本田真凜がプロデビューで語ったショーへの特別な思い「お客さん...の画像はこちら >>

【目標にしていた大ちゃんの演技】

 1月19日、東京都内のダイドードリンコアイスアリーナ。アイスショー『プリンスアイスワールド』東京公演の初日後、出演者たちの囲み取材がにぎやかに行なわれていた。小さな会見場は、集まった報道陣で立錐(りっすい)の余地もないほどだった。

壇上は眩しいカメラライトを浴び、場内は熱気を帯びていた。

 競技の会見とは違い、誰もが表情は明るく穏やかだった。最後はミュージカル歌手・俳優の藤岡正明と島田歌穂のふたりが、高橋大輔と本田真凜のふたりに「点数がつく競技者とアイスショーなどで滑るプロの違い」を質問する展開で、話は盛り上がった。

「私が小さい時に、こんなふうに滑れるようになりたいって思っていたのが、大ちゃん(高橋)の『白鳥の湖』のヒップホップ(バージョン)で」

 本田はマイクを持って、同じ壇の横にいた高橋に視線をやりながら言った。

「それは競技の場ではありましたが、大ちゃんは採点とか失敗とかにとらわれず、最後までワクワクさせるような演技で。自分もできたらいいなって、ずっと目標にしてきました。
何度も見てみたいって思うようなプログラムで。私の場合は、試合になると失敗したらどうしようと思ってしまったんですが、アイスショーはお客さんに楽しんでもらうのが一番なので。そこはこれから(プロとして)のびのびできるかなって思っています!」

 高橋のスケーティングは、たしかに競技を越えたスペクタクルだった。観客を楽しませながら勝利する領域にあったと言えるだろう。どの楽曲も、氷の上で生き生きとしていた。

 プロに転向した本田はこの日、初めての舞台に立った。
あらためて、表現者としての境地に挑む。高橋は、その模範と言えるだろう。

【いろんな表情や表現を出せるように】

 今年1月、本田は大学を卒業する22歳で現役引退を発表している。昨年12月、9年連続エントリーとなった全日本選手権が最後の大会となった。

「どんな瞬間を振り返っても、すべての思い出にスケートがあります。長い競技生活、いい時もそうでない時も、たくさんの方に寄り添ってもらって幸せでした。これからたとえ表に出なくなっても、どこかでスケートを滑り続けているんじゃないかって」

 本田は引退会見で、スケートと出会えた幸せを話していた。

競技には別れを告げることになったが、思いそのものは変わらないのかもしれない。

「小さい時は、あまり何も考えずに取材で『アイスショーに出たいので、試合を頑張ります』って言っていました(笑)」

 本田はそう言って少し恥じらうような笑顔を見せ、こう続けている。

「それくらい、アイスショーで氷の上でのびのびと滑って、お客さんに楽しんでもらえるというのは素敵で、すごく好きでした。今はその場所に立てるようになったので、これからは大ちゃんのように、いろんなジャンルで、いろんな表情や表現を出せるように頑張りたいです!」

 この日、本田はショーの前半に先陣をきるように、ピンクとバイオレットを基調にゴージャスな刺繍やストーンが散りばめられた衣装で登場した。ディズニー映画のキャラクターになりきって、『リトルマーメイド』を披露。上半身を反る形のイナバウアーや優雅なスパイラルで、きらきらと表情を輝かせていた。
可憐で活力に満ち、彼女だけの世界観があった。

「今回は大ちゃん"さん"とジャンプを一緒に練習させてもらって、久しぶりに感激しました!」

 本田は明るい声で言った。

【プロスケーターとして第一歩】

「今日滑った曲は、試合で使っていたのを皆さんに楽しんでもらえるように、アイスショー用にアレンジしました。自分の出番の前が(ミュージカル歌手の)生歌のプログラムで、とても幸せな雰囲気で。緊張しながら(自分の順番を)待っていました」

 プロスケーターとしての第一歩は、上々だったと言えるだろう。

「いろいろ苦しいこともありましたが、スケートをしていたからこそ自分がいて。

それは幸せなことです」

 本田は競技者としての幕を閉じた全日本選手権後に語っているが、その戦いは表現者としての土台にもなるだろう。

「6分間練習の時から、たくさんの方にバナーを掲げていただいたり、『真凜ちゃん、頑張れ』と声をかけてもらったり。数年前の自分は、こんなたくさんの応援があることに気づけていませんでした。(気づいたからこそ)最後まで勇気を持って戦えたんだ、と。トリプルサルコウを跳んでフィギュアスケーター、競技者として戦えたことを誇りに思っています」

 本田はこれからも氷の上に立つ。そこが彼女の居場所だ。


『プリンスアイスワールド』東京公演は1月21日まで、3日間にわたって開催される。