この記事をまとめると
■クルマやタイヤの限界性能を試すことは容易ではない■サーキットなどのクローズドコースが望ましいが、敷居が高く感じるのも事実
■その点、雪道はドライビングの基本を気軽に学べる条件が揃っている
雪道でドライビングの基本を学ぶことができる
ドライビングテクニックを磨くのは難しい。市街地をスマートに上手に走らせるには、譲り合いの精神とか、思いやりといった心の問題が占める割り合いが多い。舗装路の市街地や郊外路などの操作中心の走り方は教習所でも教わってきているだろうし、免許を取得してクルマを走らせる度に何かしら気付かされることがあるだろう。
しかし、サーキット走行やドリフト走行など、クルマやタイヤの限界性能を試し、ドライビングスキルを磨き上げるのは容易ではない。
一般道では速度規制や法規を遵守しなければならないので、ハイスピードでの車両コントロールをマスターするならサーキットなどクローズドされたコースにいかなければならないだろう。ドリフト走行にしても同じで、一昔前なら人気のない空き地などで練習していた時代もあったが、現代はそうはいかない。
ハイパワーの後輪駆動車でドリフトを試そうにも、とにかく問題は場所だ。サーキットやドリフトコースは全国に沢山あるが、初めて走る時は敷居が高く感じるものだ。
専用のコースに行かなくても、もっと身近にドライビングテクニックを磨く場所はないか。じつは一見危険で難しいと思われる雪道ではドライビングの基本、イロハが学べる環境が揃っている。

まず発進だ。近年のクルマはスタッドレスタイヤを装着していれば、雪道の平坦路で発進に手こずることはまず起こりえないだろう。ATならDレンジに入れてアクセルを軽く踏み込むだけで、まるで普通路面のように発進できるはずだ。これはスタッドレスタイヤの恩恵だけでなく、トラクションコントロール(TC)といった電子デパイスの作動に救われている場面がほとんどだ。試しにTCをオフにしてみると、わずかにアクセルを踏み過ぎただけでも駆動輪が空転し、発進が困難に感じられるはずだ。
後輪駆動でも前輪駆動でも同様で、じつは多くのドライバーはTCに助けられて雪道発進を難なく行えているのである。そこでTCをオフにして、スムースに発進する練習をしてみる。駆動輪の僅かな滑りを感知して、アクセルを微妙にコントロールする。平坦路でマスターしたら、緩い上り勾配での発進も試す。最初にTCオンで試し、発進できることを確認したらオフでトライしてみる。こうすることで微妙なアクセル操作の感覚を身につけ、電子制御が介入しないようなドライビングを身につけることができるようになる。
発進・減速のたびに電子制御の介入を意識することが大切
ブレーキも同様。雪道やアイスバーンの低ミュー路ではブレーキが利き辛い。ブレーキペダルを強く踏み過ぎるとタイヤが滑ってロックし、ABS(アンチロックブレーキシステム)が作動する。制動時もこうした電子制御のアシストが利いて、多くのドライバーは何事もなかったかのように停止することができている。

一般的にABSを解除するスイッチは付いていないので、ブレーキペダルの踏み加減で減速テクニックを磨くのは不可能と思われがち。だが、ABSは制動距離を短くするための装置ではない。
コーナリングの基本は直線部で減速させ、ステアリングを切り込んでコーナーのイン側にノーズを向けさせることが重要だ。そのためにABSは機能させられている。だが絶対スピードが早すぎたら、ABSがフルに介入してもステアリング操舵にクルマは反応しない。切り込んだ操舵輪と路面との間に発生する極小なグリップ力で旋回姿勢に持ち込むには十分な速度に落とす必要がある。直線区間でABSが介入しないレベルでブレーキペダルを操作し、減速を確実に行うのが重要なテクニックといえる。

平坦路ならまだしも、下り勾配では尚更減速が難しい。エンジンブレーキを併用しながら、ブレーキでABSが作動介入しないように速度をコントロールする必要があるからだ。
このように発進や制動時に、如何に電子制御を介入させないように、丁寧にアクセルやブレーキペダルを操作することで、乾燥舗装路での有効な加速や制動時にも活かせるドライビングテクニックの練習ができるというわけだ。雪国のドライバーなら誰でも経験的に学んでいるようなテクニック。

ただ、こうした練習も多くのクルマが行き交う道路で意図して行うのは御法度だ。クローズドされた練習場で行うのが理想的だが、そうした場所はとくに冬季は少ないし費用もかかる。あくまで日常使用の発進、減速の度に電子制御の介入を意識して安全に運転するなかでマスターしていってもらいたい。