中畑清×篠塚和典 スペシャル対談(3)
今季のDeNAについて
昨年、レギュラーシーズン3位から日本一となったDeNA。今季のチームの現状について、2012年から2015年までDeNAの監督を務めた中畑清氏は、どう見ているのか。
【若手選手の起用に2人が提言】
――DeNAのチーム状態はどう見ていますか?
中畑清(以下:中畑) 状態が上がらない筒香嘉智、宮﨑敏郎を二軍に落とすなど(宮﨑は5月16日に一軍に復帰)、三浦大輔監督には危機感があるんじゃないですか。それと、昨年は下剋上での日本一でいい思いをしましたからね。(元DeNA監督の)自分も含めて(笑)。今季はやはり、リーグ優勝したうえで日本シリーズに出るのが目標。下剋上では本当の日本一ではない、と感じている部分はあると思います。
あとはアンドレ・ジャクソン、アンソニー・ケイ、トレバー・バウアー、ローワン・ウィックら外国人ピッチャーに助けられている部分がかなりある。ここまでチーム勝率が5割近くできているのも、彼らの働きが大きい。あとは、入江大生を抑えに使って、ある程度成功していることですね。
――梶原昂希選手も不振に陥り、5月5日に出場選手登録を抹消。ファームで仕切り直すことになりました。
中畑 梶原は1番で使い続けるべきです。足もあるし、バットコントロールがよくてピッチャーの右も左も苦にしない。
使い続ければ「こういう選手に育ってほしいんだ」といったメッセージが本人に伝わって意気に感じるでしょうし、それで成長したら監督冥利に尽きます。選手を育てながらリーグ優勝して、日本一にもなれたらかっこいいですよ。
篠塚和典(以下:篠塚) 梶原もそうですし、度会隆輝や森敬斗もそうですよね。若手はある程度我慢して使っていかないと、主力として育っていきません。それぞれによい特徴やポテンシャルがある選手だと思いますしね。
それと、度会は少し活躍すると大きく喜んでいますが、いいプレーをすることが"当たり前"にならないといけません。イチローや松井秀喜、落合博満さんら歴代の名打者は、活躍しても大袈裟に喜ばずに平然とプレーしていました。大谷翔平のように、別格でありながらメジャーの風習に適合している選手であればともかく、ですね。ワンプレーに一喜一憂せず、いいプレーを継続していくためのメンタルと技術を磨いていってほしいです。
中畑 それぐらいの能力がある選手たちだから、それを伸ばしていかないと。梶原は開幕から1番を任されていたけど、状態が上がらないと6番や7番に動かされてしまう。本人は不安になると思うし、「梶原と心中だ」くらいの感じで使い続けるほうが大事な時ってあるからね。特に伸び盛りの選手ほど。
森に関しても、経験を積ませるしかない。打順は8番でも9番でもいいから、「使い続けるぞ」というメッセージを伝えないと。DeNAという球団に合っているタイプの選手だし、"顔"にならなければいけない。そのためにどうすればいいのかを、本人に学ばせないと。時には恥をかくこともあるだろうけど、「"痛み"を覚えなさい」という感じでね。
篠塚 チームの顔にしていくのであれば、使い続けていくべきですよね。監督によって考えはいろいろあるだろうし、難しいところですけど。育てると決めたら、少しくらい悪くてもやっぱり使っていかないと。
中畑 起用する側が我慢しないといけないよね。
篠塚 使い続けてくれることで、なんとか期待に応えたいと気持ちが奮い立つこともあるだろうし。要は本人次第ですね。
【「三浦監督が一番苦しむシーズンになる可能性がある」】
――ピッチャー陣はいかがですか?
