「PLAYBACK WBC」Memories of Glory

 昨年3月、第5回WBCで栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、大谷翔平ダルビッシュ有、山本由伸らの活躍もあり、1次ラウンド初戦の中国戦から決勝のアメリカ戦まで負けなしの全勝で3大会ぶり3度目の世界一を果たした。日本を熱狂と感動の渦に巻き込んだWBC制覇から1年、選手たちはまもなく始まるシーズンに向けて調整を行なっているが、スポルティーバでは昨年WBC期間中に配信された侍ジャパンの記事を再公開。

あらためて侍ジャパン栄光の軌跡を振り返りたい。 ※記事内容は配信当時のものになります

 ダルビッシュ有と大谷翔平、吉田正尚にラーズ・ヌートバーの4人のメジャーリーガーがやたらと目立ったWBC──そもそもの力を思えば当然なのかもしれないが、そんななかでも岡本和真が気を吐き、村上宗隆が意地を見せ、山本由伸と佐々木朗希も才能を見せつけた。14年ぶりの世界一を奪還した日本代表、マイアミでの準決勝、決勝の2試合から輝きを放った瞬間を切りとってみる。

侍ジャパン メジャー組ではない4人のWBCアナザーストーリー...の画像はこちら >>

【周東佑京が語るサヨナラホームイン】

 まずは準決勝。

 真っ先に思い浮かぶのは、周東佑京だ。

 村上宗隆のセンターを超えるツーベースヒットが逆転サヨナラ打となったのは、周東の足があったからだ。4−5と1点ビハインドの9回裏、先頭の大谷翔平がツーベースで出ると、続く吉田正尚がフォアボールでノーアウト一、二塁とチャンスが広がる。

ここで逆転のランナーとして吉田の代走に送り出されたのが周東だった。

 驚かされたのは、スタートの速さだ。

 村上の打球が飛んだ直後、周東は躊躇なくスタートを切っている。スタートのよさは身体の使い方と打球判断が生み出すと周東が以前、話していたことがある。

「まず、塁上で力を抜くことです。力が入っていたら身体が動きませんし。

力を抜くからこそ身体を自由に動かすことができる。そういう状態にしておくためには、気持ちの準備が必要です」

 この日の周東は、6回あたりから気持ちを盛り上げる準備を始めていた。

「点差(6回の時点では3点のビハインド)は詰まると思っていましたし、自分が行くところをイメージしながら準備をしていました。6回に動き始めて、7回からかな。ある程度、出てきそうな相手のピッチャーの映像を見ながら、気持ちを落ち着かせていましたね。(吉田が塁に出たら)行くことは決まっていたので、還ったらサヨナラだなと思いながら、あの状況でやっちゃいけないことを頭のなかで整理しながら、また気持ちを......やっぱりああいう場面というのは、いかに落ち着かせるかというところが大事じゃないかなと思います」

 そしてあの打球判断──周東は以前、こうも話していた。

「打球判断をする時は、ボールだけを見ないようにして、打球が飛んだ方向を見ています。とくにセンターから左へ飛んだ打球は走っていく方向の先になりますから、ボールを追う野手の動きも同時に見るようにしています」

 村上の打球がセンター方向へ飛んだ瞬間、周東は「越えると思ったので勝ったと思いました」と言った。そしてあまりにスタートがよかったせいで前を走る大谷に追いつかんばかりの周東は、大谷の同点のホームインのわずか1秒後、サヨナラのホームに滑り込んだ。そのときに考えていたことを訊くと、周東はこう言った。

「3塁を回ってから直線的に入れるように......で、転ばないように、それだけです(笑)」

【骨折しながら強行出場した守備の要】

 もうひとりは、ショートを守る源田壮亮の守備だ。

 準決勝の2回、先発の佐々木朗希がレフト前、ピッチャーへの強襲ヒットと連打を許したワンアウト一、二塁の場面で、源田が6−4−3のダブルプレーを完成させてピンチを凌いだ。

 7回には、2番手の山本由伸が歩かせたランナーが試みた盗塁をキャッチャーの甲斐拓也が防ぐ。

その際、源田は身体をひねってうまく掻い潜ろうとしたランナーの動きを読み切ってグラブを運び、かろうじてタッチ。三振ゲッツーでこの回をゼロに抑えて試合を落ち着かせた。一度はセーフと判定されながらリプレー検証でアウトとなったこのプレーが、直後の吉田正尚の同点3ランを呼び込んだと言っても過言ではない。

 さらに1点差に追い上げ、どうしてもゼロで抑えたかった9回。ショートの後方、レフトの前へ上がったフライを、源田が背走しながらスーパーキャッチ。ここでも波風を防いで、9回裏の逆転サヨナラ劇へとつないでみせた。

