この記事をまとめると
■最近はスポーツモデルに限らず多くのクルマにパドルシフターが装備されている■そもそもパドルはモータースポーツで素早くラクにシフト操作ができるように開発されたもの
■CVTやトルコンATなどの普通車ではスポーツフィールを演出しているだけのものもある
スポーツモデルに軽自動車まで何でもかんでもパドル付き
最近のクルマにはステアリングやステアリングコラムにパドルシフター(以下パドル)が装備されているものが多い。以前はスポーツカー専用の装備ともいえたが、軽自動車やハイブリッド車、PHEVなどの電動化モデルにも装備例が増え、その扱い方に困惑しているユーザーも多いのではないだろうか。
そもそもパドルはどのような背景で登場したのかというと、モータースポーツシーンでの操作性の向上が主目的だった。
コーナーの多いサーキットではドライバーはほぼ片手でステアリングを操舵しなければならないほどだった。速いマシンになるほど片手での操舵は大変で、ドライバーを悩ます問題といえた。F1でも同様で、モナコGPでは1レース中に3000回ものシフト操作が必要といわれ、ドライバーの手にはシフトダコができてしまう。

時代が大きく動いたのはシーケンシャルギヤシステムが採用されるようになってからだろう。オートバイのトランスミッションのように、シフトレバーを順次操作することで変速可能なシーケンシャルギヤは、操作性の悪かったHパターンをIパターンに変更することとなり、ドライバーはシフトレバーを押すか引くだけで変速可能となる。
変速機構が単純化されたことでアクチュエーターを装着し、より操作を簡略化させたのがパドルシフトなのだ。パドルの採用でドライバーはステアリングを両手で保持したまま変速操作が可能となった。シフトをパドル化しただけでサーキットのラップタイムは1秒以上短縮し、ラリーステージでは操作ミスも激減してモータースポーツ界では一気に採用が拡大。F1を初めル・マンカーなど、ほとんどがパドルを備えている。

パドルにはステアリングスポークに装着されるタイプとステアリングコラムにレバーを装着したタイプがある。
必ずしも速く走れるようになるとは限らない
市販車の場合は、シーケンシャルトランスミッションではなくDCT(デュアルクラッチトランスミッション)の登場によりパドルが普及したといえる。また、パドル化によりCVTやATのマニュアル変速モードでもパドルを活用でき、さらに電動モデルの場合は回生強度の変更によるエンジンブレーキ効果をパドルで調整するケースもでてきた。

レーシングカーは仕組みの如何にかかわらずフルオートマチックトランスミッションが禁止され、ドライバーは最低限パドルによるシフト操作が求められるが、それでもHパターンの時代を知る者にとっては、天国と地獄ほどの差を感じるのだ。
一般車の場合はフルオートマチック化が可能なので、パドル付モデルはほとんどDレンジを備えている。つまり、パドルを操作しなくても走行可能なのだが、エンジンブレーキを強めたいとか、スポーティフィールを味わいたいとかいった場面でパドルが活用されている。

ちなみにDCTのスポーツモデルでサーキット走行する場合は、パドルを使用して好みのギヤを選択して走るよりDレンジのフルオートマチックで走ったほうが速い。これはDCTの場合、機構的にプリセレクト機能が備わっており、その作動のために油圧を高く維持しておく必要があってパワー損失が大きいからだ。それは10~15%程度に及び、加速を鈍らせている。ランエボXや日産GT-R、メルセデスAMG、ポルシェなど、DCTモデルはすべてDレンジのほうが速いラップタイムを刻める。
一方で、シングルクラッチをオート化したモデルやDレンジのキャリブレーションが最適化されていないモデルではマニュアルモードのほうが速い。
CVTやトルコンATなどの普通車では、パドルを操作する意味はほとんどないといってもいいだろう。こうしたモデルでは、ただスポーツフィールを演出しているに過ぎず、無駄な装備といわれても仕方がないようなクルマも少なからず存在している。

こうした特性を理解した上で、パドル仕様の選択、活用を考えてみて欲しい。