卓球の世界選手権団体戦(韓国・釜山)が2月16日から10日間にわたって行なわれ、日本女子は決勝で大会5連覇中の中国に2-3で惜敗し、銀メダルに終わった。優勝となれば、男女通じて1971年の名古屋大会以来53年ぶりの快挙だったが、あと一歩、届かなかった。

それでも早田ひな平野美宇、張本美和ら日本人選手の実力は中国と同等であることを示したと言える。的確なアドバイスを送る姿が「まるで"伊藤監督"」とSNSで話題になった伊藤美誠、同じくリザーブに回った木原美悠らの効果的なベンチワークも含め、「個」だけではなく、チーム全体で"絶対女王"を追い込む激闘は、日本中を熱くさせた。

早田ひな、平野美宇、張本美和が世界卓球で証明 日本女子は絶対...の画像はこちら >>

【エース・早田が"鬼門"の陳夢に初白星】

 日本勢の先陣を任された15歳の張本は、昨年出場した11大会中7大会で優勝している世界ランキング1位の孫穎莎(スン・イーシャ)と対決。張本は一球ごとにサーブのコースや回転を変え、相手に的を絞らせないよう工夫していたが、チキータで対応され、逆に強打を浴びる場面が多くなるなど防戦一方に。準決勝までは各国のエースを打ち破ってきたが、最後まで攻略の糸口が見出せずに0−3とストレートで敗北した。

 初戦を落とした日本は第2試合にエースの早田を起用。中国は、過去4年間で日本人選手に対して無敗の世界ランキング3位(大会開始時点。

現在は同2位)の陳夢(チェン・ムン)。早田も国際大会で7戦全敗と、"鬼門"の相手だ。

 第1ゲームは、序盤からロングサーブを多用するなど陳夢の強気な攻めに対応できずに落としたが、その後は相手のフルスイングした強打をカウンターで何度も打ち返し、長いラリーをことごとくモノにしていく。11ー8で第2ゲームを奪い返し、「相手は苦しい体勢でも必死にフォアハンドで打とうとしている。だからフォアミドルが有効」というアドバイスを受けた早田は、打つ瞬間に相手の位置どりを確認しながら敵の体勢を崩す効果的な攻撃を続け、第3ゲームも11ー9で奪った。

 接戦になった第4ゲームは、8−7での壮絶なラリーを制した際に拳を突き上げて絶叫するなど押し込んでいく。
デュースに突入し、一度はリードを許すも、相手のエースボールを跳ね返すなどして14-12の粘り勝ち。陳夢から初勝利を挙げた。

昨年12月に行なわれた「卓球女子世界一決定戦」ではフルゲームの末に敗北し、「一球の迷いが勝敗を分けた」と早田は悔しさを滲ませていたが、この日は試合中にも笑顔を見せるなど、ゲームを楽しんでいた姿が印象深い。一打一打に自信が宿り、明らかな成長を見せていた。

【平野が"ハリケーン"で圧倒】

 マッチカウント1−1で迎えた第3試合、日本は世界ランキング2位(大会開始時点。現在は同3位)の王芸迪(ワン・イーディ)に対して平野を投入。バックハンドでのクロスのラリーが多く、その中での細かい駆け引きが目立った第1ゲームだったが、平野は相手のバックミドルを突き、窮屈な体制にさせて強打を打たせず。

得意の戦術、サーブからの3球目攻撃でも確実に得点を奪い、11-8で先取した。

 第2ゲームは再び"伊藤監督"の声がゲームを動かす。「相手はチキータを嫌がっている。強く返さなくてもいいから(王のサーブが)下回転でも、横回転をかけて返すだけでも効果的」と、横回転系のボールに苦戦している王芸迪の隙を見逃さなかった。戦術を託された平野はチキータレシーブによって優勢な展開を維持し、13-11と連取して勝利に王手をかける。

 あとがない王芸迪は、チキータをされないようサーブを変更したり、バックの打ち合いで優勢な平野に対して時折フォアサイドに揺さぶるなど戦術を変更。
それでも平野は、"ハリケーン"と呼ばれるピッチの速い卓球を展開し、強力なフォアドライブで打ち返していく。特に、相手がボールに触れられないほどドライブの回転量の多さは際立っていた。

 そのまま12-10で押し切り、圧巻のストレート勝ち。試合後には「パリ五輪代表が決まってから最初の大会で、すごく不安な気持ちでいっぱいだった。その中でチームのみんなや監督に支えられて、最後は中国を追い詰めることができた。今までで一番、手ごたえがあった」とコメント。

