今中慎二が分析する2024年の中日

投手陣について 前編

 2年連続リーグ最下位からの巻き返しをはかる中日。春季キャンプでは、1993年に沢村賞を受賞するなど、かつて中日のエースとして活躍した今中慎二氏を臨時投手コーチとして招聘し、ピッチャー陣の強化を図った。

 一軍投手コーチを務めた2013年以来、11年ぶりに古巣のピッチャー陣を指導した今中氏に、キャンプで選手たちに伝えたことなどを聞いた。

今中慎二が中日の臨時投手コーチとして伝えた「四球の多さ」「体...の画像はこちら >>

【フォアボールを少なくするために意識すべき「ゾーン」】

――春季キャンプに臨時投手コーチとして参加してみて、チームの雰囲気はいかがでしたか?

今中慎二(以下:今中) 周囲が言うほど暗くはないし、選手同士はうまくやっていました。声もよく出ていて、活気がありましたね。

――今中さんは以前、中日ピッチャー陣全体の課題を「球威のあるピッチャーが多いにもかかわらず、ストライクゾーンの際どいところばかり攻めていてカウントを悪くし、自分で自分を苦しめている」と話していました。その点は伝えたんですか?

今中 それは言いました。立浪和義監督も「チーム防御率がいい割に、フォアボールが多くてもったいない」と話していたので。それを聞いての対応はそれぞれでいいんです。

甘いコースで勝負して打ち取ることで自信をつけてもいいですし、やはりゾーンで勝負すると決めてもいい。

 ただ、今の野球であれば、ゾーンは低めではなく高めでいいんじゃないかと。昔は「とにかく低めに」という感じでしたが、近年は高いゾーンで勝負するピッチャーが増えてきていますし、実際に、それで抑えている確率も以前より高いです。なので、強いボールを投げられるピッチャーは、ある程度高めで勝負してもいい、という話はしました。

――アッパー気味にスイングするバッターが増えていることも関係していますか?

今中 そうですね。大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)もそうですが、数年前にメジャーから始まった流れに影響を受けたバッターも多いでしょうから。

もちろん、高めでも打たれることはあるのですが、高めの真っすぐに関しては抑えられる場面が多くなってきています。ただ、変化球は低めじゃないとダメですけどね。

 甘いストライクゾーンに真っ直ぐを投げることで、少しずつフォアボールのことが頭の中から消えていきます。際どいところを狙ってボールカウントが増えていくよりも、甘いところでファウルにさせたり、1球でフライアウトをとったりしていこう、とも伝えました。

――オープン戦で、今中さんのアドバイスが活かされている印象はありますか?

今中 どうでしょうね......。すぐに成果が表われるわけではないでしょうし、シーズンを通して投げている中で、「そういえばあの時、ああいうことを言われたな」と思い出して実践してくれればいいかなと。

いい結果が出ることもあるだろうし、逆の結果が出るのかもしれない。いずれにせよ、いかに自信を持って投げられるかが大事。「ボールを真ん中に投げても打ち取れる」という自信がつけば、バッターもかなり高い確率で打ち損じをしたりすると思います。

【体が早く開かないようにするための「脚のステップ」】

――間近で見て「いい」と思ったピッチャーはいますか?

今中 まずは全体的に、強いボールを投げるピッチャーが多いです。強いボールというのは「球速」じゃなくて「球威」。140km台前半~中盤でも強いボールを投げるピッチャーが多かったですね。

球速以上に速く感じたのは、藤嶋健人でしょうか。彼の真っすぐは空振りが取れて、高めに投げても打ち取れます。

――初速と終速の差があまりない?

今中 それもあるかもしれませんが、藤嶋は手の出どころが見にくいんです。腕のテイクバックが小さくて出どころが見にくいのでバッターはタイミングが取りづらいんでしょう。それはピッチャーにとって大事な部分で、球威があっても手が見やすいと、今のバッターはそう簡単には抑えられません。その逆で、球威が少し落ちても、手の出どころが見にくいと意外と打ち取れるものなんです。

 ただ、髙橋宏斗や仲地礼亜など、手の出どころが見やすいピッチャーが多いな、とも感じました。球速だけなら150km超えのボールを投げるピッチャーは多いのですが、バッターからすると打つのはそこまで難しくないはず。体の開きも早くなりがちで、ボールがシュート回転してしまいます。我慢しないといけないんですが、「開くな」と言われても開きやすくなってしまうのはよく理解できます。僕も経験していますから(笑)。

――体が早く開かないようにするための対策などはあるんですか?

今中 ピッチャー陣に伝えたのは、踏み出す足の使い方です(右投手であれば左足)。

踏み出した足を地面につける際、親指のほうからつけることで体の開きを遅らせることができます。また、着地させた足の踏ん張りがきくので、体の軸が安定して横に流れることもありません。ただ、髙橋も仲地もそうですが、つま先全体を地面につけるピッチャーが多い。その場合は踏ん張りがきかなくなるので、体が早く開いてしまうんです。

 手の位置は横だろうが上だろうが、どこでもいいんです。でも、足が踏ん張れないと体の開きが早くなって手が見やすい。手の位置ばかりを気にせず、足を意識すれば自然と手の出どころが見えにくくなるよ、と伝えました。

――そういう傾向があるピッチャーに対して指摘したんですか?

今中 気になったピッチャー全員に話しました。(ウンベルト・)メヒアはブルペンで投げるボールはいいけど、バッターが立つと打たれていましたが、やはり体の開きが早かった。150km以上のボールでも空振りが取れず、打ち返されてしまうのは手が見やすいからだという話をしました。(マイケル・)フェリスもそうです。

(ライデル・)マルティネスは別で、彼の場合はキャッチボールや立ち投げを見ただけでも、打たれない理由がわかりました。そりゃあ160km前後のボールを投げて、手の出どころが見にくかったら打たれないよなと。そういう要素が揃っているから、常に無双状態のピッチングができるんでしょうね。

(後編:中日の命運を握る先発投手の課題 ドラ5右腕、左のリリーフ候補に注目>>)

【プロフィール】

◆今中慎二(いまなか・しんじ)

1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。