F1第17戦アゼルバイジャンGPレビュー(後編)

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 アゼルバイジャンGPで6番グリッドから好発進を決めた角田裕毅(レッドブル)は、ジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)との攻防の末に6位入賞を果たした。

 足もとにハードタイヤを履き、レース後半にセーフティカーが出るのを延々と待つ──。

今までのようにロングランに自信がなければ、絶対に採ることはできなかった戦略だった。

【F1】角田裕毅「ローソンを抜きたい」欲求をグッと抑えて6位...の画像はこちら >>
 ミディアムスタート勢相手に、序盤で劣勢に立たされるのは承知の上。しかし、チームメイト同士の争いで隙のできたラッセルを抜いて5位に上がり、5周で抜き返されたものの、うしろにシャルル・ルクレール(フェラーリ)とランド・ノリス(マクラーレン)を抑えながらペースを守って走行を続けた。

 20周目にピットインしたリアム・ローソン(レーシングブルズ)に対し、角田は38周目まで使い込んだハードタイヤで渾身のプッシュを続けた。じわりじわりとギャップを広げ、ピットインしてローソンの前へ。タイヤが温まる前にローソンに先行を許したものの、ルクレールとノリスは依然として抑え込むことに成功した。

 最終コーナーの脱出と最高速が速いローソンに対し、ストレートエンドでトウに入り、インに飛び込めそうなチャンスは何度かあった。しかし、角田は強引に飛び込むことはしなかった。モンツァで不用意な接触を犯し、チームに損失を与えたことを、しっかりと心に刻んでいたからだ。

「(ローソンの)ハードタイヤはかなりデグラデーション(性能劣化)が小さかったですし、僕が履いていたミディアムは予選で使った中古タイヤだったので、あっという間にオーバーヒートしてしまいました。アグレッシブな仕掛け方をしてランド(・ノリス)に抜かれてしまったり、さらに(ローソンまで抜いて)前に出られるのは、チームにとって最悪の展開ですからね。

 オーバーテイクを決めてヒーローになるようなことをやりたい、という気持ちもないわけではありませんでしたけど、レッドブルファミリーとして2台がマクラーレンの前にいることが最も重要なことなので、ここではやるべきではないと思いました。

自分としては正しい判断をしたと思っています」

【冷静に思考を巡らせた好判断】

 オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が1周目にクラッシュしたように、日曜朝の雨でオフラインはかなり汚れていたこと。角田自身がラッセルを抜いたように、オーバーテイクに失敗すれば後続勢に簡単に抜かれてしまうリスクがあること。そして、タイヤの状況──。

 アドレナリン全開のバトルのなかで、ローソンに仕掛けたいという欲求を必死で押さえながら、角田は冷静に思考を巡らせ、判断を下していた。これは精神的な安定というより、目の前のポジション争いではなくもっと大きな視野でレースを客観的に見るという「視座の変化」だ。

 チームとしてはイタリアGPからマシンの改善が進み、フリー走行からアグレッシブなアプローチで性能の最大化に取り組んでいる。その結果として、優勝争いへの復帰が果たせた。

 つまり、マックス・フェルスタッペンのドライバーズタイトル争い、レッドブルのコンストラクターズのランキング2位争いも見えてきただけに、角田の貢献も大きなポイントになる。角田自身も、そのことをよく理解していたからこその、あの判断だった。

 ロングランの改善は言うまでもなく、その成長も、チームにとっては大きな評価につながるポイントだった。

 角田の取り組みを、そばで見てきたローラン・メキース代表はこう語る。

「彼にとって今年一番のレースだったと思う。昨日の予選も力強かったが、今日のレースでも非常に強力だった。

マックスと0.2~0.3秒差のペースで走っていて、0.4秒も遅れることはほとんどなかった。

 マクラーレンやフェラーリに激しく攻められるだろうと思っていたが、そうならなかった。裕毅は実力であの位置にいて、ランド(・ノリス)もうしろにいてプレッシャーをほとんどかけられなかった。

 モンツァでのこと(ローソンとの接触)もきちんと受け止めていたのだろうし、レースがない時もどこかでエンジニアと作業して、自分のドライビングを磨いている。そうした努力の成果を今回の進歩で示せたことが、とてもうれしいよ」

【自信が確信に変わった今週末】

 金曜に手応えを得たドライビングをさらに磨き、クオリティを上げたいと角田は言った。その言葉どおりに決勝を走り、結果につなげた。

「う~ん、どうですかね......(10点中)7点くらいですかね? 7点、8点かな? まだまだクオリティもバラバラですし、改善すべき点はありますけど、これまでのレースほど大きな差ではなくなっています。ここから一歩ずつ、改善していければと思っています」

 期待ではなく自信を胸に臨んだ決勝で、自信は確信に変わった。

 ここから、角田裕毅の真価が見えてくる。

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