荒木雅博が2025年度「ゴールデングラブ賞」受賞者を解説~セ・リーグ編
得点力が注目される時代にあっても、「アウトをひとつ積み上げる守備」の価値は揺るがない。2025年のセ・リーグでは、7人の受賞者が出た阪神を中心に、守備の質がチーム成績を左右した。
【9人目の野手として貢献】
── まずはセ・リーグの投手から。例年、最優秀防御率、最多奪三振、最多勝のタイトルを獲得した投手から選ばれる傾向にあります。今年も例にもれず、最多奪三振、最多勝の二冠に輝いた村上頌樹投手(阪神)が選出されました。
荒木 それらのタイトルがなくても、村上投手の初受賞は納得できます。今年から守備に特化したスパイクを履いていたそうで、牽制もうまいですし、バント処理などのフィールディングも落ち着いていました。それができる投手というのは、無駄な失点を防げます。「9人目の野手」としてすばらしいと思います。
── 捕手は、坂本誠志郎選手(阪神)が優勝した2023年に続き2度目の受賞です。
荒木 盗塁阻止率は、古賀優大捕手(ヤクルト)が.500でリーグトップ。坂本選手は.309でしたが、チームを優勝に導いたリードが高く評価されたのでしょう。捕手には「投手の長所を引き出すタイプ」と「打者の弱点を攻めるタイプ」の2つに分かれますが、坂本捕手は前者ですね。
── そのほか印象に残った捕手はいましたか。
荒木 巨人は、前半は甲斐拓也選手、後半は岸田行倫選手が頑張りました。来年の正捕手争いが楽しみですね。あと中日のルーキー・石伊雄太は、強肩はもちろんですが捕ってからが早く、盗塁阻止率.413と頑張りました。近い将来、受賞が期待されます。
── 荒木さんは2007年に盗塁王を獲得するなど、通算378盗塁(歴代11位)を記録しています。盗塁するにあたり、嫌だった投手、捕手は誰でしたか。
荒木 内海哲也さん(元巨人ほか)や久保康友さん(元ロッテほか)は牽制がうまく、クイックも早かったですね。近年は、そうした投手陣のレベルが全体的に上がり、それに伴い盗塁数は減ってきました。捕手はやはり古田敦也さん(元ヤクルト)と谷繁元信さん(元横浜ほか)ですね。
【二塁コンバート3年目の進化】
── 一塁は大山悠輔選手(阪神)が2度目の受賞です。
荒木 両リーグ最多の244票を集めました。次点はホセ・オスナ選手(ヤクルト)9票、ジェイソン・ボスラー選手(中日)4票です。エレウリス・モンテロ選手(広島)も含め、一塁は強打の外国人選手が多く守りました。ただ、私も一塁は大山選手の一択でいいと思います。
── 一塁はスローモーな選手が守るイメージもありますが、実際は難しいポジションですよね。
荒木 そのとおりです。ワンバウンド送球の捕球、投手からの牽制球、バント処理など、9つのポジションのなかでももっとも守備機会が多く、非常に難しいプレーが求められます。大山選手はもともと三塁を守っていたこともあり、左打者の強烈な打球への反応も速いのが特長です。
── 荒木さんの本職だった二塁は激戦区ですが、結果は中野拓夢選手(阪神)が196票で圧倒的トップ。以下、吉川尚輝選手(巨人)が35票、田中幹也選手(中日)が17票、菊池涼介選手(広島)が17票と、意外な大差がつきました。
荒木 中野選手は、遊撃からコンバートされた2023年に、10年連続受賞中だった菊池選手の牙城を崩し、いきなりゴールデングラブ賞を獲得しました。
しかし今年は、バウンドの合わせ方など、さらにレベルアップして確実にアウトを取っていました。守備範囲も広いですね。とはいえ、守備範囲だけなら田中選手や菊池選手もまだまだ負けてはいません。昨年受賞の吉川選手も華やかさに、堅実さが加わってきました。
── 中野選手は守備範囲も広くて堅実ですが、荒木さんはもっと広かった印象があります。
荒木 阪神の場合、一塁は大山選手なので、一、二塁間の打球をよく捕ってくれますが、当時の中日の一塁は"不動"のタイロン・ウッズでしたから。けっこう働かされましたね(笑)。まあその分、彼はたくさん本塁打を打ってくれましたから。
【派手さよりも安定感】