今大会は3番手で、必ず白星を手にしていた平野の姿は頼もしく映った。

【早田でも太刀打ちできない世界女王の壁】

 日本が優勝に王手をかけた第4試合。早田と孫穎莎、同じ2000年生まれの「黄金世代」対決は、孫穎莎の圧倒的な強さを思い知らされる内容となった。

 ゲーム序盤からエースボールを繰り出していく早田だが、それを上回る衝撃的なカウンターをくらってしまう。特に、孫穎莎が得意とするストレートへのパワードライブは強力で、打ち返すのは困難だ。

 2−11と大差で第1ゲームを落としすと、その後は左右にコースを散らすなどして立て直しを図ったが、すぐさま対応された。孫穎莎はつなぎのボールも回転・コースともに質が高く、つけ入る隙がない。

ドライブは打点が高く、返球の際に差し込まれてしまう。終始圧倒され、なすすべなく第2、第3ゲームを奪われて敗北した。早田は「実力不足だな、とすごく感じた。打たれて、取れない。自分が打っても簡単にブロックされる。孫選手にフォーカスした強化練習をやっていかないと、あの壁は超えられない」と世界女王のすごみをあらためて実感していた。

 これまでライバルとして切磋琢磨してきた伊藤も「(孫は)調子がいい。ガンガン打ち込んできてる。緩急つけても全部返ってくる。信じられないぐらい強い」と舌を巻いた。ただでさえ勝つことが厳しい中国勢だが、その中でもズバ抜けた実力と精神を兼ね備えている孫穎莎をどう打ち破るかが、パリ五輪に向けて一番の課題となりそうだ。

【優勝を逃すも、張本は「伸び代」に期待】

 2勝2敗とされた日本は、優勝がかかった大一番を張本に託すことになった。対する陳夢も卓球王国の面目を保つため、並々ならぬ覚悟でコートに歩み寄る。張本ほどの若さであれば、初戦の敗北を引きずっていてもおかしくはない。だが、兄の張本智和が「大舞台でも臆することがない」と話すほど、彼女のメンタルは滅多なことでは崩れない。

 そんな15歳は第1ゲームからエンジン全開で飛ばしていく。陳夢の強打に対して打ち返しづらいミドルにカウンターを放ったり、要所で相手が反応できないほどのバックストレートへのドライブを決めたりと、一気に自分のペースに引きずりこむ。反撃の隙を与えないまま11ー4で先制した。

 しかし、ここから陳夢が息を吹き返す。ラリー戦では互角以上の戦いを見せる張本だが、ツッツキなど台上処理が少しでも甘くなると元世界女王は見逃してはくれない。そういった些細なミスを確実に得点へ結びつけられ、7ー11と第2ゲームを取られてしまう。

 第3、第4ゲームは後半でリードをする場面を作っていたが、陳夢の勝負強さ、粘り強いプレーに逆転を許して両ゲームとも奪われ、大金星とはならなかった。試合後には「リードしている場面とか、実力的な部分で差を感じてしまった」と張本は反省を口にしたが、「この大舞台を経験できて楽しかった」と笑顔で話す姿に、さらなる躍進を予感させた。

【パリ五輪はダブルスの出来が重要】

 惜しくも半世紀ぶりの優勝は逃したが、頂点に君臨し続けてきた中国を土壇場まで追い詰めた日本。それぞれの試合内容を見ても、パリ五輪での金メダルが近づいたのは間違いない。

 今大会は5試合すべてがシングルスの団体戦だったが、今夏の本戦では第1試合にダブルスが入るため戦い方が変わってくる。初戦を落とすと、その後のシングルスで3勝する必要があるため、中国に勝つためにはダブルスでの勝利が絶対条件だ。

 早田をシングルスで2試合出場させる"エース起用"と考えると、ペアを組むのは張本と平野が有力。すでにふたりは、昨年9月のアジア選手権や、今年の全日本選手権のダブルスに出場しており、徐々に手応えを掴んでいる。あと半年でコンビネーションプレーを突き詰めることができれば、打倒・中国、金メダル獲得が現実味を帯びてくる。

 とはいえ、脅威となる選手が現れれば徹底的に研究してくるのが中国だ。すでに新たな対策に乗り出しているだろう。それでも早田や渡辺武弘監督は「真っ向勝負」を掲げる。どんな対策を講じられようと、実力で打ち破る。そのレベルにまで達していることを、今大会で証明して見せた。"絶対女王"の牙城を崩す瞬間は、すぐそこまで迫っている。