大学野球選手権大会で見つけた5人の好素材(後編)
前編:中京大・大矢琉晟&沢田涼太が大学選手権で見せた大器の片鱗はこちら>>
【自己最速の153キロをマーク】
赤木晴哉(佛教大)のボールを1球見た時点で、「昨秋より明らかにボールが強くなっている」と感じた。
6月9日、大学選手権1回戦・佛教大対東京農業大北海道オホーツク戦。神宮球場の先発マウンドに上がったのが、身長190センチ、体重86キロの長身右腕・赤木だった。
この日、赤木は自己最速を2キロ更新する153キロを計測。ただスピードが速いだけでなく、捕手のミットを押し込むような球威が目を引いた。昨秋の明治神宮大会でも神宮球場のマウンドを経験した赤木だが、当時よりも一段と球威が増した印象だった。
得点差が開いたこともあり、赤木は5回1失点とゲームメイクして降板。試合は8対5で佛教大が勝利した。試合後、球威が向上したように見えたことを伝えると、赤木はうれしそうな表情で実感を語った。
「自分の弱さはそこ(球威)だと思っていたので、この冬に重点的にやってきたんです。メディシンボールやウエイト器具を使って、瞬発力を高めるトレーニングを中心にやってきました。自分でもひと回り成長できたかなと感じます」
あるプロスカウトが赤木について、「真っすぐがもうひとつ強くなったらな」と語っていたことを知り、球威強化に乗り出したという。
今どき珍しい大家族で、8人きょうだいの5番目(次男)として生まれ育った。天理高では達孝太(現・日本ハム)の陰に隠れ、本人も「4番手くらい」と振り返るような控え投手。背格好は似ていても、「ライバル」と口にするのもはばかられるほどの差を感じていた。
佛教大に進学後、赤木は中心投手として台頭する。2年時に腕の振りをショートアームに変えたことがひとつの転機になった。
「今までロスのあるフォームだったんですけど、ショートアームにしたことでコントロールがよくなりました。力の入れ方がわかって、球速も上がっていきました」
前述のとおり球威の進化も目覚ましいが、本人がもっともアピールポイントと考えているのは「ゲームメイク能力」である。2種類のフォークを投げ分け、スライダー、カットボールと横の変化もある。
さらにフィジカル的に未完成という点も、赤木への期待感を増幅させる。赤木は言う。
「まだまだ鍛え込めるし、めちゃくちゃ伸びる余地があると感じています」
希望進路は「プロ一本」。今春に進化した姿を見せたことで、支配下でのドラフト指名も現実味を帯びてきている。

【指揮官が太鼓判を押すナックルカーブ】
今大会で上武大、佛教大を破ってベスト8に食い込んだのが北海学園大だ。最速159キロの速球派右腕・工藤泰己、ゲームメイク能力が高い左腕・木村駿太らドラフト候補を多数擁し、インパクト十分の戦いぶりを見せた。
そんななか、ヴェールを脱いだ大器が髙谷舟(たかや・しゅう)だった。
最速153キロの好球質のストレートを投げる右腕として注目の存在だったが、今春はアピールする機会が限られた。
ただし、北海学園大の島崎圭介監督は「リーグ戦は投げさせるタイミングがなかっただけで、全国に通用する力があると信じていました」と髙谷を起用する機会をうかがっていた。
6月9日、上武大との1回戦は4対4の同点で試合終盤を迎えていた。7回裏、上武大が二死満塁と攻め立て、ドラフト候補の西原太一が打席に入ったタイミングで、髙谷の登板が神宮球場の場内にアナウンスされた。
髙谷は指先にかかった151キロのストレートを披露するなど、西原を2ストライクと追い込む。最後は133キロのスライダーで空振り三振に仕留めた。その後も再来年のドラフト候補である岡村シルバー魁人(2年)を149キロの快速球で二塁ゴロに抑えるなど、タレント揃いの上武大打線をノーヒットに封じた。
試合は9回に1点を勝ち越した北海学園大が5対4で勝利している。
髙谷は試合後、神妙な表情でこう語った。
「ピンチの場面で投げる準備はしていました。4年間やってきたことを出そうと考えていました」
上武大の谷口英規監督は、髙谷について「思った以上に真っすぐより変化球を丁寧に投げていた」と印象を語っている。この日に投げた球種はスライダー、カーブ、ツーシーム、スプリット、チェンジアップ。
とくに特徴的なのはカーブだ。人差し指を折り曲げた状態でボールにかける、「ナックルカーブ」。髙谷は「指パッチンする感じで、縦に切るように投げます」と明かす。
島崎監督は現役時代にドラフト候補に挙がるほどの投手だったが、髙谷のナックルカーブについて太鼓判を押す。
「加速して落ちてくるような軌道なので、初見のキャッチャーもバッターもビックリするボールです。カウント球でも勝負球でも使えますし、自分もあんなカーブを投げてみたかったですね」
エース格の木村ら、仲間たちに連れてきてもらった神宮のマウンド。そんな思いもあったのではないか。髙谷にそう尋ねると、「ホントにそうです」と返ってきた。
「木村、工藤が頑張ってくれて、野手のみんなが打って勝ってくれたおかげで、自分はここに来られたので。まずは全国で1勝できて、少しはよかったのかなと感じます」
髙谷は2回戦の佛教大戦でもリリーフ登板し、1回無失点で勝利に貢献。準々決勝の青山学院大戦では、ドラフト候補の小田康一郎から本塁打を浴びてチームも敗戦。
今後はプロ志望届を提出する予定だが、誘いを受ける企業チームとの兼ね合いもあり、進路を熟考することになりそうだ。

【高校時代は通算58本塁打】
野手でもひとりの怪素材を紹介したい。盛岡大付高時代からスラッガーとして注目された金子京介(神奈川大)だ。
6月10日、東京ドームでの1回戦に臨んだが、序盤から近畿大の猛攻撃に遭い、0対8(7回コールド)のワンサイドゲームになった。
それでも、金子は近畿大のドラフト候補左腕・野口練から力強いスイングで左前打を放ち、大器の片鱗を見せている。
金子は高校3年夏の岩手大会で大会新記録となる5試合連続本塁打を放ち、甲子園出場に貢献。高校通算58本塁打をマークした。神奈川大では今春に4本塁打を放つなど、ここまでリーグ戦通算9本塁打を記録している。
金子は自身のセールスポイントである打撃について、こう語る。
「バットを下から出すのではなく、上からボールの軌道のラインに入れていくイメージでスイングしています。今日は好投手相手でしたけど、自分のタイミングさえ取れれば打てると感じています」
大学選手権の大会パンフレットには、金子のプロフィールとして「身長185センチ、体重105キロ」という数値が載っている。
「それは去年の数字ですね。今はかなり絞って、93キロです」
体重が105キロあった昨季は極度の不振に苦しみ、レギュラーを外れた時期もあった。金子は「体を大きくしすぎて、途中で腰も痛くなってしまって」と後悔を口にする。
50メートル走のタイムは6秒3と、大型選手ながら動きも悪くない。現在のメインポジションは一塁手だが、「守備は嫌いではないです」と他ポジションをこなす素養は十分に備えている。
今後の希望進路を聞くと、金子は「育成でもいいからプロに行きたい」と口にした。
「監督さん(岸川雄二監督)から『チャンスがあるなら挑戦してみないか』と言われました。もう少し全国で試合をして、アピールしたかったです」
目標とする打者はタイラー・オースティン(DeNA)。広角に長打を打てる打撃スタイルは金子と共通している。
右の長距離砲はプロ球界でも希少価値は高い。