女子ゴルフ界のニューヒロイン候補
清本美波インタビュー(中編)

「これはやばい」清本美波がゴルフをやめようと思った瞬間 「テ...の画像はこちら >>

前編◆注目度No.1の女子プロゴルファー・清本美波 今季の目標は?>>

 注目ルーキーの清本美波がゴルフを始めたのは、6歳の時だ。会社のコンペを控えていた父の練習につき添ったところ、誰より彼女自身がゴルフに夢中になっていった。

弟ふたりとともに、父・宗健さんをコーチとして仰ぎ、一家でゴルフのプロを目指す生活を送ってきた。

 ここからは宗健さんも加わり、ゴルフを開始した小学生時代やプロテスト合格を目標にした昨年の"父子の戦い"を振り返る――。

――子どもの習い事などにおいては、当の本人よりも両親が熱心になるケースがよくありますが、清本プロも6歳でゴルフを始めて、当初からご両親の期待を受けてきたのでしょうか。

清本美波(以下、清本)そんな感じではなかったですね。私自身、こんなにも長く(ゴルフを)本気でやるとは最初から思っていたわけではないですけど、小学生の低学年の頃には「プロになりたい」と思っていました。

――父であり、コーチとしてゴルファー人生を支えてきた宗健さんから見て、清本プロはどのような子どもでしたか。

 負けず嫌いだったと思いますね。ゴルフを本気でやるようになったのも、ゴルフ練習場にいた同い年の子に負けたくないという気持ちからでしたし、小学生になって『炎の体育会TV』(TBSテレビ)に出ていたジュニアゴルファーに「勝ちたい」とずっと口にしていて、実際に小学5年生の時の大会で(その子に)勝ったこともありました。

清本 昔は(世界ジュニアに出場したこともある)弟(貴秀)のほうが有名だったから、「貴秀のお姉ちゃん」と呼ばれるのがものすごく嫌だったんです。弟にだけは負けたくなかった。

――宗健さんはアマチュアゴルファーですが、YouTubeなどでゴルフを研究して、清本プロのコーチを務めてきました。宗健さん自身のゴルフの腕前は?

 スコアは130ぐらいですよ。

――えっ、冗談ですよね。

 いやいや、そんなもんですよ(笑)。ただゴルフの勉強はしてきました。動画で『GGスイング』なども勉強して、自分なりに理論を組み立てて、教えてきました。

――清本プロにとって、宗健さんはどんなコーチなのでしょうか。

清本 調子が悪くても、スコアが悪くても、「楽しんでやっておいで」と言ってくれます。

お父さんなので、相談しやすいし、話しやすい。自分の一番やりやすい感じでゴルフができるのがいいと思います。でも、時々、怖いです。

――父親だからこそ、気づく点もあるのではないですか。

清本 う~ん......、そんなにないかな。

 いや、あるんだよ。

山ほどあるんだよ(苦笑)。

「これはやばい」清本美波がゴルフをやめようと思った瞬間 「ティーグランドで手が震え、風の音やカートの動きを異常に気にしちゃう」
photo by Fujioka Masaki
――誰しもが通る反抗期は清本プロにもありましたか。

清本 どうなのかな?

 今でも反抗期ですよ。

清本 それは、(キャディを務める時に)一方的に番手を押しつけるからでしょ!

 僕は(娘から)「二度とキャディをやらないでくれ」と言われているんです(苦笑)。昨年のプロテスト前までは、キャディとして一緒にラウンドすることが多かったんです。よかれと思って、彼女にアイアンの番手を指示するんです。

そこで衝突することが多かった。

 いろんな方にアドバイスを求めると、クラブの番手は打つ本人に決めさせるべきと言われるんですが、彼女はまだ18歳ですから、つい僕のほうが口にしてしまう。

清本 クラブを指示されて、私の考えと違っていると、たとえそれが適した番手だったとしても、モヤモヤしながら打つことになるんです。一番ぶつかったのは、去年の日本女子アマ(地区予選)の時でした。

 あるホールで、私は9番アイアンで打ちたかった。でも、父は「絶対に8番だ」と。

言われるがまま8番で打ったら、ピンをオーバーしてノーチャンスのところにつけてしまって。

 すると、父は「おまえにとっては上出来のショットだった。頑張ってパーをとってきて」と。それで「はあ?」ってなって(笑)。

 オーバーしていたことで、自分が間違っていたのかなとは思ったんですけど、僕も引くに引けないじゃないですか。だから「パーをとってこい」と言ったら、ブチきれられました。

