この記事をまとめると
■気温が低くなることによるクルマへの影響を解説■暑いより寒いほうが好ましいことが多い
■EVの走行距離は冬場のほうが短い
クルマは夏よりも冬のほうが得意!?
今年の「大寒」は1月20日。この日が1年で一番寒さが厳しくなる頃といわれている。人間の場合、暑さに強い人と寒さに強い人にわかれるが(生物学的には、体内で代謝熱を生み出す恒温動物の人間は、寒さよりも暑さに強い動物で、寒さの克服が大きな課題)、クルマの場合どうなのだろう?
一般的なガソリンエンジンの熱効率は、軸出力(エンジン出力)が3割、熱損失が3割、排気損失が3割といわれているので、もうほとんどが熱との戦いだ……。
もう少し、具体的に説明すると、気温が低ければまず水温・油温の管理がラクになる。夏場の炎天下では、水温・油温も非常に高く、冷却ファンは全開で回り、吸気温度も高温に。場合によってはエンジンの負担を減らすために、リタードが入り点火時期を遅角。結果としてエンジン出力を絞ることも珍しくない。
エアコンもガンガン回すので燃費が悪くなり、タイヤも熱ダレによりグリップもフィーリングも低下。バッテリーも気温が高いと放電しやすくなって、バッテリーが上がりやすくなることも知られている。ブレーキだって夏場のほうがフェードしやすいし、ベーパーロックも心配。クラッチフルードにも気泡が入りやすくなって、クラッチの切れが悪くなることも。

一方、気温が低いと空気の密度が濃くなるので、エンジンの吸入空気量が増える。外気温が20度も下がれば、空気密度も3~4%ぐらい変わる。大雑把ないい方をすれば、NAエンジンでも外気が15度になれば、35度のときよりも3%ぐらいエンジン出力が向上すると考えていい。
サーキット走行を楽しんでいる人ならわかると思うが、同じ仕様で一番タイムが出るのは真冬で、筑波で1秒前後、FSWで3秒近くはベストタイムが変わってくる。
冬場のチョイ乗りはダメージが増す
では寒いことによるデメリットはないのかというとそんなことはない。
まず寒いとバッテリーが弱くなる。低温になると、バッテリー内部の化学変化が弱まり、電圧が低下してしまうからだ。
また寒い時期はエンジンの始動性も悪くなるので、始動時にガソリンが濃いめに噴射される。そのためチョイ乗りを繰り返すとガソリンでオイルが希釈され、オイルの劣化が早くなる(冬場のチョイ乗りはバッテリーにも厳しい)。

そしてタイヤも寒いところが苦手。夏用タイヤだと外気温が7度を下まわると、グリップ力が一気に低下する傾向がある。
タイヤ以外のゴム製品、樹脂パーツも寒い時期は硬化して割れやすくなったり、劣化しやすいので要注意。
そして前述のとおり、寒くなると空気密度が高くなるので、じつは空気抵抗も増える。自転車=ロードバイクの世界では、寒くなると速度が遅くなるというのはよく知られているが、これは空気抵抗が増えるため。
クルマの場合、低温になって空気密度が増えても、エンジンの吸入空気量が増えるメリットのほうが勝るので、タイムアップにつながるわけだが、空気抵抗が増えるのはひとつの事実(エアロパーツによるダウンフォースも増える)。

そのほか、クーラントやウォッシャー液の凍結対策(濃度調整)も必要だし、ディーゼル車なら軽油も寒冷地用が必要になることも(じつはガソリンも夏用と冬用では揮発性が違う)。
さらに融雪剤を撒いている地域では、シャシーの下まわりの防錆、洗浄にも気をつけたいところ。
もちろん、オイルや水温が温まるまでの、暖機走行(止まったままの暖機運転ではない)も丁寧にやっておくことが、クルマを長持ちさせる秘訣になる。
最後に、EVにも触れておこう。
すでに説明したとおり、気温が低いとバッテリー内部の化学変化が弱まり、電圧が低下するという問題がある。

そのため、バッテリーの温度を保つための「バッテリーヒーター」を備えているEVが多いが、このバッテリーヒーターのために電力を消費することになるので、どうしても冬場の走行距離は短くなる。
おまけに、EVは室内を温めるためのヒーターにも、エンジンの熱を利用できないので、電力を使う。夏場にエアコンを使うより、冬場にヒーターを使った方が、電力の消費は多く、エアコンを使わない春や秋に比べ、冬場は10~15%ぐらいは電費が悪くなってしまう。そういう意味で、EVに限っては、冬場のほうが苦手かもしれない。