 いや、そもそも源田は右手の小指を骨折していたはずだ。3月10日、1次ラウンドの韓国戦でけん制の際の帰塁で指を突いてからまだ2週間も経っていない。それでも平然と試合に出て、ショートを守り、安心感のあるプレーで試合を落ち着かせる。まさに栗山英樹監督の言葉どおりだ。

「今の日本にとって、しっかり守る形をつくることは欠かせない。そのために源ちゃんは絶対に必要な存在なんだ」

 実際、源田も栗山監督から直に「センターラインの守りは最優先で固めたい」と伝えられていた。

"ショート・源田"はWBCのカギを握る──守りを重視してチームをつくろうと考えていた栗山監督は、早い段階でショートを源田に託すことを決めていた。源田もこう話している。

「WBCに出るのは初めてですし、どんな野球なんだろうとか、どんな発見があるのかなとか、そこで自分は成長できるのかなと思うと、ワクワクしますし、楽しみです」

 源田はこれまでプレミア12で金メダル、東京オリンピックでも金メダルを獲得してきた。国際舞台の勝ち運を持っている、というわけだ。

「ベンチから見ることが多かったので、勝ち運という感じでもないとは思いますが、でも、僕が子どもの頃にWBCを見て『かっこいいな、僕も日の丸を背負う野球選手になりたいな』と気持ちが高まったことはよく覚えています。僕もこういう立場になって、子どもたちに同じような気持ちになってもらえたら、すごくうれしいなと思っています」

【トラウトに対峙した戸郷と大勢】

 そして決勝で登板したふたり、戸郷翔征と大勢は、事前に語り合っていたマイク・トラウトとの対決が実現した。まずはそのやりとりを再現しよう。

戸郷 大勢さん、WBCでマイク・トラウトを打席に迎えたら、どう抑えますか。

大勢 どの球を投げても甘く入ったら打たれると思うので、強気で勝負したいかな。そのなかで相手を感じながら投げられたらいいと思うけど、やっぱり手が伸びるゾーンは危ないから、低めじゃなくて高めの真っすぐを3球続けるとか......もちろん、相手のがっつき方を見ながらにはなるけどね。

戸郷 僕も真っすぐで攻めたいですね。真っすぐでファウルをとってフォークを振らせられたら最高です。

 そんなふうにイメージを語っていた2人、まずは3回。2番手としてマウンドへ上がった戸郷は、いきなり2番のトラウトと対戦する。その初球、アウトハイに149キロのストレートを投じると、トラウトが見逃してワンストライク。2球目も、今度はインハイへ149キロのストレートを続けてファウルを打たせ、あっという間に追い込んだ。ここから勝負球はフォーク。3球目はワンバウンドでボールとなったものの、4球目のフォークはいいところに落ちて、空振り三振──なんと、事前に語っていたイメージそのままの配球だった。戸郷は試合が終わって、こう話した。

「攻めていくなかでの配球だったんで、興奮しましたし、楽しめたなと......世界最高峰の、それもトラウト選手から三振をとれたんで、いい経験をさせてもらいました。あの瞬間、そのままベンチに走って帰りたいくらい、うれしかったですし、テレビでしか見たことのない選手と対戦できて誇りに思いました。いい景色を見させてもらいました」

 一方の大勢がトラウトと対峙したのは3−1と2点をリードして迎えた7回表だった。交代するなり大勢にしては珍しいストレートのフォアボールを出し、ムーキー・ベッツにフォークをレフト前へ運ばれたノーアウト一、二塁のピンチで、トラウトを迎える。

 その初球、大勢もまた事前の言葉どおり、インコースの高めに152キロのストレートを投げ込んだ。トラウトがこれをファウルにすると2球目もストレートをインコースのやや低めへ投じ、詰まったライトフライに打ちとった。

 大勢は投げている最中、相手がトラウトだと気づかなかったそうで、投げ終わってから「トラウトだったのか」と思ったのだとか......集中しすぎていたのかはたまた緊張していたのか、いやはや、さすがはルーキーイヤーにジャイアンツのクローザーを務め上げた大勢ではないか。じつはこのふたり、WBCの前にこんな話もしている。

大勢 今年からひとり暮らしを始めたんだよね。鍋でもする?

戸郷 絶対、焼肉でしょ。簡単な焼肉。妙に凝って美味しくなかったらイヤなんで、安定のタレで......ホントは宮崎県民御用達の戸村のタレで食べてもらいたいんですが、大勢さん、好き嫌いありそうなんで、無難なところで(笑)。

大勢 じゃあ、僕は地元の(兵庫県)多可町にある八千代の巻きずしの店が銀座にオープンしたんで、それをお土産に持っていくよ。

 WBCが終わればシーズン開幕前の慌ただしい時期ではある。それでも、わずかながらの余韻に浸るくらいは構わないだろう。戸郷と大勢、ふたりは焼肉と巻きずしで世界一を祝えたのだろうか──。