この記事をまとめると
■JR宇都宮駅から芳賀町までを結ぶLRTが試験走行の段階に入った



■LRTは欧州ではメジャーだが、じつはクルマ大国と思われているアメリカでも見られる



■気候変動対策にも有効とされるLRTだが、沿線住民による反対運動が起こることもある



新たな交通手段と期待されるLRTが試験走行を開始

栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅から同県芳賀町(工業団地がある)までを結ぶLRT(ライト・レール・トランジット)が開業へ向かい試験走行の段階に入った。LRTとはわかりやすくいえば路面電車のことであるが、低床車両を導入し乗降を容易にするなどした、「次世代型路面電車システム」と日本語では表現されている。



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宇都宮のLRTが注目を浴びているのは、歴史上その場所にかつて路面電車が存在しなかった場所に、まったく新しい路線として開業するところにある。



関東地区とはいうものの、北関東地区と呼ばれる、群馬、栃木、茨城県ではクルマがないと日常生活の移動では不便を強いられることも多く、運転免許取得可能年齢の家族のぶんだけクルマを一家で保有しているといわれるぐらいの「クルマ県」となっている。宇都宮LRTも工業団地への通勤利用車による渋滞緩和なども目的に開業をめざしている(最近はマイカー利用の削減などによる気候変動問題対策という側面も注目されているようだ)。



栃木県で現代の路面電車「LRT」がまもなく開通! アメリカでは「公共交通」の充実が「反対」されるナゼ



LRTは欧州の都市では風景のひとつといってもいいぐらい当たり前なものとなっている。しかし、自動車大国アメリカでも意外なほど都市ではLRTが走っているのである。アメリカでもとくにクルマが生活に欠かせないとされるロサンゼルス地区や、GM(ゼネラルモーターズ)やフォード、クライスラー(ステランティスグループ)の本拠地のあるデトロイト地域でも、LRTは走っているのである。



ここで紹介したロサンゼルスやデトロイト市では、かつて路面電車が走っていたこともあるので、宇都宮のような新規路線ではない。



アメリカでは交通の便が良くなりすぎるのも問題あり?

事情通は「日本でも路面電車が走っていたものの廃線となった都市があります。そのとき日本では線路を撤去して再舗装していたと聞きます。ところが、アメリカでは線路をそのままにしてアスファルトなどで埋めてしまっていたと聞いています。そのため、それを掘り起こして整備して復活の際に使っていると聞いています。つまり、まったく新規に線路を引く必要のないケースもあり、日本より復活が容易なのだと聞いたことがあります」とのこと。



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実際調べてみると、そのまま使っているとは思わないが、ロサンゼルス郡都市圏交通局A線では、1961年に廃線となった、パシフィック電鉄ロングビーチ線の廃線跡などを転用しているとのことであった。



そもそもは渋滞緩和などでLRT復活が検討されたのだろうが、最近ではクルマ利用が抑制できるとした、気候変動対策でもLRTの導入は注目されている。LRTというよりは、路面電車というほうがしっくりくるが、南カリフォルニアのサンディエゴ市中心部からメキシコ国境までを結ぶ路線など、複数路線が用意されている「サンディエゴトロリー」は、筆者もサンディエゴ中心部に宿を取り、メキシコ側国境の街となるティファナへ買い物に行くとき利用したことがある。筆者が乗った路線では、多くの駅前(停留所前?)に広大な駐車場が用意され、“パーク&ライド”が可能となっていた。



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ロサンゼルスでさえ、LRTが走る時代となっているのだが、路線バスはともかく、地下鉄も含んで公共交通機関の新規開業計画が発表になると、アメリカでは日本ではあまり考えられない反対運動が起きることがある。それは、着工予定路線の沿線住民による「治安が悪くなる」という反対運動である。



そのロジックとは、とくに公共鉄道が開業することで、バスより周辺地域へのアクセスが簡単となり、犯罪者が鉄道を利用して窃盗などの犯罪を起こしにやってくるというのである。裕福な地域でそのような反対運動が起きやすいのだが、当然そのような家庭では家政婦さんなどを雇っているので、そのような人たちの通勤も楽になるので良いように思うのだが、治安が悪くなるというイメージが優先してしまうようだ。



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地元に住む事情通によると、「確かに、最近の犯罪傾向としては路線バスなどを利用して遠征して犯罪を起こす集団も目立っているので、考えすぎというわけでもないでしょう」とのこと。クルマで目的地へ向かおうとすると、警察官による職務質問にあうリスクが高いこともあるようだ。そして最近では、ライドシェアサービスを移動の足として利用し、強盗に入ったという事件も報道されている。



筆者は以前カリフォルニアナンバーのレンタカーで、ラスベガス近くの新興住宅地を見に行ったら、セキュリティのクルマにフリーウェイに入るまで追尾されたことがある。最近は「ゲートハウス」などと呼ばれ、広大な住宅団地の周囲を壁で囲む新興住宅地も多くなっている。

防犯対策にかなりの金銭的も含めエネルギーを注いでいるのは理解できなくもない。ただ、「公共交通機関が充実すると犯罪増加に結び付きかねない」と反対運動を起こすのは、日本ではなかなか思いつかない発想であるととも、それがアメリカなんだなと考えさせられた。

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