「エディージャパン」の第2章は、前途多難な船出となった。

 2024年1月から再びラグビー日本代表のヘッドコーチ(HC)に就任することが決まったエディー・ジョーンズ氏(63歳)が、12月14日に会見を開いた。

 エディーと言えば、2012年から2015年まで日本代表を率い、2015年ラグビーワールドカップでは「ブライトンの奇跡」を含む3勝を挙げ、ジャパンの強さを世界に知らしめた名将である。

 2019年ワールドカップではイングランド代表を率い「ラグビーの母国」を準優勝に導いた。だが、2023年ワールドカップはエディーの母国オーストラリア代表を率いて臨んだものの、ワラビーズ史上初の予選敗退という結果に終わった。

なぜラグビー日本代表はエディーと再び契約したのか? 失策続き...の画像はこちら >>
 会見冒頭から、会場にはただならぬ緊張感が走っていた。門出を祝うような雰囲気は皆無。会見の内容も日本代表の将来・未来について語ることもあったが、半分は釈明と説明に終わった。

 なぜ、そのような会見になったのか、簡単な経緯を書いておきたい。

 エディーは昨年12月、成績不振によりイングランド代表の指揮官をクビになった。だが、その直後の今年1月にオーストラリア代表の指揮官に再び就任し、5年契約を結んだ。つまり、2023年大会だけでなく、オーストラリアで開かれる2027年大会もワラビーズを指揮する予定だった。エディー就任が発表された当初、その契約について現地ファンも歓迎ムードだった。

 オーストラリアの未来を託されたエディーは、2023年大会ではベテラン勢を招集せず、2026大会を見据えて平均年齢26歳という若手中心で臨んだ。

しかし2戦目ではフィジーに惜敗し、ウェールズにも大敗。結果、オーストラリア史上初めて予選プール敗退を喫してしまった。

 そんな状況のワールドカップ期間中、オーストラリアの新聞が「8月25日にエディーがパリからzoomで日本ラグビー協会と面接した」という情報をすっぱ抜いた。その報道後、エディーは何度も「日本ラグビー協会とコンタクトがあったのか?」と聞かれ、そのたびに「100%ない。オーストラリアラグビーにコミットしている」という答えを繰り返してきた。

【土田会長のコメントを鵜呑みにしていいのか】

 その一方で7月12日、日本代表を率いてきたジェイミー・ジョセフHCがワールドカップ終了後に退任することが決定。日本ラグビー協会は後任の指揮官を探していた。

協会は「公平性」「透明性」をうたい、ロンドンに本拠地を置く人材コンサルティング会社に一部業務を委託し、公募も行なった。

「ワールドカップ期間中に次期候補者とは一切連絡していません。委託会社が(世界中の指導者の)情報収集をしていて、エディーから参考として情報を得たことは事実ですが、HCの面接をしたという事実はありません」

 日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事はこのように釈明。エディーもキッパリと言った。

「(日本ラグビー協会とは)12月7日に初めて面接を受けた。こういう結果(予選敗退)になって残念ですし、オーストラリアのファンには申し訳ない気持ちです。

ただ一切、やましいこと、罪悪感に思うことはやっていない」

 さらに、エディーとはサントリーのコーチ時代から20年来の仲である日本ラグビー協会の土田雅人会長も、異例の説明を行なった。

「本決定に際して、私とエディー氏が旧知の仲であるがゆえに 憶測に基づいた報道がいくつか見られますことを非常に残念に思っております。日本代表HC決定という日本ラグビー界にとって重大な決断に際し、個人の知見や都合が組織判断に影響を与えることはあり得ません。本選考は極めて公平・公正なプロセスに準じております。私自身がエディー氏と直接に会話した機会は先日行なった面接を除いて、今年の1月4日です」

 ワールドカップ期間中に連絡しなかったのは、おそらく事実なのだろう。ただし、直接に会わずとも、メールやSNSなど世界中どこでも連絡の取れる手段があるなか、このコメントを鵜呑みにしていいのかは疑問が残る。

 日本ラグビー協会がよりいい指導者を確保するために両天秤にかけ、ほかの候補者を公募しつつもエディーに食指を伸ばしたことは、個人的には問題なかったと思う。ただ、あえてコンサルティング会社に委託したことを公表し、公正性・透明性をうたったのは逆効果だったとも思う。

