この記事をまとめると
■モータースポーツ由来の技術で市販車への普及が進んでいないものに「ドライサンプ」がある



■市販車のほとんどに採用されるのはオイルパンにオイルを貯めておくウエットサンプ方式だ



■強い横Gが連続でかかった際に潤滑不良が起こらないように考え出されたのがドライサンプ方式だ



市販車のほとんどが採用するウェットサンプ方式

市販量産車の歴史を振り返ってみると、高性能メカニズムはモーターレーシングや航空機から転用されているものが多いことに気付く。4バルブDOHC、ターボチャージャー、ディスクブレーキなど、思いつくまま挙げてみてもそれこそ数限りがない。



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こうした高性能メカのなかで、古くからありながら市販車への応用というか普及が進んでいないものに「ドライサンプ」方式がある。

人によっては、ドライサンプってなに? と初めて耳にする人がいるかもしれない。



英語で表記すると「Dry Sump」。Sumpとはオイルパン、油溜めの意味で、ドライサンプとは、乾いたオイルパンという意味になる。これに対して、ウエットサンプという言葉があり、直訳すると、湿った(濡れた)オイルパンとなる。文字どおりオイルパンにオイルを溜めておく方式で、市販車で使われる潤滑機構がこの方式だ。



レース由来の優れたシステムだけど市販車にはまだ普及せず! クルマ好きがピクッと反応する用語「ドライサンプ」って何?



もう少し詳しくウエットサンプを説明すると、エンジンクランクケースの最下端にエンジン潤滑用のオイルを溜め、そこからオイルポンプによって吸い上げたオイルをエンジン各部に供給。金属同士が接するエンジン各可動部にオイルを供給することで、焼き付きを防いでいる。また、車種によっては多量のエンジンオイルを循環させることで、冷却の役割を受け持たせているモデルもある。



ドライサンプなら強い横Gがかかっても潤滑不良を起こさない

さて、市販車のほとんどすべてに採用されるウエットサンプ方式だが、オイルパンに溜まったオイルをオイルポンプで吸い上げるため、左右方向に大きな旋回Gが加わった場合にはオイルパン内のオイルが片寄り、空気を吸い込んでしまう場合がある。こうした理由によって潤滑ラインに空気が混入した場合、オイル切れによって正常な潤滑作用が行えなくなり、状況によってはエンジンを焼き付かせてしまうこともある。



市販車による通常の走行で、大きな横Gを受けてオイルパン内のオイルが片寄り、正常な潤滑作用が行えなくなるケースはほとんど考えられないが、何秒か連続的に大きな横Gが加わるサーキット走行では、起こり得る事態である。



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ドライサンプ方式は、こうした潤滑不良が起こらないように考え出された方式で、潤滑用のオイルをオイルパンではなく専用のオイルタンクに溜め、そこからオイルポンプによってエンジン各部に圧送する方式となっている。

このため、クランクケース最下端にオイルを溜めるためのオイルパンが不要となり、その部分を単純にクランクケースカバーとすることで、エンジン全高を低くするメリットも生じている。



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言ってみれば、極限の走りに対応した潤滑系がドライサンプ方式で、レーシングカーには必須の潤滑システムと言えるものだ。なお、ウエットサンプ方式でも、横Gによってエンジンオイルの片寄りを防ぐため、オイルパン内にバッフルプレートを立てる対策方法がある。量産車ベースのレーシングカーではよく使われた方式で、瞬時にオイルが一方に片寄ることを防ぎ、オイル切れが起こらないよう工夫されたオイルパンだ。

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