中畑 中継ぎ、抑えはすごく不安ですよ。抑えを務めている入江は頑張っていますが、確実に抑え切れるタイプではないので怖さがある。それと、ピッチャー陣も野手と同じで、たらい回すような使い方をしてはいけません。たとえば、勝ちパターンの中継ぎを任せるのであれば、「うちの中継ぎの柱だ」とメッセージを送ってあげないと。
チーム全体としては、状態が上がらない野手も多いし、チームが固まっていないね。昨年、日本一を獲ったチームなのに、強さが感じられない。「今年はどうしたんだ? 昨年のあの時だけ強かったのか」って思わせてはいけないシーズンなんです。三浦監督が一番苦しむシーズンになる可能性がありますよ。
篠塚 本来は打てる選手が多いチームなのですが、牧秀悟以外の主力が軒並み不振なのは、昨年に日本一を達成したことで、どこかに気の緩みがあったのではないでしょうか。あと今季は、軸となる選手がいない状態でした。
主力選手たちが状態を上げていかないと、本来の強みである強力打線を前面にした戦いができないので、まずは各自が状態を上げていくことが必要です。対照的に阪神は、主力の佐藤輝明、森下翔太、近本光司、中野拓夢らが打線を牽引しています。ピッチャー陣もいいですが、上位にいるのは野手陣の働きが大きいですね。
――今年のDeNAは苦しいシーズンになりそうですか?
中畑 連覇は本当に難しいですからね。それは昨年の段階で、三浦監督にも伝えていましたよ。「日本一おめでとう。でも、来年は大変だぞ」と。そこから会うたびに言っているから、少しずつわかってきたんじゃないかな(笑)。昨年はいい思いをした。だけど、いい思いってそんなにずっと続くものじゃない。
何かしら試練がありますし、それをどう乗り越えるかというのが本当の技量だと思うんです。
篠塚 僕は隙を見せませんでした(笑)。そこはチームによって違うんじゃないですか。巨人はみんなが「常に勝たなければいけない」と思っていますし、球団によって差が出るのではないでしょうか。
中畑 勝つのが巨人の宿命だったからね。V9というとんでもない記録を残したチームだし、"勝って当たり前"というイメージが強い。あとは「球界の模範にならなければいけない」という教育もされてきた。だから甘える気持ちとかはなかった気がするな。
【CSの仕組みも改善の余地あり】
――セ・リーグ全体としては、どういった戦いを期待しますか?
中畑 どこが優勝するかわからないくらいの接戦であってほしいですね。
篠塚 AクラスとBクラスの差がついてしまうケースが多いので、例えばBクラスにいたチームが、シーズン後半にグっと上がってくる展開も見たいですね。
中畑 あとは、リーグ優勝の価値を高めてほしいね。シーズンを勝ち抜くのは本当に大変なことで、もっと評価してあげないといけないと思う。
篠塚 シーズンを勝ち抜くのは、本当に厳しいですからね。例えば1位のチームと、クライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージに勝ち上がってきたチームとで10ゲーム以上差があったら、アドバンテージとして2勝を与えてもいいと思います。
中畑 DeNAは昨年、貯金が2つしかなかったしね(1位の巨人は貯金18)。数字的に見ると、1位のチームのファンなどは「冗談じゃない」って思われたりもする一方で、「それも野球の面白さ」と言われることもある。いずれにせよ、ルールを変えなければいけない段階に来ているかもしれないけど......CSは盛り上がるんだよなぁ(笑)。
篠塚 興行性を重視するのであれば、そうなんですよね。日本シリーズはあくまで1位同士での戦いとし、 CSを別物の興行とする形にしてもいいと思います。
中畑 ルールを変えるのは大変な作業だけど、時代に合わせて手を加えなければいけないね。まぁでも、この話はシーズン中に言うことではないな(笑)。然るべきタイミングでまた話そう。
篠塚 そうですね。いずれ制度改革についても話しましょう。
【プロフィール】
■中畑清(なかはた・きよし)
1954年1月6日生まれ、福島県出身。駒沢大学を卒業後、1975年のドラフト3位で巨人に入団し4年目から一軍に定着した。通算打率.290の打撃、ファーストでゴールデングラブ賞を7回獲得した守備で勝利に貢献。快活な性格でも人気を集めた。1989年に現役を引退。2012年から4年間、DeNAの監督を務めた。また、2004年のアテネ五輪ではヘッドコーチを務めていたが、チームを率いていた長嶋茂雄氏が脳梗塞を患って入院したあとに監督を引き継ぎ、チームを銅メダルに導いた。
■篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。