角田裕毅のレッドブル昇格からたったの1カ月しか経っていないことに誰も気づかないほど、世界は変わった。

 角田がRB21をドライブし、F1のトップチームで頂点に向けて戦いを挑むことが当たり前の世界になった。

 急遽決まった昇格から十分な準備もできないまま突入した怒濤の3連戦を終え、イギリスに戻った角田はTPC(旧型車テスト)やファクトリーでの作業でさらなる進歩を遂げて、第6戦マイアミGPへとやってきた。

【F1】角田裕毅のレッドブルでの第2章 マイアミGPは限界ま...の画像はこちら >>
 ただ、2023年に23戦22勝を挙げたチャンピオンマシンRB19をドライブして多くを学ぶはずだったTPCは、天候とトラブルのせいで消化不良に終わってしまったことも事実だ。

「今年からレギュラードライバーはテストできる距離が制限されてしまったので(レギュラードライバーは計1000kmまで)、もともとウェットタイヤにそのマイレージを費やしたくなかったため、ウェットタイヤはまったく用意していなかったんです。

 朝は路面が少し濡れている状態だったので、それが乾くまで待っていたんですけど、ようやく乾いたと思って走り始めたら少しトラブルが起きてしまって、全然走れてないです。20周も走れていない。天候はコントロールできないので、しょうがないですけどね。そのなかでもやれることはやれました」

 RB19のことを学んだり、今季型のRB21との比較を行なうことよりも、レッドブルのマシン習熟を進めるためにさまざまなセットアップ変更を行ない、それに対するマシンの反応を確かめることが今回のTPCの目的だった。しかし、それはほとんどできなかったという。

 それでも、風洞やシミュレーションと実走の誤差に苦しんでいるRB21の問題点を理解するための作業はしっかりとできた。それに加えて、シミュレーターでもマイアミGPに向けた準備作業をしっかりとこなせた。

 これがマイアミGPの週末に向けたプラス要素になればと、角田は期待している。

【今のF1マシンを速く走らせるカギ】

「いろいろとセットアップ変更をやりたかったんですけど、すべてはやりきれませんでした。どちらかというと、僕のマシン習熟よりもエンジニア側のやりたかったことを優先して進めた感じです。

 だから正直に言うと、セットアップについてはあまりできなかったと言うべきかもしれません。だけど、ここまでは(レース週末のなかで)あれこれ試して一貫性が持てなかったので、今週末はもう少し自信を持って臨めればいいかなと思います」

 過去3戦のレッドブルはさまざまなセットアップの方向性を模索し、レース週末のセッションごとに空力パッケージやセットアップを変えるような状況だったからだ。

 レース週末を通して同じ状態のマシンで走行できなかったことも、角田のマシン習熟の妨げになっていたことは事実。しかし、今週末はイニシャルセットアップ(初期設定)が大きく外れていなければ、週末全体を通して一貫したマシンでRB21の理解をさらに深める作業に専念できるはずだ。

 マイアミGPはスプリント週末であり、フリー走行が1回しかない。しかし金曜のスプリント予選と土曜の予選、マシンを限界近くまでプッシュすることができるチャンスが2回ある。それは今の角田にとって、プラス要素かもしれない。

 限界付近でのマシン挙動をいかに把握し、限界を超えないギリギリのレベルまで攻められるかどうかが、今のF1マシンを速く走らせるキーポイントだ。なぜなら、限界を超えてしまえば挙動は大きく乱れ、0.2秒や0.3秒は簡単に失ってしまい、超僅差の今のフィールドでは大きなポジション後退につながってしまうからだ。

「このマシンがものすごく難しいとは思いませんけど、予選では常に新しい特性に遭遇して、それに対応しきれないこともある。たとえば、マシンが限界より2パーセントでも超えてしまえば、まったく違う反応になるわけです。

 それがまだ僕には予測できていないので、Q3で本来のパフォーマンスを引き出しきれていません。

そこは経験を積んでいくことでしか身につけられない。マシンの限界を見極めるのには、もう少し時間がかかるかなと思います。

 予選で上位に行ければ、ポイント獲得のチャンスも大きくなります。戦略面でもっといろいろとやれるようになるので、間違いなく予選の改善が最優先事項です」

【マイアミは厳しいコンディション】

 マイアミGPの舞台「マイアミ・インターナショナル・オートドローム」は、NFLマイアミ・ドルフィンズの本拠地ハードロック・スタジアムの敷地内に作られた特設サーキットである。3本の長いストレートを低速コーナーでつないだレイアウトだ。

 実質11のコーナーのうち、7つが時速100km/h以下の低速コーナー。レッドブルが大苦戦を強いられたバーレーンのサーキットと似た「ストップ&ゴー」の特性だ。ただし、バーレーンのような直線的なハードブレーキングは少ないため、これがどう影響するかだ。

 気温は30度近く、海が近いこともあって湿度も高い。ドライバーにとっても、マシンにとっても厳しいコンディションだ。そして日曜には、雷雨の予報もある。

 角田はレーシングブルズ時代と同じく、事前の予想は立てることなく自分たちのやるべきことに専念する、というスタンスで今週末に臨むという。

「特に考えていません。ただ素直に走って、結果を出していくだけですね。スプリントだからといってアプローチを変えることはありませんし、どちらのレースでも絶対にポイントを獲りたい。そこが一番のターゲットですね。

 もちろん、予選ではQ3に行きたいです。過去2戦のQ1・Q2では、ビルドアップできてもQ3でまとめきれていない部分が大きかったので、今回はQ3でアタックラップをまとめきれればと思います」

 まずは予選でいかにマシンの限界に近づけるか。限界を探り、限界を超えることなく、限界に近いところまで行く──。そういう戦いが、今の角田には求められる。

 限界を把握して限界ギリギリを削り取るマックス・フェルスタッペンとは、まだ同じステージで戦えるわけではない。そのことも、角田自身はよくわかっている。

 地に足を着けたスタンスで、角田はしっかりと一歩ずつ前へと進んでいくはずだ。

編集部おすすめ