元女子バレー日本代表

栗原恵が振り返る「春高バレー女子」

(福澤達哉が振り返る男子:レベルが高い「データバレー」に驚き 一方で「大エース」の必要性も説いた>>)

 今年の春高バレー女子は、就実(岡山)が2年ぶりの優勝を果たした。最後の大会となった3年生、「活躍が目立った」という1、2年生など注目選手を含め、元女子バレー日本代表の栗原恵さんに今大会を総括してもらった。



栗原恵が春高バレー女子で注目したチームと選手 プレーが「胸に...の画像はこちら >>

【就実を見て気づいた「スポーツの根本にあるもの」】

――まず、大会全体の印象はいかがでしたか?

栗原 3年生はもちろん、1、2年生の活躍が目立ちましたね。今大会も十分にレベルが高かったですが、来年は春高を経験した選手たちのコンビネーションの精度がますます高くなるでしょうし、「より強くなったチームが見られるはず」と期待しています。

――今大会で見えた、女子の高校バレーのトレンドなどはありましたか?

栗原 高校生でもデータが重要になっていることを感じました。練習からアナリストをつけている高校もありますし、その傾向は年々強くなっています。監督からの指示も変わってきていますね。気持ちの部分だけでなく、プレーに関する具体的な指示を多く聞くようになりました。

――三冠(国体・インターハイ・春高)を狙っていた下北沢成徳(東京)と、就実による決勝は非常に見応えがある試合でした。

栗原 就実は昨年度の春高で、選手がコロナに感染した疑いがあるということで棄権せざるを得なかった。大会が終わったあと、同年の3月に行なわれた就実と金蘭会(大阪)のエキシビションマッチの解説をやらせていただいたんですが、その時も就実の選手やスタッフのみなさんが、とても大きなものを抱えていることが伝わってきました。

 今年の春高の決勝では、タイムアウト中に選手たちが「ここにいられることに感謝を」と言い合っていて。当然、優勝したい気持ちはあるでしょうが、それ以前に大会に出場できたこと、春高の舞台でプレーできている喜びを感じているのがわかりました。優勝が決まってすぐ、応援に来ていた昨年の卒業生たちに向かって手を振る姿に、バレー、スポーツの根本にあるものに気づかせてもらいました。

【就実はセッターと3人のエースを中心に「ブレないチーム」】

――就実の西畑美希監督も、さまざまな思いで優勝を見届けたでしょうね。

栗原 毎日、「体調を崩す選手が出るのではないか」「今日誰も熱がでなくてよかった」と祈るような思いで戦っていたそうなので、精神的に苦しかったでしょうね。

そんなことが1年間続いたと思うのですが、今年の春高であれだけのバレーを展開できたということは、昨年も棄権しなければ間違いなくいいバレーができたということ。そこに触れる選手はいませんでしたが。

 そして西畑監督は最後の最後に、「春高の決勝戦で、本当にすばらしいバレーを見せてくれた。ありがとう」という言葉を選手たちにかけた。モチベーションが下がったところから立て直し、すばらしいプレーを見せてくれた選手たちに対する感謝が表れていました。西畑監督は、普段はあまり選手を褒めないそうなのですが、それゆえに見ている側の胸にも残るものがありました。

――試合内容についてはいかがですか?

栗原 就実のセッター・河本菜々子選手は、1年生の時から大事なところでピンポイント起用されていて、「しっかり役割を果たす選手だな」と思っていました。3年生で迎えた今大会はフル出場して最後までトスを上げきって、すばらしいバレーを見せてくれましたね。

 対する下北沢成徳は、やはり周囲の注目は「三冠」でしたが、伊藤崇博監督や選手が口を揃えていたのは、昨季まで指揮を執っていた小川良樹元監督(木村沙織、石川真佑らを育てた名監督)が作ってきたチームとは違う下北沢成徳を「みんなで作り直している」ということ。二冠を手にしている余裕などは見せず、「春高で勝とう」という気持ちが表情に出ていました。決勝でも、チャレンジャーとして臨む姿勢を見せてくれました。

――就実がどんなバレーをしていたか、具体的に伺ってもいいでしょうか。

栗原 就実は横断幕にも書かれている「基本に忠実に」を実践しています。トスひとつとっても、質がすばらしい。簡単に上げているように見えるボールも、セッターの河本選手のポジショニングがしっかりしているから簡単に見えるだけ。とても打ちやすそうなセットアップで、それを2年生の3人のエース、福村心優美選手、押川結衣選手、高橋凪選手がしっかり決める。まったく"ブレない"チームだったと思います。

――エースの3人が2年生なので、来年も楽しみですね。

栗原 楽しみですね。本人たちはいいライバル意識を持っています。今は福村選手の評価が特に高いようですが、押川選手や高橋選手も「自分もちゃんと見て」という気持ちを、控えめながらちゃんと出せる。プレーも含めて、いい相乗効果があるのがわかります。

【「心配していた」母校の奮闘】

―― 一方の下北沢成徳は、小川監督時代はオープントスで高いセットを打ち切るバレーという印象がありました。伊藤新監督になって変わりましたか?

