高梨裕稔(ヤクルト)は、2022年は7勝をあげてチームのリーグ連覇に貢献したが、過去2シーズンは1勝7敗と結果を残せず、二軍施設のある戸田で長い時間を過ごした。

「毎日、一軍に上るために、一軍で活躍するためにと、一生懸命やっていました」

 事実、戸田の灼熱の夏にも弱音を吐かず、高梨は「いつ一軍に呼ばれてもいいように」と、ひたむきに課題と向き合っていた。

制球難、二軍落ち、そして復活...なぜヤクルト高梨裕稔は再び...の画像はこちら >>
 高梨が振り返る。

「そのためには常にいい状態でいないといけないですし、自分のモチベーションが下がってしまったら一軍には呼ばれないと思ってやっていました。そこにすごく気をつけながら、一戦一戦、気持ちを入れて投げることを意識していました」

 迎えた今季、高梨は開幕から粘り強いピッチングを続けている。ここまで(5月21日現在)5試合に登板(先発で4試合)して1勝0敗、防御率2.17。力強いストレートを軸にテンポよく投げるピッチングは爽快で、審判の判定に対して感情をあらわにする場面も少なくなった印象だ。

「今はストライク先行のピッチングができているので、いいリズムで投げられています。ただ、テンポのよさと投げ急ぎは紙一重だと思うので、そこの区別はしっかり意識しています。(審判の判定に感情を出すことが少なくなったのは)制球力の部分で、自信がついてきたことがあるのかなと。『ストライク取れるかな』『ストライク取ってくれよ』というのはなくなってきた感じです」

 先発投手が試合をつくったとされるクオリティスタート(6イニング以上を投げて自責点3以下に抑えること)率は75パーセント。12年目の右腕は、先発ローテーションの一員に返り咲いたのだった。

【小野寺コーチの助言】

 話は、今から2年前の5月27日にさかのぼる。

「自分に何か変化をつけることが必要だよ」

 小野寺力二軍投手コーチ(現・一軍コーチ)は、戸田で高梨にそう声をかけた。

 このシーズン、高梨は開幕から5試合に先発するも、「ダメだったらダメなままで、大量失点してしまう試合が多かった」と、0勝3敗、防御率7.66の成績で二軍に降格していた。

 小野寺コーチは「コントロールに課題があった」と、当時を振り返る。

「どうしても力任せに投げることが多かったので、体が前に突っ込んでしまっていました。大げさに言えば、踏み出す足が地面につく前にボールを投げてしまっているようなイメージです。そうなると下半身がうまく使えず、バッターとの間合いも取れません。相手にとってはタイミングを取りやすい投球になってしまっていたと思います。そこで、まずはフォームをゆったりとさせて、バランスよくしっかりと投げることから始めたんです」

 高梨は、小野寺コーチからの言葉を「覚えています」と言った。

「何を変えたかについては、一番変わったのは投球フォームですね。周りから見れば気づかないかもしれませんが、自分のなかではかなり大きく変えました。ものすごく簡単に説明すると、投げる時に前に移動しなくなった、ということです。僕は前に突っ込むクセが強くあって、イメージとしては、あまり踏み出さずにその場で投げるくらいの感覚です。以前はそれをやろうとしてもできなかったので、そのためにウエイトトレーニングに力を入れるようにしました」

【ウエイトトレーニングの効果】

 昨年のシーズン後半あたりから「体をある程度うまく扱えるようになった」と、ウエイトトレーニングの効果を感じ始めたという。

「それをもう一段階、二段階レベルアップさせようと、去年のオフもウエイトを続けて、下半身がより安定し、上半身の力もつきました。昔は力がなかったので、どうしても勢いや遠心力で投げていたんですけど、今はそういうのがなくなってきた感じです。

そのことで球速も安定して出せるようになりましたし、制球もよくなりました」

 宮沢直人ブルペン捕手は「オフの自主トレも手伝いました」と、高梨の努力と凄みを間近で見続けてきたひとりだ。

「高梨さんも年齢的な部分で、やっぱり体の状態って落ちてくると思うんですけど、そこを技術でカバーしようとせず、去年の12月もウエイトを高重量、高頻度でやっていました。それが今につながっていると思います。もともといいボールでしたけど、ウエイトでフィジカルの強度が上がったので、すごいボールですよ、ほんとに(笑)」

 高梨の凄みについてはこう話す。

「ウエイトを始めたのは2年前に二軍に落ちてきた頃で、それをオフもそうですが、シーズン中の体がきついなかでも続けている。体や気持ちの強さはもちろんですけど、自分がうまくなるためにアンテナを張り、新しいことにチャレンジできる。そこが高梨さんのすごいところです」

 そして宮沢ブルペン捕手は「コーチや監督からの注文ってあるじゃないですか」と言って、こう続けた。

「たとえば、『こうこうしたら、もっと一軍で投げられるよ』とか。そういう助言をファームでも頑張って続け、たとえ一軍に上がれなくても、そこに対してやりきれる力がある。そこも高梨さんのすごいところです。実際、それを続けるって簡単なことではないですから」

【勝利数よりもローテーションを守ること】

 高梨はここまでの自身のピッチングについて、「まだ登板数は少ないですけど、本当にいい形で粘れています」と語った。

「今年は試合のなかで修正できているので、最後まで粘りきれていると思います。

なんとかそれを継続していきたいですね。そこはこれまでずっと課題だったので、シーズンを通して乗り越えていきたいです」

 前出の小野寺コーチも「自分で修正できるようになりましたよね」と評価する。

「まだ力んでボールがばらつくこともありますが、調子が少し悪い時でも、それなりの投球ができるようになっています。140キロのボールを投げるようなフォームで145キロの球を投げて、打者のタイミングをずらす取り組みもしてきましたが、それが今、形になってきているのかなと。

 変化球では、カーブをしっかりストライクゾーンに投げ込めていますし、さまざまな球種を操れるようになって、どのカウントでも勝負できる感じになってきました。この2年間、悔しい思いもあったと思いますが、下を向かず、一軍で投げるために自分がどうすべきかを考えて、行動に移せるようになった。本当にすばらしい成長だと思います」

 高梨は今シーズンの目標について、「このまましっかりローテーションを守ることが一番だと思います」と話す。

「勝利数については、運の要素もあるのであまり気にしていません。いいピッチングをしても勝ちがつかないこともあれば、点を取られても勝ちがつくこともあるので。ここまで少し波はありますが、大きな波をつくらずに投げられています。

 シーズンは長いですから、できるだけ波を小さくして、そのなかでしっかりゲームをつくること。それを1年間継続するのが最大の目標です。

それができれば、自ずと結果もついてくると思います」

 そう語る高梨に「努力は報われると思いますか」と問うと、「全員が全員、報われるかはわからないですけど......」と前置きし、こう続けた。

「でも、努力しなければ報われる瞬間は来ないと思います。どんな時も腐らず、しっかりやり続けること。泥臭くてもいいから、なんとか結果を残していくことが大事だと思っています」

 5月17日のDeNA戦では、2本のホームランを浴びて5失点という結果になったが、それでも6回を投げきって、マウンドを降りた。

 試合後、高梨はこうコメントした。

「もっと粘りきりたかったというのは、もちろんあります。そこは次への課題というか......でも今日は野手のみんなが打ってくれて、チームが逆転勝ちしてくれたので、次はしっかり頑張りたいと思います」

 高梨の"粘りきる"ピッチングは、これからも続いていく。

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