の勝敗はどうなると思いますか?

高木 甲子園ですし、お互いのピッチャ―の質の高さを考えるとより本塁打は出にくいはず。打ち合いにはならずに1点差勝負になると思いますし、ポイントは足だと思います。そうなると、やはり「ここで1点欲しい」という時の足を使った野球の精度が高い阪神が優位でしょう。それと、岡田監督を中心とした臨機応変のベンチワークも巧みです。DeNAも奮闘するでしょうが、(アドバンテージの1勝を含む)4勝3敗で阪神が日本シリーズに進出すると思います。

【広島は「阪神に勝てるイメージが湧かない」】

――ちなみに、ファーストステージの勝者はDeNAと予想されていましたが、広島が勝ち上がって阪神と対戦する場合の展望も聞かせください。

高木 「阪神より広島のほうが上回っているものは何か?」と考えても、なかなか浮かんでこないんです。例えば、阪神とDeNAの投手力を比べた時、リリーフ陣は阪神に分があるけど先発ピッチャー陣は互角。打線も1、2番の出塁率や盗塁は阪神が上だけど、クリーンナップはDeNAのほうが上かな......といったことを考えられるのですが、「ならば広島の強みは?」と思っても見当たらないんです。

 あと、阪神の村上やDeNAの東は「絶対に試合を作ってくれる」と期待できますが、広島の先発ピッチャー陣は「投げてみないとわからない」ところがある。勝ち頭の床田寛樹も大事な場面で佐藤に一発を食らったりしていますしね。

 広島は「"一体感"が強み」とも言われますが、優勝したチームの一体感のほうが強いですよ。それと、広島はシーズン終盤、「ここは勝たなきゃいけない」という阪神戦に総力戦で臨んで落としていた。その点もふまえ、CSで広島が阪神に勝てるイメージができません。

――高木さんが広島の首脳陣だとしたら、どういう策を練って阪神との戦いに臨みますか?

高木 阪神はコントロールがまとまっているピッチャーが多いので、明らかなボール球や抜け球などはなかなかこない。その点は脅威でもありますが、広島は西川龍馬や秋山翔吾、小園海斗、坂倉将吾など当てるのがうまいバッターが多いので、そこをうまく活かしたいですね。ポイントは「エンドラン」だと思います。仮に、足が遅い松山竜平が出塁したとしてもエンドランを仕掛けるとか、そうやってチャンスを拡大していかないとなかなか得点できないでしょう。
 
 あと、阪神は落ちる系の球を持つピッチャーが多い。エンドランのサインが出たときにバッターが空振りしたとしても、その空振りした球がショートバウンドになれば盗塁を決めやすくなります。広島は打つのを待っているだけではなく、仕掛けていくべきだと思いますね。

【阪神は間隔が空く中でどう調整できるか】

――阪神が広島と対戦した場合の勝敗はどうなると思いますか?

高木 阪神の(アドバンテージの1勝を含む)4勝1敗、といったところでしょうか。広島の1勝は、九里亜蓮が頑張るかなという予想です。

――ただ、短期決戦は何が起きるのか読めない部分もありそうです。

高木 そうですね。阪神はリーグ優勝してから1カ月以上経っていますし、シーズン最後の試合からも2週間空くわけで、調整が本当に難しい。勝ち上がってくるチームは試合勘を取り戻してファイナルステージに乗り込んできますから、それを待つ側も状態がよければいいですが、よくなければ"ドンデン返し"を食らいかねません。

――岡田監督が2005年に阪神をリーグ優勝に導いた時は、パ・リーグにプレーオフがあり、セ・リーグにはありませんでした。阪神は真剣勝負の実戦から遠ざかっていたことで、プレーオフを勝ち上がったロッテとはチーム状態に差があったように見えました(結果は、ロッテが阪神に4連勝して日本一に)。

高木 同じ轍は踏まないというか、過去の失敗を成功に変えるためにはどうすればいいかを岡田監督は考えていると思います。フェニックス・リーグに参加したのはその一環だと思いますし、そこでも目を光らせているはず。ただ、状態が上がるか上がらないかは監督ではなく、選手自身の問題ですけどね。

――その調整は、ピッチャーよりもバッターのほうが難しそうですね。

高木 そうですね。アベレージヒッターは早めにヒットが出たらなんとなく感じをつかめると思いますが、長打力があるバッターはいいか悪いか、はっきりしますからね。そういう意味で心配なのは大山と佐藤です。

 でも、大山はフォアボールが多いことでも証明されているように、球の見極めの部分でひとつの形が確立できました。佐藤も後半は上り調子で終わったので、その調子を維持できれば打てるでしょう。阪神はピッチャー陣が計算できるので、バッター陣がいかにつなぐ意識を持って1点を取っていくのか。そこがポイントになるでしょう。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。