この記事をまとめると
■カワサキモータースジャパンの桐野栄子代表取締役社長にインタビュー■カワサキのオフロード四輪の魅力を多くの人に知ってもらいたいというのが導入のきっかけ
■ゼロエミッション社会を見据えた活動も行なっている
社長に聞く「オフロード四輪を国内に持ち込んだ理由」
先の試乗記でお伝えしたように、主に北米で売れているカワサキのオフロード四輪車を、カワサキモータースジャパンが正規輸入・販売する。アメリカでは年間で万単位の販売実績があり、かなり大きな市場を形成しているのは事実だが、いまのところ日本ではニッチなカテゴリーのモビリティとなる。はたして、カワサキが正規販売する狙いとは? カワサキモータースジャパンの桐野英子代表取締役社長に話をうかがった。
カワサキモータースジャパンの管轄するオフロード四輪車の正規販売店は、ひとまず日本全国で8店舗、初年度の販売目標は20台だという。無礼は承知で「けっして儲かるわけではないオフロード四輪車を日本導入するのはなぜですか」とストレートな質問を投げかけると、桐野社長は「こんなにも素晴らしい、イイ乗りものがあることを知ってほしいし、多くの人に安心して乗ってほしいから」と答えてくれた。

そのように考えるキッカケとなったのは、少し前の話になる。桐野さんがフランスの現地法人に在籍していた際、アルプスの山中で開催されたイベントにおいて、オフロード四輪車を運転する機会があったという。そのときの印象は「こんな楽しい乗りものを自分たちカワサキが開発しているなんて!」というものだったという。
ご存じのようにサイド・バイ・サイドなどと呼ばれるオフロード四輪車の市場は、グローバルに見ても大半が北米で、ついでオーストラリア、その他のエリアは本当に小さな市場しかない。日本においては正規導入されているのは、ポラリス社の製品くらいで、そもそも市場が成立しているかどうかもわからないという状況にある。バイクやジェットスキーでは高い認知度を誇るカワサキ・ブランドではあるが、この手のオフロード四輪車を製造していることを知っているのは日本でもごくごく一部の人たちだろう。

「カワサキが作っているオフロード四輪車を、日本の人が知らないままなのはもったいない」。だからこそカワサキモータースジャパンが正規に導入する意義があるというのが桐野さんの考えだ。
ゼロエミッションも見据えた活動も
カワサキのオフロード四輪車は、専用エンジンと遠心クラッチCVTというパワートレインを基本としている。そのため運転自体は非常に簡単だ。

だからといって、無茶な運転をすると横転してしまうこともあるのがオフロード走行。カワサキモータースジャパンが正規販売するということは、安全な運転方法を啓蒙していくことが前提だ。もちろん、メーカー直系であるカワサキモータースジャパンの販売であるから、修理に必要なパーツ供給についても安心できる。当然ながら売りっぱなしになるはずもなく、メンテナンスについてのしっかりとしたフォローも準備しているという。
カワサキのオフロード四輪車はATとはいえシフトポジションにP(パーキング)はなく、駐車時にはN(ニュートラル)が基本ポジションで、走行する際にはL(ローギヤ)とH(ハイギヤ)をシーンに合わせて適切に選ぶ必要がある。こうした部分のレクチャーをきちんとすることが安全にオフロード四輪車を走らせるためには必須。コクピットドリルについてもわかりやすいマニュアルを作るなどしているのはさすがだ。

あらためて筆者が試乗した感想をまとめれば、カワサキのオフロード四輪車はエンジンを感じるモビリティであり、走りはダイレクトかつリニアリティ感にあふれるもの。つまり乗っていることが単純に楽しく、何とも似ていないファンビークルだった。オフロードバイクを四輪にして安定させたわけではなく、クロカン4WDの廉価版というわけでもない。

「オフロード四輪車」という、まったく異なる個性を持ったモビリティであった。
特殊な例を除いて、ナンバーをつけることができず、クローズドコース限定の乗りものとなってしまうためオーナーを選ぶが、お金に超絶余裕があればコースを整備してドライビングを楽しみたいと心底思わせる魅力があるのも事実。桐野さんが「ぜひ日本の皆様に乗ってほしい」と願う気持ちは十分に理解できる。
そうした強い思いをマーケットが受け止め、日本でもオフロード四輪車の市場は成立することを期待したい。

ちなみに、トヨタやデンソー技術協力のもと、TERYXの水素エンジンバージョンも製作されている。ゼロエミッション時代にも趣味の乗りものとしてカワサキのオフロード四輪車は生き残ることだろう。