山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)は現在、3月21日のメジャーデビューから5月20日までの2カ月間で10試合の先発マウンドに上がり、54.0イニングを投げ、奪三振率10.17と与四球率1.83、防御率3.17を記録している。

 昨オフにオリックス・バファローズから移籍した際、山本がドジャースと交わした12年3億2500万ドル(約465億円)の契約はメジャー歴代9位タイに位置する。

同年ドジャースに入団した大谷翔平の10年7億ドル(約1015億円/繰り延べ払いあり)を除くと、山本の総額は歴代の投手のなかで最も高い。

山本由伸はオリックス時代の調子に戻ってきた メジャーデビュー...の画像はこちら >>
 一方、横浜DeNAベイスターズからシカゴ・カブスへ移った今永昇太は、4年5300万ドル(約77億円)の契約を得た。山本と今永の契約は総額だけでなく、年平均額にも大きな差がある。山本の年平均2708万3333ドル(約38億6000万円)に対し、今永の年平均はその半額未満の1325万ドル(約19億3000万円)だ。

 今永は4月1日から5月18日までの9登板で53.2イニングを投げ、奪三振率9.73と与四球率1.51、防御率0.84を記録し、球史に残る快投を続けている。ただ、ここまでの山本も決して期待外れではない。

 ナ・リーグの新人王レースにおいて、山本はジャレッド・ジョーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)やジョーイ・オルティス(ミルウォーキー・ブルワーズ)らとともに、今永に次ぐ2番手集団を形成している、と見ていいだろう。ジョーンズは10登板の59.0イニングで、奪三振率10.37と与四球率1.53、防御率3.05。オルティスは43試合で、打率.278と出塁率.382、5本塁打、OPS.886を記録している。

 なお、新人王の有力候補と目されていたイ・ジョンフ(李政厚/サンフランシスコ・ジャイアンツ)は、5月12日の守備で外野フェンスに衝突し、左肩を痛めて今シーズンを終えた。

【デビュー以降は長打を複数打たれていない】

 山本の防御率は、デビュー登板の1イニング5失点を除くと、53.0イニングで2.38となる。9登板とも、少なくとも5イニングを投げ、大崩れはしていない。半数近い4登板は自責点ゼロ。

あとは自責点2と自責点3が2登板ずつと、自責点4が1登板だ。

 オリックス時代と比較すると、今シーズンは長打を多く打たれている。過去3シーズンの被本塁打は、7本、6本、2本。今シーズンの被本塁打は、すでに6本を数える。ホームラン以外の長打──二塁打と三塁打の合計も、過去3シーズンの20本、27本、18本に対し、今シーズンはここまで14本だ。

 日本プロ野球とメジャーリーグの打者のパワーの違いを考慮すると、これはやむを得ないことかもしれない。

むしろ、長打を打たれることがあっても、傷口を広げていない点に注目すべきではないだろうか。デビュー登板は1イニングに2本の長打──三塁打と二塁打を喫したが、その後、複数の長打を打たれたイニングはない。1イニングに1本か0本ということだ。

 各登板のイニングは、増加傾向にある。3月30日~4月12日の3登板は5イニングずつだったが、4月19日以降は6登板中5登板が6イニング以上で、5月13日も6イニングまであと1アウトのところまで投げた。

 そして、5月20日の投球数は100。

初めて三ケタに達している。3月30日以降の9登板を3登板ごとに区切ると、それぞれのスパンの平均イニングは、5イニング→6イニング→6.2イニングとなる。

 これらのデータをもとに考えると、山本の投球はメジャーリーグでもすでにオリックス時代に近い水準に達している、と言っても過言ではない。そしてこれから、さらに向上してもおかしくない。

 ちなみに昨シーズン、千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)は最初の10登板が55.0イニングで、奪三振11.45と与四球率5.07、防御率3.44だった。一方、シーズン全体では29登板の166.1イニングで、奪三振率10.93と与四球率4.17、防御率2.98を記録。

シーズンを3つのスパンに分けると、11登板目~20登板目の55.2イニングが防御率3.07、21登板目以降の55.2イニングは防御率2.43だ。

【山本は今後、誰とバッテリーを組むべきか】

 ここまでの山本は、正捕手のウィル・スミスよりも、控え捕手のオースティン・バーンズとバッテリーを組んだ時のほうが好成績を収めている。スミスとの7登板は、37.0イニングで被打率.238と防御率4.62。5失点した初登板を除いても防御率は3.50だ。一方、バーンズとの3登板は、17.0イニングで被打率.191と防御率0.00。自責点だけでなく、失点もない。

 サンプル数はまだ少ないものの、スタットキャストによると、ほかの投手と組んだ試合も含め、フレーミングやブロッキングはスミスよりもバーンズが優れている。山本はバーンズとバッテリーを組んだほうが好成績を残せるかもしれない。

 けれども、そうすべきだとは思わない。

 スミスは44試合で打率.301と出塁率.372、5本塁打、OPS.844を記録している。一方でバーンズは15試合で打率.189と出塁率.318、0本塁打、OPS.534だ。この違いは今シーズンだけではない。しかも今シーズンのスミスの出塁率は、ムーキー・ベッツ、大谷、フレディ・フリーマンの3人に次いで高く、OPSは大谷とベッツに次ぐ。大谷の欠場時にスミスはDHも務めている。

 ドジャースは現在ナ・リーグ西地区の首位に立ち、ほかの4チームを引き離している。まさかの事態が起きないかぎり、過去11シーズンと同じくポストシーズンに進出するはずだ。

 よってここからのレギュラーシーズンは、山本とスミスが息の合ったバッテリーとなるための期間にあてることができる。試行錯誤があっても構わない。それがうまくいけば、1勝の重みが増すポストシーズンの試合において、山本が登板する時に打てるスミスをラインナップから外し、打てないバーンズを起用する必要はなくなる。

 また、今秋のポストシーズンのみならず、その先のこともある。バーンズは34歳。今シーズンは2年700万ドルの契約2年目で、来シーズンは年俸350万ドルの球団オプションだ。スミスは29歳。今シーズンの開幕直後に10年1億4000万ドルの延長契約を交わした。

 バーンズは早ければ今オフにドジャースからいなくなるが、スミスは違う。近い将来、山本がバーンズに代わる控え捕手と新たにバッテリーを組むよりも、今シーズン中に山本とスミスが良好な関係を築くほうが、長期的にも望ましい。

 山本とスミスが球界屈指のバッテリーとなれば、ドジャースは今秋のワールドシリーズ優勝にとどまらず、そこからの黄金時代に向け、大きな一歩を踏み出すことができる。