3日後にACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)の試合を控えるヴィッセル神戸が飛車角抜きのベストメンバーでなかったことを差し引いても、サンフレッチェ広島の強さばかりが際立つ一戦だった。神戸に一歩及ばず昨季リーグ2位に終わった広島が、国立競技場で行なわれた"最後"のスーパーカップで2-0と快勝を収め、新シーズンの躍進を予感させた。

 試合は立ち上がりから広島が相手を押し込むと、12分に右からの中野就斗のクロスをトルガイ・アルスランが頭で合わせて幸先よく先制に成功。70分にはCKから荒木隼人が豪快なヘディングシュートを叩き込み、危なげなく勝ちきった。

「中島洋太朗はすぐに海外に行くんじゃないか」 サンフレッチェ...の画像はこちら >>
 得点を決めたふたりはもちろん、守護神の大迫敬介、最終ラインを支える佐々木翔、塩谷司ら、ミヒャエル・スキッベ監督のスタイルを熟知する既存の戦力が求められるタスクを遂行したのは、ある意味で当然のこと。驚きを与えたのは、今季加入した新戦力だ。違和感なくチームに溶け込み、持てる力を十分に発揮した。

「プレシーズンでふたつの長いキャンプをやってきて、一緒に過ごせる時間が長くあったことがよかった。新しい選手たちがすぐに馴染んでくれましたし、チームも受け入れることができたと思う。これからもいい形で馴染んでいってくれると思っています」

 4年目を迎えるドイツ人指揮官は満足げな表情で、新戦力のパフォーマンスを称えた。

 今季の広島は、昨季にブレイクしたボランチの松本泰志が浦和レッズに移籍し、ピエロス・ソティリウ、ドウグラス・ヴィエイラ、ゴンサロ・パシエンシア、エゼキエウと4人の助っ人がチームを去った。また、引退した青山敏弘と契約満了となった柏好文(→ヴァンフォーレ甲府)のふたりのベテランも不在となった。

 一方で、少数精鋭の即効性の高い補強を実現している。FWジャーメイン良(←ジュビロ磐田)、MF田中聡(←湘南ベルマーレ)、MF菅大輝(←北海道コンサドーレ札幌)、MF井上潮音(←横浜FC)の4人は、いずれも前所属先で主軸を担っていた選手たちだ。

【少数精鋭の新加入組が個性をアピール】

 神戸とのスーパーカップでは、ジャーメインと田中がスタメン出場し、菅は途中からピッチに立ち、井上はベンチに入りながら出番は訪れなかったが、出場した3人はそれぞれが持ち味を発揮したと言えるだろう。

 1トップとしてフル出場したジャーメインは出足鋭いハイプレスで神戸のフィードの精度を狂わせ、攻撃では高さと強さを生かしたポストワークで起点となった。昨季、日本人トップタイの19ゴールを記録した得点力を示すことはできなかったものの、「今年は20点取るつもりで来ている。自分が求められていることをやりながら、優勝するために20点取りたい」と、新天地での活躍を誓った。

 ボランチに入った田中は、持ち前の運動量とボール奪取力を武器に、所狭しとピッチを駆け回った。

「個人的にはあまりよくなかった」と反省の弁を述べたが、球際の激しさや冷静なボールコントロールに能力の高さを垣間見せた。

「広島で優勝して活躍することによって、また海外(2022年~2023年=コルトレイク/ベルギー)にも行きたいと思っています。今日のパフォーマンスでは広島でも試合に出られないと思っているので、まずはしっかり試合に絡んで、どんどんパフォーマンスを上げていきたい」

 才能あふれる22歳もまた、広島をさらなる高みに導くカギを握っている。

 途中出場の菅は交代直後にCKを荒木の頭に合わせて、あいさつ代わりのアシストを記録した。強烈な左足を持つサイドアタッカーは「ファーストプレーがああいう形でアシストにつながったので、そのあとはなんとかやりきれましたけど、修正するところもあった。これから広島の選手としてやっていくうえで必要なところだと思うので、しっかり上位チームの選手としてふさわしい選手になれればと思います」と、さらなる成長を約束している。

 またこの試合では、期待の大卒ルーキーもデビューを果たした。明治大から加入したFW中村草太である。

関東大学リーグで2年連続得点王とアシスト王に輝いた逸材は、途中からピッチに立つとライン裏に飛び出してゴールに迫るシーンもあった。目立ったプレーは見せられなかったものの、そのポテンシャルを考えれば、彼もまた間違いなく大きな戦力だ。

【アジアを代表する選手になる】

 もっとも、彼ら以上のインパクトを放ったのは、驚異の18歳だった。ボランチとしてフル出場したMF中島洋太朗である。

 元プロサッカー選手(中島浩司氏)を父に持つサラブレッドは、すでに昨季にプロ契約を結び、2種登録選手としてデビューを果たしている。しかし、実質プロ1年目となる今季は単なるルーキーではなく、主力としての働きさえ期待されているのだ。

 国立での大舞台でも中島は冷静だった。余裕をもってボールをさばき、隙を見出せばくさびを突き刺し、決定機につながるスルーパスを供給。プレスバックしてボールを奪い返すなどたくましさも備わりつつあり、攻守両面で絶大な存在感を放っていた。

 そのプレーを近くで見守るトルガイは、賛辞を惜しまなかった。

「洋太朗に関しては、一挙手一投足をしっかりと目に焼きつけていただきたいなと思います。あまり長い間、Jリーグではやらないんじゃないか、すぐに海外に行くんじゃないかなと思っているので。

 ほかの選手とは比べものにならないぐらいすばらしい才能の持ち主で、『ネクスト・ソニー』じゃないけど、ソン・フンミンのようなアジアを代表する選手になるんじゃないかなと個人的には思っています」

 本場を知るドイツ人アタッカーも舌を巻く発展途上の才能が、今季の広島の最大の強みとなるかもしれない。

 戦力の上積みに成功し、バージョンアップに成功した広島は、現時点でふたりしかいない外国籍選手の獲得も含め、余力も残している。完成度の高さを見せつけて王者を一蹴した広島が、今季のJリーグの主役となる可能性は十分だ。

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