【世界歴代4位の高得点の背景】

 10月20~22日に開催された、フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ開幕戦・スケートアメリカ。イリア・マリニン(アメリカ)はこれまでの自己最高得点を一気に20点以上更新し、世界歴代4位の310.47点で優勝した。

イリア・マリニンが羽生結弦やネイサン・チェン、宇野昌磨の得点...の画像はこちら >>
 昨季の世界選手権は4回転ジャンプをルッツとトーループにする構成のショートプログラム(SP)で100.38点を出して宇野昌磨(トヨタ自動車)に次ぐ2位発進。


 だが、4回転アクセルを含む4回転6本の構成にしたフリーでは、2本目と3本目の4回転フリップと4回転ルッツは回転不足になり、後半の3連続ジャンプの4回転ルッツがアンダーローテーションで188.06点。チャ・ジュンファン(韓国)にフリーで逆転され、3位に終わっていた。

 その結果を受けマリニンは「ジャンプを跳ぶのは大好きだけど、リスクの取り方が難しい。クリーンに滑るのが大事だと思ったので、来季(2023−2024シーズン)はリスクを下げてでもクリーンな滑りをしていきたい」と話していた。

 そして、今回のスケートアメリカはその言葉を実践する大会になった。

 SPは、前半の4回転トーループや4回転ルッツ+3回転トーループは自信をにじませるジャンプ。
スピンやステップも大きさを感じさせる滑りで昨季の世界選手権よりGOE(出来ばえ点)加点を上積みし、演技構成点も3項目すべてを8点台後半にのせた。SPの自己最高得点(105.90点/昨季最終戦・世界国別対抗戦)には届かなかったが、104.06点と本人も納得するスタートだった。

 フリーは冒頭の4回転アクセルを封印。前半は4回転をルッツとサルコウの2本とし、後半は昨季に続いて4回転ルッツからの3連続ジャンプと4回転トーループからの連続ジャンプ、3回転ルッツ+トリプルアクセルを得点源にする構成だった。

 昨季の世界選手権では最初の4回転アクセルをギリギリで跳んだ影響か、そのあとの4回転ジャンプで回転不足の判定があり得点を伸ばせていなかった。しかし、今回は4回転アクセルを回避し、余裕を持って後半の3本の連続ジャンプを確実に決めた。
さらにノーミスで演技構成点を伸ばせたことが、今回の高得点につながった。

羽生結弦やネイサン・チェン、宇野昌磨を超える可能性】

 だが、歴代2位の羽生結弦の322.59点や、歴代3位の宇野の312.48点と比べると、まだGOE加点の面で劣っているのは事実だ。

 今回、マリニンのフリーの技術点は技術基礎点に19.65点上乗せしているが、羽生が2019年のスケートカナダで322.59点を出した時は、冒頭の4回転ループで0.15点減点されながらも、プラス23.61点だった。

 また、2022年の世界選手権で312.48点を出した時の宇野も、後半の4回転トーループのアンダーローテーションの減点や、3連続ジャンプのサードの1回転、4回転+3回転が4回転+2回転になってGOE加点を伸ばせない要素がありながらもプラス21.25点と、得点を着実に積み上げていた。

 また、歴代5位の310.05点が自己最高得点の鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)も、現在はケガがあって4回転の本数を抑えているが、パーソナルベストを出した北京五輪では4回転ループの4.65点の減点がありながらも技術基礎点プラス19.64点。GOE加点は3~5点を並べられる技術の高さが彼の持ち味で、完調になれば当然、宇野やマリニンと競り合うところまで得点を伸ばしてくるはずだ。



 羽生や、2019年GPファイナルで世界最高の335.30点を出したネイサン・チェン(アメリカ)はまだワンランク上と言えるが、マリニンは18歳。まだこれから成長していく年齢だ。

 GOE加点を伸ばし、完璧に跳べる4回転ジャンプをさらに増やすことが羽生やチェンの得点に近づくことになる。そのためには、体力と集中力を持続させる精神面の向上も必要になってくるが、それもこれから着実に進化させてくるはずだ。

 全種類の4回転ジャンプを跳ぶ能力を持つマリニンが、どこまで伸びていくか。彼の成長が、宇野をはじめとするライバルたちを刺激し、彼らの進化も促すことになるはずだ。


 今回のマリニンの高得点は、羽生とチェンが生み出したふたりの超ハイレベルな戦いを、もっと多くのスケーターが繰り広げるという期待を抱かせる、大きな一歩となった。