新庄剛志監督となって4年目を迎えた今季、長打力と機動力を兼ね備えた強力打線で快進撃を続けている日本ハム。若手スラッガーたちが着実に成長を遂げ、かつての「ビッグバン打線」を彷彿とさせる破壊力を見せている。
【新庄剛志流の地位が人をつくる采配】
── 清宮幸太郎選手、万波中正選手、野村佑希選手の「ロマン砲トリオ」は、破壊力満点です。5月6日のオリックス戦では、3人揃って本塁打をマークしました。
鶴岡 新庄剛志監督の就任(2022年)当初から、ポテンシャルが高く、夢とロマンを併せ持つ3人は、大いなる期待を寄せられていました。"3人揃い踏み弾"は2023年以来、2度目ですが、他球団からすれば脅威ですよね。
── 野村選手は昨年オフのファンフェスタで、新庄監督から開幕投手に指名された金村尚真投手とともに、開幕4番を明言されました。15試合60打席が判断の目安と言われていましたが、ここまで見事な結果を残しています。
鶴岡 そうですね。2023年に万波が25本塁打、74打点を挙げ、昨年は清宮が規定打席未到達ながら打率.300、15本塁打でブレイクしました。今年は「野村を覚醒させる」と言わんばかりにプレッシャーをかけました。現在は左脇腹痛で戦列を離れていますが、重症ではなく、それまで36試合に出場してチーム最多の39安打、打率.291をマークしています。
── 今シーズン、野村選手はどんなところがよくなったのでしょうか。
鶴岡 打率3割、30本塁打を狙えるミート力と長打力を持っているにもかかわらず、昨年まではボール球に手を出して凡退するケースがよくありました。それが今年は選球眼がよくなり、さらにスイングする際、軸になる右足が折れなくなり正確性が増しました。数字を残していることで自信を持ったこともあると思いますが、打撃のなかで"リズム"が出てきましたよね。
── 新庄監督は現役時代、野村克也監督のもとでプレーしていました。
鶴岡 古い記者の方から聞いたのですが、阪神時代の2000年に新庄さんは野村監督から4番に据えられ、打率.278、28本塁打、85打点とキャリアハイの成績をマークしたそうなんです。野村監督は「人間、少し背伸びしてでも役割にふさわしくなろうとするもんや。これを"地位が人をつくる"という」と語っていたそうです。その手法にそっくりですよね。
【打線のカギを握るのは万波中正】
── 今シーズン、清宮選手は規定打席に到達して、昨年ぐらいの成績を残してもらいたいですね。
鶴岡 清宮の成長は、好調時よりも不調時に自分が何をすべきかわかってきたことだと思います。ひと言で言うと"打席の送り方"です。たとえば、四球を選んで塁に出るとか、進塁打を打つとか、ただ打つのではなく状況を見ながらバッティングできるようになりました。
── 万波選手はいかがですか。
鶴岡 最終的に打線のカギを握るのは、やはりマンチュウ(万波の愛称)だと思います。46試合に出場して、9本塁打はリーグトップタイ、25打点はリーグ2位タイです。彼は天才的な感覚があるので、好調時は"反応"で打てるし、調子が悪い時は"読み"で対応できます。
3年連続100三振以上していますが、相手バッテリーとしたら"読み"の部分で勝たないと、マンチュウの場合は本塁打になる可能性がある。相手バッテリーに与えるプレッシャーは並大抵ではないと思いますね。
── 昨年、「ベストDH」に輝いたフランミル・レイエス選手は今季も好調です。
鶴岡 現在、マンチュウとともにチームトップの本塁打、打点をマークしています。野村、清宮、万波、レイエスの中軸4人が規定打席に達していますが、そういったところも打線の安定感をもたらしている大きな要因ではないでしょうか。
── ここまでチーム本塁打数44本は12球団トップです。
鶴岡 新庄監督就任当初、貧打で2年連続最下位だったことがウソのようです。今は結果を残さないと、松本剛のような実績ある選手でもファーム調整があります。新庄監督になって4年目になりますが、これまでの3年間で選手たちを積極的に起用したことで、選手層が劇的に厚くなりました。
【ビックバン打線、2016年日本一打線に匹敵】
── 今年の日本ハム打線は、中軸4人の脇を固める選手も充実しています。
鶴岡 水野達稀の19打点は、万波、レイエスに次いでチーム3位です。相手が左投手の時は水谷瞬、松本剛、奈良間大己、山縣秀らの右打者が入り、右投手の時は水野をはじめ、五十幡亮汰、矢澤宏太、淺間大基、上川畑大悟といった左打者が入ります。しかもパワー型の水谷、松本、スピード型の五十幡、矢澤といった変幻自在の打線が組めることも、日本ハム打線の特長と言えます。
── 捕手は昨シーズン、田宮裕涼選手がブレークしたかと思ったら、今季はベテラン伏見寅威選手のほか、郡司裕也選手や現役ドラフトでソフトバンクから加入した吉田賢吾選手の「4人体制」です。
鶴岡 現状は先発投手との相性によって、捕手を決めている感じです。田宮は捕手だけでなくレフトを守ったり、郡司も内外野を守るなど、複数のポジションをこなしています。日本ハムは、ほとんどの選手が複数のポジションを守れます。
── 新庄監督の野球は、ただ打つだけではなくスクイズなどの小技もあります。
鶴岡 これまで失敗が多かったのですが、5月13日のオリックス戦で五十幡が2ランスクイズを成功させて、チームは5連勝を飾りました。8月、9月のペナントレースが佳境に入ってきた時にきっちり決められるか。
── かつて日本ハムには「ビッグバン打線」と呼ばれる強力打線が存在しました。
鶴岡 私は2003年に入団したのですが、2004年は坪井智哉さん、新庄さん、小笠原道大さん、フェルナンド・セギノール、エンジェル・エチェバリア、高橋信二さん、金子誠さんなどがいて、チーム打率.281、178本塁打と、まさに「ビッグバン」のごとく圧倒的な迫力がありました。
── 日本ハムは2016年以来、優勝から遠ざかっています。
鶴岡 2016年、私は日本ハムからソフトバンクに移籍したのですが、マスク越しに見て、いい打線でした。大谷翔平(現・ドジャース)、中田翔(現・中日)の3、4番が打つのは当然のところはありましたが、1番に俊足の西川遥輝(現・ヤクルト)がいて、5番には勝負強い田中賢介、9番には粘り強い中島卓也など、それぞれが自分の役割をまっとうしていました。チーム打率.266はリーグトップで、さすが日本一になるチームだなと感じました。
── 今季の強力打線なら、2016年以来の優勝の可能性も?
鶴岡 各選手がさらなる成長を遂げて、"ビッグバン打線"や2016年の日本一の打線に匹敵するような破壊力ある打線になっていけばと思います。投手陣もリーグトップの防御率を誇っており、1試合コンスタントに3、4点取れるようなら、十分に優勝の可能性はあると思います。
鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。