西山秀二インタビュー(前編)
今季、ソフトバンクから巨人に移籍した甲斐拓也。パ・リーグ優勝チームからセ・リーグ優勝チームへの移籍ということで、相当なプレッシャーもあっただろうが、ここまでは攻守で存在感を放っている。
【打っている捕手は外されない】
── 巨人の捕手はリード面など注目を集め、プレッシャーも大きいと思います。西山さんも広島から巨人へ移籍されましたが、どうでしたか。
西山 私は「巨人の捕手だから」という特別な意識はなかったですね。ただ、甲斐の場合はFAでソフトバンクを離れ、5年総額15億円とも言われる大型契約で移籍したわけで、注目度やプレッシャーは相当あったと思います。過去にも巨人にFA移籍して活躍できなかった例はありますから。活躍しないと、「ほら見たことか」と言われることへのプレッシャーもあったと思います。
── 甲斐選手はソフトバンク時代、打順はおもに8番で打率2割そこそこのシーズンが多かった印象です。
西山 でも今季は、2番、5番、6番と上位で起用されて、結果も出している。いい緊張感のなかでプレーできているんでしょうね。私も移籍1年目はそうでしたし、まだ相手チームは「打者・甲斐」の弱点をつかみきれていない面もあると思います。
── 巨人には甲斐選手をはじめ、大城卓三選手、小林誠司選手と日本代表経験のある捕手が3人いて、さらに岸田行倫選手もいます。
西山 岸田は粘り強いリードと高い盗塁阻止率(昨季.475)で成長してきて、大城は3年連続2ケタ本塁打(2021~23年)という打撃力がある。また小林はかつて4年連続盗塁阻止率1位(16~19年)の実績があります。捕手が複数いるのは、チームにとって心強い。阿部監督は「競争して勝ち抜いた選手が出ればいい」という考えだと思います。そんななか、開幕から甲斐のバッティングの状態がよく、使わない理由がないですよね。
── 西山さんも1996年に打率.314の好成績を挙げられました。
西山 そうなんです。打っている捕手はやっぱり外されませんよ。5月10日の時点で、セ・リーグで規定打席に到達している捕手は甲斐だけです。これはうれしい誤算でしょうね。
── 山﨑伊織投手が開幕から36イニング連続無失点のセ・リーグ記録を更新し、井上温大投手は4月22日の中日戦で1試合14奪三振。甲斐選手のリード面での評価は?
西山 「甲斐のリードはどうなの?」ってよく聞かれますが、開幕してから1カ月くらいは変化球を多く使っている印象でした。
── サインに首を振る投手もいたようです。
西山 甲斐はゴールデングラブ7度、ベストナイン3度の実績があるとはいえ、巨人では1年目です。なかには、投げたいボールを主張する投手もいるでしょう。ただ、甲斐は打撃でも結果を出し、投手の信頼を得てきた。4月後半以降、先発ローテーション3巡目あたりからはストレートの割合が増えました。
── それはストレートで押す"パ・リーグ的なリード"ということですか?
西山 いえ、ストレートで押すことで、変化球が生きるという王道的なリードにシフトしてきたということです。これから甲斐の真価が問われると思います。ただ、走塁阻止率は落ちてきているので、そこは今後の課題になるでしょう。
【捕手は相手に嫌われてナンボ】
── 昨年日本一のDeNAは今シーズン、山本祐大選手、戸柱恭孝選手、松尾汐恩選手がマスクを被っています。
西山 昨年、山本は攻守に飛躍しました。今季もその流れで起用されましたが、打てなくなると交代させれられています。
── 今季は松尾選手の起用が増えています。
西山 戸柱はベテランの抑え捕手。となると、打撃に期待の松尾を実戦で育てようという意図があるのでしょう。最近は150キロ超の速球に頼る捕手が増えましたが、松尾には「初球は変化球で様子を見る」など、リードのセオリーを学んでほしいですね。
── 広島はケガで出遅れていた坂倉将吾選手が復帰しましたが、西山さんのなかで気になる捕手はいますか?
西山 阪神の坂本誠志郎ですね。守備重視の坂本、攻撃重視の梅野隆太郎という使い分けがされています。
── 藤川球児監督は坂本捕手を高く評価しているようです。
西山 坂本は「献身的でやさしいタイプ」の捕手です。投手に好かれる捕手と言えるでしょう。でも、それだけではダメ。捕手は相手に嫌われるくらいの「いやらしさ」が必要なんです。
── 坂本選手はどんな点がやさしすぎると?
西山 たとえば4月30日の中日戦、阪神は左腕の門別啓人が先発しました。左打者が並ぶ相手に対し、1巡目は外中心の配球で2点を失いました。2巡目から内角を突いて立ち直りましたが、1巡目から内角を攻めて「いやらしさ」を植えつけるべきだったと思います。投手主導のリードも必要ですが、時には打者が嫌がる球を要求するもの捕手の仕事です。坂本は経験豊富ですが、まだまだ伸びしろは大きいと思いますので、これからが楽しみですね。
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西山秀二(にしやま・しゅうじ)/1967年7月7日、大阪府出身。上宮高から85年のドラフトで南海から4位指名を受け入団。プロ2年目の87年シーズン途中、トレードで広島に移籍。広島では94年、96年にベストナイン、ゴールデングラブ賞をそれぞれ獲得。リーグを代表する捕手として活躍。2004年オフに巨人に移籍し、05年の1年間プレーし現役を引退した。引退後は巨人、中日のコーチを歴任。