61年前のここメキシコシティで、ホンダはF1初優勝を挙げた。

 参戦から2年目のシーズンで、まだ十分な競争力がない時代だったが、懸命な車体改善と、そしてなによりメキシコシティの標高2240メートルという高地の空気の薄さを味方につけた勝利だった。

 航空機のノウハウを生かした空燃比の調整で優位に立ち、勝ったのだ。

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 前戦のアメリカGPで、ホンダはF1参戦500戦目を達成した。初優勝から61年分の経験を積み重ねて、ホンダは今年のメキシコシティGPでどんなレースを見せるのだろうか。

「メキシコシティの最大の特徴は、標高が高いこと。空気密度が低いので、普通のサーキットに比べてTC(ターボチャージャー)の仕事量が多くなります。つまりTCの回転数が高くなるので、そこに制約があって信頼性の観点で必要なだけ回せないと、通常よりも低いブースト(過給圧)で走らなければならなくなります。このサーキットではホンダだけでなく、どのメーカーもターボラグ対策には苦戦すると思います」

 ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニアはこう語る。

 事前のシミュレーションでは、ホンダのTCにはそうした信頼性の懸念はないという。

「今のところ我々のベンチテストでは、ICE(内燃機関エンジン)のオペレーションに影響はほとんどないか、あったとしてもごくわずかで済むと考えています。懸念はありません」

 その一方で、ターボラグについては、いつも以上に難しい制御が求められる。

 ドライバーがコーナーでスロットルを戻している間もICEを稼働させ、その排気ガスでTCを回して過給圧を維持することで、ターボラグの発生を防ぐ。そこにMGU-K(運動エネルギー回生システム)で制動をかけることによって、発電をしつつ、ドライバーのスロットル操作どおりのトルクをギアボックスに伝える。

そのような複雑な制御によって、2026年のパワーユニットはリチャージとターボラグ対策を行なっている。

【メキシコシティは全開率46%】

 メキシコシティでは常にTCが高負荷で回ることになるため、MGU-Kに求められる制御も通常とは違ってくる。

「コーナリング中のハーベスト(発電)量をうまく管理して、それを使ってターボラグを発生させないようにすることが、普通のサーキット以上に大事になってきます。

 ターボラグが発生することによって、ICEのオペレーションポイントも変わってきます。それがドライバビリティに影響を及ぼす可能性があります。ターボラグ管理という点では、カレンダーのなかでも一番難しい。フリー走行のなかでチェックしていかなければいけない重要なポイントです」(折原GM)

 それに加えて、第19戦メキシコシティGPの舞台アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは、メインストレートこそ長いものの低速コーナーが多く、全開率は46%程度とかなり低い。

 そのため、苦戦を強いられたシンガポールと同様にエネルギーが余る傾向にあり、バッテリーが満充電でMGU-Kによる発電ができない場面もある。そうなると、ターボラグ対策ができない。

 この問題について、ホンダはシンガポールでの教訓を生かしてアメリカGPで追加の対策を投入し、効果を確認している。

 日本とは15時間もの時差があるメキシコシティだが、HRC Sakuraでは金曜の夜までベンチテストを行なって、セッティングを最適化するべく作業が続けられた。

「今もHRC Sakuraでテストをやっていますし、そのアップデートされた情報が今日(木曜)、そして明日(金曜)の朝にも来ます。その結果を踏まえて、フリー走行を走り出すデータを準備していきます」(折原GM)

 メキシコシティでは、どのメーカーも多少はパフォーマンスの低下を余儀なくされるはずだ。

そのなかでライバルメーカーたちがしっかりとTCを高回転で作動させられれば、パワーユニットの勢力図は変わらないだろう。

 しかし、もしTCの耐久性に問題があり、高回転で運用できないメーカーがいれば、通常よりも大きく競争力を落とすことになる。そうなれば、勢力図が変わる可能性はある。

【ストレートの不利は小さくなる】

 初優勝した1965年のように、メキシコシティの標高がホンダに味方する可能性もゼロではない。もちろん、逆にホンダが競争力を落とす可能性もゼロではない。

 それほど特殊な環境での戦いであり、新規定のパワーユニットで初めてのメキシコシティでは、何が起きてもおかしくないということだ。

 サーキットのレイアウトとしては、長いストレートが1本あるものの、空気密度が低いためドラッグ(空気抵抗)は小さく、ストレートの不利が小さくなる可能性は高い。

 それ以外は100km/h以下の低速コーナーが8箇所と極端に多い、コンパクトなサーキットである。まさに、前戦オースティンで強みを見せたアストンマーティンのマシンが得意とする領域だ。

 それだけに、チームとしても期待を抱いているとチーフトラックサイドオフィサーのマイク・クラックは語る。

「オースティンでは低速コーナーでかなりよかった。低速コーナーのパフォーマンスにおいては、中団グループよりも上位に位置していたと思う。

ここ(メキシコシティ)は理論上、我々にとってそれほど悪いサーキットではない。自信を持っている。ただ、シンガポールでも同じように話していてあの結果だったから、今回は少し慎重になってはいるけどね」

 空気密度の低さは空力面にも影響を及ぼし、冷却の難しさも伴うため、ひと筋縄ではいかない。なおかつ今年はサーキットの広い範囲が再舗装されており、グリップレベルの変化も見込まれるだけに、未知の要素も少なくない。

 それでも、攻めの姿勢で挑み、最大限のパフォーマンスにつなげようという努力がなければ、パワーユニットにも車体にも、メキシコシティの特殊性が味方することはないだろう。運は勝手についてくるものではなく、自らつかみに行かなければ手に入らない。61年前のホンダがそうであったように。

 オースティンでは望外の競争力を結果につなげられなかったフェルナンド・アロンソも、今回は希望を持っているという。

「オースティンではすごくコンペティティブなレースができたので、メキシコのコースレイアウトではいいパフォーマンスを発揮できると思う。ここまでのシーズンを振り返れば、ポイント獲得を期待するのは目標として難しい。でも、楽観的すぎるかもしれないけど、マシンに対する理解が深まってきているので、今週の決勝はいいレースになるんじゃないかと思う」

 ホンダにゆかりのあるメキシコシティの特殊性は、果たしてアストンマーティン・ホンダに味方してくれるのだろうか。

米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya

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