中畑清×篠塚和典 スペシャル対談(1)

今季の巨人について

 昨年はレギュラーシーズンを1位で終えながら、クライマックスシリーズで敗退と悔しい結果になった巨人。その雪辱と、日本一を狙う今季のチーム状況、ここまでの戦いぶりを球団OBはどう見ているのか。

芸術的なバットコントロールと守備で活躍した篠塚和典氏と、「絶好調男」などの愛称で親しまれた中畑清氏に語り合ってもらった。

【中畑清×篠塚和典】巨人・阿部監督の2年目を「評価していい」...の画像はこちら >>

【阿部監督がもたらした「緊張感」を高く評価】

――ここまでのチーム状態をどう見ていますか?

中畑清(以下:中畑) 状態のいい選手と悪い選手がはっきりしていますね。特にいいのは山﨑伊織。ここまで6試合を投げた時点で防御率0点台(5月18日時点の防御率は1.17 )と勢いがあるピッチャーがいてくれる反面、田中将大のように二軍で調整が必要な状態のピッチャーもいる。野手では坂本勇人が二軍で調整していたりしましたが、彼の場合は勤続疲労の側面が大きいような気がします。

 ただ、山﨑にしろ、井上温大にしろ、若手のピッチャーはどんどん伸びてきていますし、野手では好調が長続きはしないながらも、いろいろな選手が要所要所で仕事をこなしています。それでチーム状態を保っているような印象です。

篠塚和典(以下:篠塚) 開幕前に丸佳浩が離脱。坂本は状態が上がらず一軍と二軍を行き来していますし、戸郷翔征は調子が上がらずに一度、二軍に落とされました。なかなか選手が揃わないのですが、しっかり戦っていると思いますよ。若手では泉口友汰らが働いてくれていますし、選手層も厚くなっています。

――阿部慎之助監督の選手起用はいかがですか?

中畑 うまいですよ。それから妥協しない。

調子が悪い選手はきっぱりと二軍に落としていますし、選手の入れ替えをしてチームを活性化させています。緊張感を維持している、という言い方もできますね。

 それと、有言実行ですよね。自分の場合は、言うけどやらないタイプなんだけどね(笑)。監督が選手起用も含めてわかりやすい采配を振るってくれると、チームが迷わずにまとまっていくんです。それで結果もついてきているので、なおさら結束力は高まっていく。決断力もあるし、チームをいい方向へ導いている監督だなと思うよ。

篠塚 戸郷も二軍に落とされたことで緊張感が生まれたと思いますし、復調すれば、チームとして一段階レベルアップした戦い方ができるようになると思います。再び信頼を得られるようなピッチングをしていかないといけませんね。

中畑 あと、期待されている若手の浅野翔吾が伸び悩んでいたりもするけど、それを感じさせないよね。これはやっぱり、甘えを許さない監督の采配がチームの体質を改善しているからじゃないかな。ダラけた選手を許さないスタンスがいいなと。

 たとえば、エリエ・ヘルナンデスは昨年まではよかったけど、今年は少し怠慢プレーが多い。全力でプレーをしてないことが明確にわかる部分があったから、阿部監督はあっさり二軍に落としましたからね。なかなか、そういう選手起用って簡単にはできないんです。

篠塚 ピッチャーも無理な使い方をしていませんよね。ライデル・マルティネスにも絶対に3連投をさせませんし、長いシーズンを見据えた選手起用を徹底しています。

中畑 肝が据わっているし、そういう所作を感じさせる監督だよな。頼りになると評価していいんじゃない?

篠塚 そうですね。ここまでの戦いぶりについては評価していいと思います。

【新加入の甲斐は「期待に十分に応えている」】

――先ほど挙げた山﨑投手と井上投手は、何がよくなりましたか?

中畑 山﨑の課題はスタミナだけでしたが、ここまではそれをカバーできています。低めのコントロールもすばらしいし、投げるたびに成長していますよね。隙がなくなってきています。5試合無失点を継続したけど、それが(5月7日の阪神戦で)途切れましたからメンタルは少し心配です。緊張感が持続していい形になっていたのが、どう変化するのか。

 一方で、井上はまずメンタルがすばらしい。覚えているのは......昨年のソフトバンク戦(5月30日)だったかな。2番手で4回から登板して、7回までの4イニングをパーフェクトに抑えた。それから覚醒して、マウンドで自信のようなものを感じさせるようになったんです。それと、抜け球がない。球速は140キロ台後半ですが、それ以上の球威を感じます。このまま成長していけば、おそらく日本を代表するサウスポーになるんじゃないですか。