清本 パーパットの前には、父はもう次のホールに向かっていたんですよ。そこまで順調だったのに、急に空気が悪くなってしまって。結局、大会の結果は......予選落ちでした。

 まだまだ18歳なんだから、失敗から学べばいいんだよ。

――親子二人三脚、いやふたりの弟も含めると四人五脚でゴルフに励んできました。ゴルフをやめたいと思ったことはありますか。

清本 一度だけ、ありますね。それは......。

 昨春の全国高等学校ゴルフ選手権の時。ちょうど広告代理店の方が美波のゴルフを見てみたいということで、駆けつけてくださるという大会でした。冬場にトレーニングを行なって、その成果を発揮する大会だったんですが、大会を前にゴルフの調子はイマイチだったんです。

 すると、大会当日、会場に着いたらどうも様子がおかしい。ティーグラウンドに立つと震えているようだった。

清本 なんだか、視界がメッチャ広がっているというか、ふだん、気にしないことまで気になっちゃうというか。「これはやばい」と思いました。

 スタートしたら、ショットがもうバラバラで。暫定球を5回打つわ、(アドレスができず)左打ちも3回した。アウトは「45」を叩いて、トータルでも「83」(113位タイ)でした。

 テクニックがどうのこうのという状況ではなかった。

――いわゆる「イップス」のような状態だったのでしょうか。

清本 いえ、イップスまではいっていないと思いますが、ティーグラウンドで手が震えちゃうんです。そして、風の音や、ギャラリー、カートの動きを異常に気にしちゃう。

 そうしたら、ホールアウト後、「練習しろ」と父は言うんです。ドライバーを「1000球打て」と。

 とにかく球を打ってなんとかするしかないと思ったんです。専門家に聞けば、画期的なアドバイスをもらえたのかもしれないですけど、体に思い出させるしかないと思って、しこたま球を打った。

 それで、練習場ではしっかりした球が打てるんです。広告代理店の方もいらしているので、予選通過はできなくとも、とりあえず2日目を頑張ろうと伝えたんです。

 ところが、本人は「イヤだ」と。話し合った結果、2日目を棄権することにしました。体調不良以外で、大会を棄権したのは初めてでした。大叩きした翌日に棄権したら、周囲の人は「逃げた」と思いますよね。だから、棄権するにしても、友だちを応援しようと彼女には伝えました。

 会場で「どうして棄権したの?」と訊かれることがあれば、自分の状況を正直に答える。それが、克服する唯一の道かなと思いました。ライバルが戦っている姿を見れば、自分を見つめ直す機会になるだろうと。

清本 それで、なんとかなったかと思いきや、次の大会となったプロの大会の練習ラウンドで、再び同じような症状に陥ってしまって。結局、(その大会の)マンデートーナメントも棄権しました。

――そうした"トンネル"から抜け出すきっかけはあったのでしょうか。

清本 エナジードリンクを飲むのをやめたら、震えなくなりました。そして、4月の(プロツアー)フジサンケイレディスクラシックに出場したら、問題なくプレーできたんです。

 川奈の打ちおろしの1番ホール、私的には苦手なロケーションなんですけど、ドライバーを短く握った"インチキ"ショットがフェアウェーにいってくれたことで、落ちつけた気がします。

――些細なことがきっかけで、ゴルフの中身がガラッと変わることもあるんですね。

清本 ほんとにそうですね。

 スタート前、神谷そらプロのお母さんにお会いして、(清本について)「調子悪いみたいだけど、大丈夫?」と言われるぐらいの状態でしたからね。

 それでその時、「たぶん大丈夫です。そらちゃんの調子はどうですか?」と訊ねると、「うちはぜんぜんです」と。そうしたらその大会で、そらちゃんは優勝しました(笑)。

――しかし、どん底のわずか半年後に、プロテストでトップ合格とは......。

清本 実力はみんな、同じだと思っていて。合格ラインの20位以内に入る人と、入れない人の違いは、「絶対にプロになる」という強い気持ちと自信を持てるかどうかだと思っていました。初日に首位で終えられたことで、トップ合格ができるんじゃないかと、内心では思っていました。

(つづく)◆女子ゴルフ界の新星・清本美波の素顔 理想の男性のタイプは?>>

「これはやばい」清本美波がゴルフをやめようと思った瞬間 「ティーグランドで手が震え、風の音やカートの動きを異常に気にしちゃう」
photo by Fujioka Masaki
清本美波(きよもと・みなみ)
2005年8月29日生まれ。愛知県出身。2023年プロテストでトップ合格。日本女子ゴルフ界の新たなヒロイン候補として注目されている。身長153cm。血液型B。