1月2日、東京・国立競技場で「第60回・全国大学ラグビー選手権」の準決勝が開催。創部100周年を迎えている関東対抗戦2位の明治大は、10度目の準決勝挑戦で初の決勝進出を目指す関西王者の京都産業大と激突した。

 試合は序盤こそトライの取り合いとなったが、前半のラストから後半の出だしにかけてトライを重ねた明治大が52-30で快勝。2大会ぶりの決勝戦へと駒を進めた。明治大OBである神鳥裕之監督の語っていた「重戦車のFWとBKのスピード・スキルを使う、自分たちなりの明治100年のラグビーを作ろう」という目標が随所に出た試合となった。

ラグビー明大の司令塔「田村優2世」伊藤耕太郎は、創部100周...の画像はこちら >>
 そのなかでも特筆した活躍を見せたのは、身長176cm・体重86kgの体躯を生かして2トライを挙げたSO伊藤耕太郎(4年)だ。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 SOながら状況によっては10番の動きをほかの選手に任せ、ランナーとして相手の隙を突いてトライを奪取。さらに激しいタックルも厭わないスタイルでアシストも演出した。

「相手の出方や動きを見て、(前にいる選手がFWで)ミスマッチならそこを突く。前に出るために自分がどうしたらいいか、考えてプレーしている」

 試合を冷静に分析する伊藤を見て、指揮官は「伊藤は10番として明治大に欠かせない選手。身体がキレていて、前も見えている。あいかわらずよかった!」と目を細めた。

 京産大は3回戦で早稲田大に圧勝(65-28)していただけに、明治大にとっては脅威の相手だった。伊藤は「不安もあった」と本音をこぼしつつ、「相手はボールキャリーに対して(ディフェンスで)前に出てタックルに入ってくる。

なので、前を見て、空いているスペースにボール運び、1対1でしっかり勝つことを心がけた」と勝因を挙げた。

【ターニングポイントとなった國學院栃木への進学】

 この準決勝では、11月の練習中に負傷したキャプテンCTB廣瀬雄也(4年)も復帰した。3年間、廣瀬とコンビを組んできた伊藤は「2年生の時から、となりにいた選手。雄也がいると(ボールも)ワイドに振れますし、キャリーでも前に出てくれるので頼もしい」とうれしそうに語る。

 1月1日にラグビー日本代表の指揮官となったばかりのエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)も、この試合を見守っていた。春からリーグワンでプレーすることが決まり、日本代表入りを目指す伊藤は「試合が終われば少しは意識しますが、試合ではベストパフォーマンスを出すように心がけていました」と正直に心情を吐露した。

「紫紺の10番」を背負い続けている伊藤のラグビー人生は、両親に連れられて行った公園での出会いから始まったという。

そこでラグビーの魅力に取り憑かれ、3歳で神奈川・藤沢ラグビースクールに入学。3歳下の弟・龍之介(明治大1年/SO)も兄に続いた。

 中学時代は北村瞬太郎(立命館大4年/SH)や武藤ゆらぎ(東海大4年/SO)たちと神奈川県スクール選抜に選出。全国ジュニア大会にも出場を果たした。

 そして中学2年時の2月、神奈川・保土ケ谷公園ラグビー場で開催された高校の関東新人大会をたまたま見に行った時、國學院栃木(栃木)が桐蔭学園(神奈川)を24-19で下して優勝した。その試合を目の当たりにしたことで、伊藤は親元を離れて國學院栃木に進学する。

 國學院栃木では1年時からFBとして試合に出場し、2年時からはSOとしてプレー。3年時は花園3回戦で強豪・東福岡に惜しくも12-17で負けたものの、10番としてチームの中軸として躍動し、高校の先輩になぞらえて「田村優2世」とも呼ばれた。

「高校に入学してから(田村優さんのことは)少し意識するようになりました。プレッシャーはけっこうありましたが、今はそんなに意識せずにプレーできています。田村さんのキックやゲームメーク、冷静さはすごく見習っています」

【10番の伊藤耕太郎が語った「明治らしさ」とは?】

 大学も田村先輩と同じく明治大に進学。1年時こそ「カウンターが好きなので」とFBに挑戦したが、シーズン後半からは再びSOのポジションに切り替えた。

当初はチャンスを掴めなかったが、大学ラグビーの強度に慣れ、フィジカルも5kgほどアップさせたことで、2年時からは10番のレギュラーを奪取。その後、4年時まで対抗戦の全試合で出場を果たしている。

 2年前に取材した時、伊藤は「明治のSOなら伊藤、と言われるようになりたい」と話していた。それをまさに有言実行してみせた。

 大学選手権では悔しい経験が続いている。2シーズン前は決勝戦で帝京大に屈し、昨シーズンは対抗戦最終戦の早明戦で負傷して出場することができず。

 

 また、伊藤は出場した帝京大戦でいまだ白星を飾ったことがなく、小・中・高・大のカテゴリーでいずれも日本一になった経験もない。いろんな思いを抱えながら、帝京大との大学選手権・決勝戦(1月13日・国立競技場)を迎える。

「昨年11月の対抗戦で帝京大さんと対戦した時は、アタックもディフェンスも受けてしまった(明治大は11-43で大敗)。今回の決勝戦ではこの1年間でやってきた明治のラグビーをぶつけてリベンジし、100周年で優勝したい!」

 あらためて、伊藤に「明治らしさ、明治ラグビーとは?」と聞いてみた。

「アタックだったら、モメンタム(勢い)を持ってひとりひとりが1対1で勝って前に出る。ディフェンスだったら、ラインスピードを上げて相手にプレッシャーをかける。オフザボールでの泥くさいプレーが『明治らしさ』かな」

 攻撃的司令塔である伊藤が攻守にわたって「明治ラグビー」そして「前へ」を体現すれば、100周年という節目に5年ぶり14度目の優勝タイトルを引き寄せることができるはずだ。