── 三塁は、佐藤輝明選手(阪神)が昨年両リーグ最多の23失策から今季は6失策と激減し、初めて受賞しました。
荒木 阪神は昨年のチーム85失策(リーグ5位)から、今年は57失策(リーグ最少)へと大幅に改善しました。土のグラウンドを本拠地とするのは阪神と広島(75失策)のみであることを考えると、この数字は大きな価値があります。
ちなみに、巨人は昨年最少の58個から今年は最多の78個になりました。
── 具体的に、佐藤選手の守備はどこがよくなったのですか。
荒木 ゴロ捕球が堅実になりましたし、スローイングも安定してきました。田中秀太コーチと共に、緩いショートバウンド、鋭い三塁線の打球処理の練習をかなり積んだと聞きました。
ただ今年に限って言えば、岡本和真選手(巨人)と村上宗隆選手(ヤクルト)がケガで長期離脱し、中日と広島の三塁に関してはゴールデングラブ賞の有資格者(チーム試合数の1/2以上の出場)がいないなど、いろいろと要因がありました。とはいえ、佐藤選手の守備力が上がっているのは間違いありません。
── ショートは、打率3割に到達した泉口友汰選手(巨人)が守備でも奮闘して初受賞です。
荒木 失策数は11個ですが、少しでもファンブルしたら間に合わないポジションですので、この数字なら十分合格点です。派手さはないですが、安心して見ていられます。とにかく堅実というイメージがあります。
── ライバルたちはどうでしたか。
荒木 昨年ブレークし、アクロバティックな守備に堅実さも加わってきた矢野雅哉選手(広島)ですが、今季は打撃不振で出場機会が減りました。長岡秀樹選手(ヤクルト)はケガの影響があり、森敬斗選手(DeNA)や門脇誠選手(巨人)は伸び悩みました。球際に強い小幡竜平選手(阪神)も、もう一歩というところでしょうか。
【一歩目の速さが際立っていた外野手は?】
── 外野は、岡林勇希選手が(中日)4年連続4度目、近本光司選手が(阪神)5年連続5度目、森下翔太選手(阪神)が初受賞です。
荒木 セ・リーグの9人の受賞者のうち、「2年連続以上」は岡林選手と近本選手の2人だけです。毎シーズン試合に出続けることがいかに難しいか、そしてそのうえでゴールデングラブ賞を獲得することがどれほど大変かを物語っています。
── 受賞理由はどんなところにあると思いますか。
荒木 岡林選手は346刺殺、近本選手は333刺殺、森下選手は312刺殺と、「捕ってアウトにした数」である刺殺がシーズン143試合で300を超えたのはこの3人だけです。順当な受賞と言えるでしょう。
岡林選手と近本選手は俊足を生かした広い守備範囲が際立ち、岡林選手と森下選手は強肩も大きな魅力でした。一方で、上林誠知選手(中日)は「投げてアウトにする」補殺が6でセ・リーグ最多でしたが、刺殺は204にとどまりました。
── ほかに目についた外野手はいましたか。
荒木 DeNAから西武に移籍した桑原将志選手は、打球に対して一歩目の早さが今年も際立っていました。彼を獲得した西武は大きな補強になると思います。また、今回の外野手の議論を通して、一昔前には高橋由伸選手(元巨人)、英智選手(元中日)、福留孝介選手(元中日ほか)といった、捕球、送球ともに卓越した外野手が多くいたことをあらためて思い出しました。
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荒木雅博(あらき・まさひろ)/1977年9月13日、熊本県生まれ。熊本工高から95年ドラフト1位で中日に入団。2002年からレギュラーに定着し、落合博満監督となった04年から6年連続ゴールデングラブ賞を受賞するなど、チームの中心選手として活躍。とくに井端弘和との「アラ・イバ」コンビは中日黄金期の象徴となった。17年にプロ通算2000安打を達成し、翌18年に現役を引退した。引退後は中日のコーチとして23年まで指導し、24年から解説者として新たなスタートを切った










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