 実際、フタを開けてみれば、エディーは公募による応募ではなく、他薦による応募だったという。ただ、誰からの推薦かは明らかにされなかった。

【協会は当初からエディーを念頭に置いていた?】

 そしてもうひとつ、取り上げなければならない議題がある。「神通力のなくなったエディーが次期HCとして適任だったのか」というテーマだ。

 2019年大会までにオーストラリア、日本、イングランドを指揮してきたエディーのワールドカップ通算成績は14勝3敗(南アフリカのアドバイザーの経歴も入れると21勝3敗)。

つまり、エディーはワールドカップという大舞台に滅法強かった。

 しかし、イングランド代表を率いた2022年のテストマッチは5勝7敗。オーストラリア代表を率いた2023年はワールドカップ直前にニュージーランドやフランスに屈するなど5連敗。そしてワールドカップ本番でも、ジョージアとポルトガルに勝つのがやっとで2勝2敗。つまり、この2年間は7勝14敗と大きく負け越している。

 日本ラグビー協会は新たな指揮官を選ぶ際、まずは80名の候補者リストを作り、それから3名に絞り、最終的に6名の選定委員会によって次期HCを選んだ。エディーの再起用は、ほぼ全会一致だったという。

 日本ラグビー協会が次期HCに求めたポイントは4つ。

(1)今後の世界のラグビー、ワールドカップに向けてどのような方向になっているか、予測を含めた考え。
(2)日本の強みの理解と最大化。
(3)短期的な結果と中期的な結果の両方にコミットできるか。
(4)日本の環境を理解したうえでコミットできるか。

 そもそもこの選考基準を決めたのは、日本ラグビー協会である。日本と世界のラグビーに明るく、ユース世代の育成にも長けた人物──という条件を満たす指導者は少ない。他薦で募ったエディーが有力候補だったのは間違いないだろう。

 岩渕専務理事は「ほかの2名の候補者と比べたら(エディーの内容は)より明確で、筋道がハッキリしていたことが大きな違いだった。一番大きなポイントは『ワールドカップで優勝に導けるか』でした」と説明。

 土田会長は「ユース世代、高校からU20、U23、一貫性のある育成を通じて代表の選手層に厚みを持たせることは喫緊の課題。エディーは必ずや日本ラグビーをさらなる高みに牽引し 世界の頂(いただき)に近づけてくれる人物と考え、HCに任命いたしました」と期待を寄せた。

【日本人選手の手本は南アフリカ代表WTBコルビ】

 前回の日本代表HC時代、エディーは「ジャパンウェイ」というコンセプトを打ち出し、それは彼の代名詞にもなっていた。しかし、今回は「超速ラグビー」というテーマを掲げた。

「ラグビーはモメンタム(勢い)のゲームで、モメンタムは重さにスピードをかけたものに等しい。日本は小柄な選手が多く、質量を大きく上げることはできないが、動くスピード、アクションのスピードは改善できる。相手よりも速く、足で速く、頭で速くプレーする」(エディー)

 また、育成に関してエディーは「大学ラグビー世代のレベルアップ」を強調した。

「大学が日本のラグビーのベース。大学の若い選手たちを見て、どうすれば彼らをより早く成長させることができるか、どうすればより早く世に送り出せるかを考える必要がある。

 日本人選手の可能性を示す選手として、際立っているのは(南アフリカ代表WTB)チェスリン・コルビ(東京サンゴリアス)だ。彼は(身長172cmで)体重は76kg(サンゴリアス公式HPでは80kg)くらいしかないが、牛のように強く、チーターのように速く、忍者のようにつかみどころがない。

 日本の選手も、そのようになれるはず。彼はすばらしいお手本です。だから、彼のようになれる選手を見つけたい。大学やリーグワンにいるはずです」

 そして、新HCとしての目標を聞かれたエディーは、「2027年ワールカップでのベスト8は明確なターゲットです。しかし、それよりももっと重要なことは、自分たちのプレーで安定した成果を上げられるチームを確立することです」と語気を強めた。

 就任発表までにすったもんだはあったが、再び「エディージャパン」が始まる。2027年には67歳となる名将が、日本ラグビー界にさらなる奇跡を起こすことはできるか──。