今中慎二インタビュー

中日の野手陣について

 今中慎二氏が語る今季の中日の野手編。ここ数年の課題で、今年もチーム得点が「リーグ最下位(5月26日現在)と得点力不足に悩む打線について分析してもらった。

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点が取れない中日打線について、今中慎二は「1、2人が頑張って...の画像はこちら >>

【4番打者は「長打力にこだわらなくてもいい」】

――打線についてお聞きますが、1番は開幕から全試合で岡林勇希選手が務めている一方、それ以外は流動的ですね。

今中慎二(以下:今中) 打順は固定しなくてはいけないわけではないと思いますが、2番に求める内容はある程度決めるべきなんじゃないかと。打つのか、バントで送るのか、そのあたりがはっきりしていません。

――ここまで井上一樹監督は、2番に山本泰寛選手、村松開人選手、上林誠知選手、ブライト健太選手、辻本倫太郎選手、板山祐太郎選手、ジェイソン・ボスラー選手、オルランド・カリステ選手、鵜飼航丞選手、田中幹也選手など、いろいろなタイプの選手を起用していますね。

今中 まずは「2番に何をさせたいのか」、というところですね。たとえば、岡林が出塁した際に「攻撃的にいく」のならば、カリステやボスラーが2番でもいい。でも、カリステにバントをさせた試合があったんですよ。そうなると怖さがないですし、割りきって打たせて、ゲッツーになったらあきらめる。彼を2番にするというのは、そういうオーダーということですから。

 そういった場面での指示をはっきりさせたほうがいいのかなと。「ここはバントはない」と伝えれば、バッターは思いきっていけますが、突然バントの指示がきたらミスしかねない。カリステ以外にも、ボスラー、ブライト、鵜飼らパワー系のバッターを2番で起用していますが、その時のチームの戦術と選手の特性が合致しているのであれば問題ないと思います。

――上林選手は、3番で存在感を示していますね。

今中 チャンスに強く(得点圏打率はチームトップの.270)、安定していますからね。問題は上林が歩かされたり、勝負を避けられたりした時です。次の4番は、ホームランや長打を期待するよりも、打率や出塁率が高いバッターのほうが、つながりが出て点が入る確率が高くなると思います。

 ここまで4番には一発がある選手を入れていますが、長打力にこだわらなくてもいいんじゃないかなと。状態にもよりますが、高橋周平でもいい。とにかく点を取ることを優先しなければいけません。

【選手に"逃げ道"を作ったほうが力を発揮できる?】

――48イニング連続でタイムリーが出ない時期もあるなど、得点力不足に悩まされています。今中さんは以前、初球を簡単に打ち上げてしまったり、打席での考えが足りないとも指摘されていましたが、いかがですか?

今中 無死満塁や、無死二、三塁の時は打順に関係なく、ベンチからサインを出してあげたほうがいいと思うんです。特に若い選手に対してはそうですね。「初球から振りにいくのが積極的な姿勢だ」と思ってしまっているので。

 先日(5月13日のヤクルト戦)も板山が代打で出てきて、小川泰弘の膝下にきた初球のボール球を思いっきり振っていた。振らなかったらすごく有利になったはずなのに、2球振ってしまったんです。結果としては、小川が板山を警戒したのかフォアボールになりましたが、「初球をど真ん中に投げる投手がいるか?」という話なんです。

 小川はベテランのピッチャーです。若いピッチャーなら真ん中にも投げてくるかもしれませんが、ベテランは初球から簡単に甘いところには投げません。それを考えもなしに振っているうちは難しいでしょうね。

――チームとしてはチャンスは作っても、あと1本が出ない印象です。

今中 ずっと"チャンスに弱い"と言われていますよね。「インコースに真っすぐがきたら引っ張れ」とか、「それ以外のボールは逆方向へ打て」とかサインを出してあげたほうがラクなんじゃないかなと。それで凡打になってもベンチのサインですから、選手に"逃げ道"ができるじゃないですか。

 たとえば、右バッターが「逆方向へ打て」と言われ、打球が一、二塁間を抜けたとしたら選手の成果になりますし、アウトになっても「ベンチのサインだから」と思えます。ある程度はベンチが責任を負うような形にしてあげたほうが、気持ちはラクなはず。そういうほうが、今の若い選手たちは力を発揮できるような気がするんですよ。それで自信がついたら、以降は自分の考えでやれるようになるわけですから。

――野手陣でキーマンを挙げるとすれば?

今中 岡林や上林は、キーマンというよりも、やってもらうのが当たり前。

2人がやってくれないと点が入りません。つまり、キーマンは別の選手になるんですが、ほとんどの選手が打っていませんからね......。高橋も、毎日試合に出ているわけではないですし。

――ボスラー選手はいかがですか?

今中 ボスラーはボール球を振ってしまいますから、難しいんじゃないですか。インコースをさばければもう少し打てると思いますが、速いボールがインコースにくるとつまってしまいますし。

――今中さんがピッチャーとして対峙すると考えると、攻めやすいですか?

今中 体が投手側に突っ込んでくるバッターはラクですね。逆に引きつけるバッターは面倒なんです。DeNAのタイラー・オースティンがそうですね。泳いだバッティングをしませんし、ボールを待ち構えているような感じですよね。だから、中日のピッチャーたちも投げづらいんじゃないですか。

 キーマンの話に戻りますが、これだけ何年も打てない、点が取れないというチームなので、1、2人が頑張ったところで打開するのは難しいでしょう。先ほどもお話しましたが、ベンチがある程度指示していくことがカギになると思います。

――そのほうが選手は思いきってできる?

今中 自由にやらせても、チャンスでの1本が出ないじゃないですか。タイムリーじゃなくてもつないでいけばいい場面はたくさんあるわけで。そのあたりをチーム一体となってやれれば、もう少し点が取れると思います。今年も、チャンスはある程度作れていますから。

――ヒットを重ねて点を取ることは、簡単ではなさそうですね。

今中 きれいに打ちたい、という気持ちがどこかにあるのかもしれません。それと、積極的に打ちにいって初球のボール球に手を出してしまい、焦ってしまうこともあるんじゃないかと。次にストライクを見逃したら、そこで追い込まれてしまうので。調子の悪いバッターが、ボール球を打ってストライクを見逃す、ということが多いですから、そこを改善できるかどうかですね。

【プロフィール】

◆今中慎二(いまなか・しんじ)

1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。

2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。

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