昨年のドラフトでの巨人の指名は興味深かった。

1位 西舘勇陽(中央大/投手/右投右打)
2位 森田駿哉(Honda鈴鹿/投手/左投左打)
3位 佐々木俊輔(日立製作所/外野手/右投左打)
4位 泉口友汰(NTT西日本/内野手/右投左打)
5位 又木鉄平(日本生命/投手/左投左打)

 日本ハムとの競合の末に1位で西舘を引き当てると、2位以降は社会人野球界の精鋭たちがズラリと並んだ。

驚きと同時に、巨人の"覚悟"を感じたものだ。

なぜドラフト3位?「度会隆輝と双璧だった」 社会人屈指の実力...の画像はこちら >>

【巨人ドラフトに見た覚悟】

 言うまでもなく、巨人は伝統チームであり、人気チームであり、"常勝"を義務づけられたチームである。それだけにペナントレースの勝敗はもちろんのこと、将来のチームづくりに関わってくる「ドラフト会議」について、ファンの関心は想像以上に大きいものとなる。

 だから......と、あえて言ってしまおう。だから、例年の巨人のドラフトは、即戦力らしき者と、豊かな将来性を持った者をバランスよく指名して、ファンからなるべく"文句"を言われないように、偏りのない指名をずっと続けてきた。

 それが昨年のドラフトでは、1位が大学生で、あとは社会人4人......。そのあとに弁解がましく高校生を指名することもなく、22歳以上の選手を5人指名すると、潔くサッときり上げたから、思わず唸ってしまった。

まさに"英断"だと思った。

 チームの苦しい実情は、ファンや世間に対する"忖度"などしている場合じゃないということを示していた。3年連続優勝を逃し、それどころかここ2年はBクラス(4位)が続いていた。

 2024年こそは勝たなければならない、何がなんでも勝たなければならない。ならば、なりふり構わず、即戦力らしき者を徹底的に獲得しよう、と。ドラフトとは、本来こうあるべきだろう。

指名によって、チームの実情と進むべき方向が、わかりやすくファンに伝わる。それこそドラフトのもうひとつの側面である。

 事実、西舘はすでにジャイアンツ投手陣の中継ぎのひとりとして活躍し、佐々木は激しい外野サバイバルを、オープン戦の打率.400という驚異的な成績を残してライトの定位置を獲得すれば、泉口も複数のポジションをこなせるユーティリティプレーヤーとして重宝されている。

中村晃を思わせる打撃センス】

 なかでも、開幕から存在感を示したのが佐々木である。ここまで(4月23日現在)19試合に出場して、打率.236とオープン戦の勢いこそなくなったが、打線のつなぎ役として犠打、進塁打を決めながら、ジャイアンツ打線の貴重なワンピースとして貢献している。

 1月の新人合同自主トレのスタートから、2月のキャンプ、3月のオープン戦、そして開幕と、ここまで休むことなくプレーを続けている"心身の強さ"こそ、佐々木の大きなアドバンテージになっていることは間違いない。帝京高での3年間、東洋大での4年間、いずれも練習の厳しさでは有名な"名門"で、ずっと試合に出続けてきたという事実も、その心身の強靭さを裏づけている。

 昨年のドラフトで、精鋭揃いの社会人球界から指名された外野手は、佐々木と、ENEOSの度会隆輝(DeNA1位)だけ。

 ならば、どれほど優秀な外野手だったのか。

 帝京高時代から、レフト前、センター前のシングルヒットならいつでもOK......そんなバッティング技術を持っていた。

 印象的だったのは、左投手が相手でも右肩が開かないこと。ボールをギリギリまで呼び込んで、スパッと一瞬でとらえることができたのは、スイングスピードに自信があるからだ。ボールを長く見られるから、ミート能力も高かった。

帝京高の偉大な先輩である中村晃(ソフトバンク)を思わせる打撃センスを感じたものだ。

 東洋大に進学しても、やはり1年時からベンチ入り。この頃からシートノックでの佐々木の動きが楽しみになった。ライトポールあたりからでも、三塁送球はワンバウンドのストライクスロー。ライト定位置からのバックホームは、定規で線を引いたような猛烈なレーザービーム。

 社会人でセンターを守っていた際も、定位置よりかなり後方のフライでタッチアップしようとした二塁走者が、あまりに勢いのある三塁送球に驚いて、帰塁した場面を目撃している。

プロ野球は左打ちの外野手は飽和状態】

 ではなぜ、これほどの実力者を巨人以外のチームは放っておいたのか。

 実は、今年3月のセンバツ大会時に、甲子園であるスカウトとそんな話になった。ちょうど佐々木がオープン戦で打ちまくっていた頃だ。

「『左打ちの外野手を獲ってこい!』なんて、誰からも言われませんから」

 要するに、左打ちの外野手というのは、今のプロ野球で一番人材に困っていない役回りなのだ。それでも指名されたというのは、よほどの技量を持った選手であるということだ。

「敵に回して、あんなに嫌な選手もいなかった。

そういう意味では、度会と双璧でしたね」

 社会人で何度か対戦したチームの監督は、佐々木の指名にホッとしたという。

「打っても、守っても、走っても、ものすごい勢いを持った選手。最初の打席で打たれると、固め打ちするから、[51]始末に悪い。球際に強いし、四死球で塁に出すとすぐ走ってくるし......・ほんと乗ってくると止められない、怖い選手でした」

 オープン戦からシーズン序盤にかけて、飛ぶ鳥を落とす勢いだった度会も、持ち味のバッティングに迷いが生じているように見える。同様に佐々木も、レギュラー定着となる決め手の打撃がほしいところだ。

 打てない時にモノを言うのが、守備力と走塁力である。佐々木の場合、スローイングは、チームはおろか、リーグ屈指の能力を持っている。チームにとって、必要な人材であるのは間違いない。

 持っているスキルのレベルアップを図り、やがてはホームランもタイムリーも打てるリードオフマンに......そんな未来予想図が描ける。