篠塚 菅野智之が抜け、戸郷が勝てないなかで、2人の成長は大きいですよね。それと、新加入の甲斐拓也の攻守にわたる活躍も大きいんじゃないですか。

中畑 甲斐には悪いけど、あれだけ打つとは思ってなかったよ。マン振りしてもいい打率を残しているし、逆方向にも打てる。打席に入った時にピッチャーが嫌がるような雰囲気を作れているよね。

今や、打線のほうでも主力。クリーンナップを打っていますしね。

 やっぱり阿部監督の目というのかな。このチームに一番必要なのはキャッチーだったんでしょう。キャッチャー出身の監督だけに、複数の選手を中途半端に使い分けるより、真のレギュラーといえるキャッチャーが欲しかったんだろうね。

篠塚 甲斐はその期待に十分に応えていますね。あと、門脇誠を二軍に降格させたことがありましたが、選手のほうも「打てなくなると落とされるんだ」とわかると、本人はもちろん、ほかの選手にもいい緊張感が生まれますよね。泉口がいい働きをしていますが、若手の間でもそういったチームの方針が浸透しているからこそ、後がない気持ちで取り組めているんでしょう。

 我々は試合をしている選手の姿しか見ていませんが、阿部監督はおそらく、練習から選手のいろいろな部分を見ているはず。あらゆる想定をしながら、しっかり準備して試合に臨んでいるからこそ、結果が出ているんだと思いますよ。

【若手が見習うべきキャベッジの姿勢】

――新加入のトレイ・キャベッジ選手のことは、ここまでどう見ていますか? 篠塚さんは、オープン戦の段階である程度評価されていましたが。

篠塚 よくやっていると思いますよ。

広角に強い打球が打てていますし、バッティング以外の面も含めて全力でプレーしている印象です。内野ゴロを打った後、ファーストまで一生懸命に走っていますし、チームを鼓舞するようなプレーを見せてくれます。ベンチの雰囲気もよくなりますよね。

 巨人のほとんどの若手には全力疾走のプレーが足りていないので、いいお手本になると思います。特に、泉口、若林などレギュラーを掴みかけている選手、1軍と2軍を行き来している選手は、起用してもらうためにそういった姿勢が重要です。

中畑 キャベッジのバッティングは軸がブレないのがいい。今のままでいけば、いい補強だったと思わせる選手だよね。それと、チームが確実に変わってきてる。門脇は少し前まで完全にレギュラー扱いされていたけど、今では泉口と差がついているよね。でも、泉口も「隙を見せたら外される」という意識を持っているはず。いい意味で緊張感があるし、競争意識がすごく高いところにあるよね。

篠塚 ある程度出場機会を得たあとに普通にプレーできるかどうか、ですよね。

門脇もそうなのですが、それができずに不振の期間が続いてしまう選手は多いので。ただ、普通にプレーするっていうのが難しいんですけどね。

中畑 プロ入りして間もない頃は、誰でも経験することだからね。

――岡本和真選手が試合中のプレーで左ひじの靭帯を損傷。長期離脱となってしまいました。

中畑 チームとしてはこれ以上にないくらい痛いですが、これはもう選手全員でカバーしていくしかないですから。

篠塚 岡本が離脱した次の試合で、一軍に復帰したばかりの坂本がタイムリーを打ってチームの勝利に貢献しましたね。彼がいてくれることは大きいですし、チームが一丸となって戦っていかなければいけません。岡本が故障してしまったプレーに関与した浦田俊輔もですが、浅野ら若手も、チームのこのピンチに奮起してもらいたいですね。

(2)中畑清と篠塚和典が巨人・浅野翔吾の3軍降格に思う、成長のために必要な「厳しさ」>>

【プロフィール】

■中畑清(なかはた・きよし)

1954年1月6日生まれ、福島県出身。駒沢大学を卒業後、1975年のドラフト3位で巨人に入団し4年目から一軍に定着した。通算打率.290の打撃、ファーストでゴールデングラブ賞を7回獲得した守備で勝利に貢献。快活な性格でも人気を集めた。1989年に現役を引退。2012年から4年間、DeNAの監督を務めた。また、2004年のアテネ五輪ではヘッドコーチを務めていたが、チームを率いていた長嶋茂雄氏が脳梗塞を患って入院したあとに監督を引き継ぎ、チームを銅メダルに導いた。

■篠塚和典(しのづか・かずのり)

1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。

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