栗原 持ち味のハイセットは健在でしたが、セカンドテンポ(アタッカーがセッターのトスアップとほぼ同時に助走を開始するプレー)だけじゃなく、ファーストテンポ(アタッカーがセッターのセットアップよりも前に助走を開始するプレー)のスパイクも入れていましたね。また違った魅力があるバレーを見せてくれました。

――それでも、三冠にはあと一歩届かなかったですね。

栗原 インターハイなどでどうだったのかはわかりませんが、春高では表情に少し焦りが見えたというか、初戦から苦しんでいるように見えました。選手たちの能力はすばらしいですし、二冠を取っていて"勝負勘"もあったから決勝までいけたわけですが......高さがあるチームのわりに、ブロックがそこまで機能していなかったかと。それがフロアディフェンスにも影響したでしょうし、ちょっとした歪みをなかなか修正できなかったように見えました。

――栗原さんの母校で、前回大会の準優勝校である誠英(旧・三田尻女子)は、優勝した就実と準決勝で当たって惜しくも敗退しました。

栗原 3年生のエース・上村日菜選手は、2年生だった昨年も上級生の中に入ってチームを引っ張っていたんです。なので、自分の高校時代と重ねて見てしまって。私は1、2年生の時にすばらしい先輩たちの中に入れてもらえて、春高でもいい経験ができました。自分が最上級生になった時には、私以外の選手がそういう舞台を経験していなくて、周囲を鼓舞しながらプレーする立場になった。そんなことを思い出しました。

 上村選手はブロックを使うのがうまくて、吸いこませたり、ブロックアウトを取ったり。身長168cmとは思えない高さを感じさせてくれました。守備のほうも昨年に続いて"要"になっていましたし、攻守ともにチームをけん引していました。

 正直、就実は頭ひとつ抜けている感じだったので、「誠英はどう戦うんだろう」と少し心配していたんです。でも試合では、攻撃枚数が揃っている就実にディフェンスで粘っていた。負けはしましたが、先輩としてジーンときましたし、嬉しかったです。

大友愛の長女はサーブで狙われた】

――今大会は強豪の東九州龍谷や、昨年のシニア代表に高校生で唯一登録された大友愛さんの長女・秋本美空選手(2年)擁する共栄学園も一回戦負けと、注目校が早々に散ることも多かったですね。

栗原 共栄学園を破った熊本信愛(熊本)は昨年もすごくいいバレーをしていたので、面白い対戦になるだろうと思っていました。お互いにコンビバレーを展開したい中で、熊本信愛のほうがうまく機能していましたね。

 また、秋本選手は熊本親愛のサーバーにずっと狙われていたので、サーブレシーブで精いっぱいの状況。そうして第1セットをとられ、第2セットも奪われそうになった時に、中村文哉監督が指示を出して秋本選手をサーブレシーブから外した。攻撃に集中させたわけですが、間に合いませんでした。

――中村監督は「身長が高くて、サーブレシーブもできる選手を育成しなければいけない」と、よくおっしゃっていますね。

栗原 共栄学園はサーブレシーブが乱れてオープン攻撃になって、相手にブロックタッチを取られたりアウトにしてしまったり。それで第1セットを取られた時点で、秋本選手をはじめ、みんな表情が苦しくなっていました。

 共栄学園は本来、ブロックがいい「組織的でディフェンシブ」なチームなんです。練習を見に行った時も、中村監督がブロックをとても細かく指示していましたし、選手同士でも「ストレートをどれだけ開けるか、締めるか」など、徹底していた印象があります。それが春高では、ブロックと後ろの選手との関係性もあまりうまくいかず、力を発揮できなかったように見えました。

――就実に敗れてベスト8に終わった金蘭会はどうでしたか?

栗原 上村杏菜選手(3年)の怪我が大きかったですね。準決勝で敗れた昨年は、インタビューで「自分が決め切れなくて負けてしまった」と涙を流していたのが印象的でした。 今大会にかける思いは強かったと思いますが、就実戦は少し苦しい展開で終わってしまった。ただ、ベスト8という結果は組み合わせの運もありあますよね。

 上村選手だけでなく、身長182cmのミドルブロッカー・井上未唯奈選手(3年)もいいプレーをしていました。昨年は怪我で出られなかったんですが、今大会はセッターとのコンビもよく、大事なところでブロックも決めていましたね。怪我を経て成長した選手は、今後ももっと大きく成長してくれるのではないかと期待してしまいます。

――これまで名前が挙がった選手以外で、注目した選手はいますか?

栗原 「会場全体を巻き込んだ」という印象があるのは、旭川実業(北海道)の笠井季璃選手(3年)。下北沢成徳とのセンターコートでの準決勝では、前、後ろからも決め続けて会場が盛り上がりました。最後は、会場のほとんどの声援が笠井選手に向けられていたんじゃないかと。そういった選手は本当に珍しい。内定したトヨタ車体クインシーズで、いろんなテンポの攻撃を覚えたら、もっと面白いバレーを見せてくれるのではと注目しています。

 下北沢成徳のイェーモンミャ選手(2年)は、しなやかで、均整の取れた体つきをしていました。トレーニングをちゃんとやっていることがわかりましたね。パワーもすごくて、思わず声が出てしまうようなスパイクを打っていました。彼女は来年もありますし、どう成長するのか今から楽しみです。

【プロフィール】

栗原恵(くりはら・めぐみ)

1984年7月31日生まれ、広島県出身。小学4年からバレーボールを始め、三田尻女子高校(現・誠英高校)では1年時のインターハイ・国体・春高バレー、2年時のインターハイ優勝に貢献。2001年に日本代表に初選出され、翌2002年に代表デビュー。2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪に出場した。2010年の世界バレーでは、32年ぶりに銅メダルを獲得した。その後、ロシアリーグに挑戦したのち、岡山シーガルズ、日立リヴァーレ、JTマーヴェラスでプレー。2019年6月に現役引退を発表した。引退後はバレーの試合での解説をはじめ、タレント活動など幅広く活躍している。