【ボールは一級品。メッツで完全開花なるか】
藤浪晋太郎がニューヨークへ――。
昨季、大谷翔平をも上回るメジャー日本投手最速の102.6マイル(約165.1キロ)を計測し、100マイル(約161キロ)以上の球を年間計136球も投げた豪腕がニューヨークにどんな形で"ハマる"かが楽しみだ。昨季75勝87敗でナ・リーグ東地区4位に沈んだメッツで、エースの千賀滉大とともに藤浪がどんな貢献をするかが注目される。
もっとも、『The Athletic』のメッツ番記者、ウィル・サモン氏によると、「チーム内での藤浪への期待感はそこまで大きいわけではない」という。
「昨季の防御率が7.18だったことを考えれば、藤浪のメッツでの立場が確固たるものではないとしても当然だ。
背景には、メジャー1年目の藤浪はアップダウンが極めて激しかった、という事実があるだろう。
昨季、藤浪はオークランド・アスレチックスでは5勝8敗、防御率8.57という厳しい成績だったが、そのポテンシャルを評価したオリオールズに7月下旬に移籍。以降はパフォーマンスが向上し、30試合で2勝0敗2セーブ、防御率4.85という成績で、リーグ最多の101勝で地区優勝したチームに貢献した。それでも、シーズン終盤にまた不調に陥ったため、ポストシーズンのロースターには登録されなかった。
この不安定さが玉にキズだが、素質は誰もが認めるものがある。
前述のとり、球速は最高級であり、スイーパーもブーメランのように大きく曲がる。これだけの素材が完全開花すれば......という期待感は常にある。これまでメジャーで多くの好投手を見てきたサモン記者もそれは認めており、同時に希有なポテンシャルを解き放つため、藤浪がニューヨークのマウンドで取り組まなければいけないことも指摘している。
「メッツが藤浪を獲得した理由は、端的に言ってふたつある。まずは速球をはじめ、持ち球の威力がすばらしいこと。
ルーキーシーズンは適応が難しいとはいえ、昨季の79イニングで45四球、8暴投はやはり多すぎた。その点こそが、ミスの許されないポストシーズンでのロースター落ちにつながったのだろう。逆に言えば、この制球難を解消する術を藤浪が見つけられれば、メジャーでの成功が見えてくる。
【成功のカギはブルペンにあり】
MLB最大の金満オーナー、スティーブ・コーエン氏に率いられるメッツだが、今オフは大きな補強をほとんどしなかった。
打線もインパクト不足は否めず、今季のメッツは上位候補には挙げられていない。そんなチームに大きな上積みがあるとすれば、藤浪も名を連ねる救援投手陣。昨春のWBCで大ケガを負った守護神エドウィン・ディアスが復帰してくるブルペンには、サモン記者も「伸びしろがある」と見ている。
「メッツのブルペンはチームの強みになっても不思議はない。
いわゆる"低コストのギャンブル"と見られている藤浪にとっても、前評判が高いとは言えないメッツは、決して"やりにくい"環境ではないはずだ。特にメッツのデビッド・スターンズ編成部長は、ミルウォーキー・ブルワーズのGM時代からブルペン補強のうまさで知られた人物。そんなエグゼクティブのお眼鏡にかなった藤浪が課題を克服し、低評価のチームを押し上げれば、ニューヨークの注目選手として浮上することも考えられる。
新しい機会を求めて人材が集まってくることから、今も昔も"セカンドチャンスの街"と呼ばれるニューヨーク。